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大学・研究所にある論文を検索できる 「生体適合性高分子ナノミセルを用いた脳由来神経栄養因子(BDNF)mRNAデリバリーによる海馬CA1遅発性神経細胞死治療」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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生体適合性高分子ナノミセルを用いた脳由来神経栄養因子(BDNF)mRNAデリバリーによる海馬CA1遅発性神経細胞死治療

福島, 雄大 東京大学 DOI:10.15083/0002001640

2021.09.08

概要

I 序文
心原性心肺機能停止症例における蘇生後脳症は、生存率の低下や神経学的予後増悪の要因である。迅速な心拍再開が得られた症例でも重篤な蘇生後脳症が後遺しうることが知られており、これは遅発性神経細胞死という特徴的な細胞死が海馬神経細胞に生じることによる。有効性が示されている治療法は低体温療法のみであり、有効な薬剤開発は急務である。

遅発性神経細胞死のメカニズムと神経保護薬開発研究の歴史において、神経細胞のグルタミン酸受容体の活性化による細胞内 Ca2+上昇がもたらす神経毒性は大きな関心を集めたが、複数のグルタミン酸受容体拮抗薬による臨床治験は重篤な副作用のため中止となった。これまでの研究の多くは遅発性神経細胞死が神経細胞の選択的脆弱性に起因するという仮説に基づいて行われたものであったが、近年の研究により細胞外グルタミン酸除去を行うアストロサイトが海馬遅発性神経細胞死のメカニズムに大きく関与していることが示されている。つまり、一過性全脳虚血により生じる海馬遅発性神経細胞死は、海馬局所的な神経細胞とグリア細胞の様々な相互作用によりもたらされる現象であると推測される。

そこで、海馬遅発性神経細胞死に対し、神経細胞の細胞生存効果をもたらすことが知られ、またグリア細胞伝達物質として神経細胞-グリア細胞コミュニケーションにも深く関与していることが示されている、脳由来神経栄養因子(BDNF)の核酸薬、特に mRNA 核酸薬を海馬局所に発現させる治療戦略を着想した。東京大学大学院工学系研究科片岡一則研究室で開発されたナノミセル mRNA デリバリー技術を用いて、ラット一過性全脳虚血モデルに対し BDNF 発現 mRNA を脳室内投与し、海馬局所に BDNF 発現 mRNA を導入することで得られる神経保護効果を検証することとした。ナノミセル mRNA デリバリーは、1)迅速で持続的なタンパク質発現が得られる、2)ホストゲノムへ取り込まれる危険性が理論上ない、3)プロモーターが不要で、効果発現する細胞種を選ばない、などが特徴として挙げられ、この特徴は蘇生後脳症に合致するものであると考えられた。

II 方法
・対象:ラット一過性全脳虚血モデル
本研究室で複数の研究で用いられてきたラット一過性全脳虚血モデルを用いた。これは、予め両側椎骨動脈を凝固切断した上で、両側総頚動脈を 6 分間一時遮断し、かつ脱血による低血圧を組み合わせることで海馬 CA1 錐体細胞に選択的な細胞死を誘発する。この細胞死プロセスでは、2 日間程の細胞生存の後、数日間の経過でほぼ全ての CA1 錐体細胞が細胞死に陥る。

・mRNA ナノミセルの調製と定位的側脳室内投与
生体適合性ポリマーであるポリエチレングリコール(PEG)と、カチオン性高分子からなるブロック共重合体を mRNA と混合することで、表面が PEG で覆われ、中心部分に凝縮した mRNAを内包する高分子ナノミセルが形成される。これにより mRNA の in vivo 導入における大きな問題点である不安定性を克服する。 カチオン部分は poly{N’-[N-(2-aminoethyl)-2- aminoethyl]aspartamide} (PAsp(DET))を用いた。BDNF 発現 mRNA 2μg/10μl 溶液とし、定位的にラット側脳室内に投与した。

・BDNF タンパク質を発現する細胞種の同定と神経保護効果の判定
固定した脳組織から作成したパラフィン切片を用いた。BDNF とそれぞれ MAP2・GFAP・APCとの免疫二重染色によりBDNF 発現細胞を同定した。また NeuN に対する免疫組織染色により、海馬 CA1 の生存神経細胞数を計測し、神経保護効果の判定を行った。

・Y 迷路試験による短期記銘力評価
3 本のアームが 120°ごとに連結された装置内でラットを 8 分間自由に移動させた際に、3 回連続して異なるアームへ進入した回数の、アームへの総進入回数から 1 を引いた値に対する割合で算出される Spontaneous alteration を用いて短期記銘力を評価した。

III 結果
・PEG-PAsp(DET)を用いた mRNA の側脳室内投与によるタンパク質発現の持続時間
分泌型ルシフェラーゼ Gaussia luciferase 発現 mRNA を PEG-PAsp(DET)を用いて側脳室内投与し、大槽より採取した脳脊髄液を用いて相対発光量を測定し、タンパク質発現時間を計測した。投与 4 時間後には十分なタンパク質発現が得られており、以後低下したものの、2 日間以上の持続的なタンパク質発現が得られた。

BDNF 発現 mRNA を同様にナノミセルとし側脳室内投与した。摘出した海馬組織を用いて ELISA 法により BDNF タンパク質量を定量した。投与 4 時間後の時点でタンパク質量の上昇傾向を認め、以後 48 時間後まで持続的な上昇を認めた。

・BDNF 発現 mRNA ナノミセルによる遅発性神経細胞死治療
まずは一過性全脳虚血 6 日後に解析を行うこととし、持続的なタンパク質発現が得られるように、虚血 1, 48, 96 時間後の計 3 回 BDNF 発現 mRNA ナノミセルを側脳室内投与した。BDNF発現 mRNA ナノミセル投与群で、無虚血群比 60.7%の NeuN 陽性生存神経細胞を認め、これは Luciferase(Luc)発現 mRNA ナノミセル投与群での 5.09%に対し有意差をもって高い値であった。

・BDNF タンパク質を発現する細胞の同定
BDNF 発現 mRNA を翻訳し、BDNF を産生する細胞種を同定するために、一過性全脳虚血 12時間後に BDNF 発現 mRNA ナノミセルを側脳室内投与し、虚血 48 時間後の脳切片を用いて、 BDNF と、それぞれ MAP2・GFAP・APC との免疫二重染色を行った。Luc 発現 mRNA ナノミセル投与群と比較し、BDNF 発現 mRNA ナノミセル投与群では BDNF の高い染色性を認め、GFAPとの二重染色において共陽性の所見を認めた。投与された BDNF 発現 mRNA が、主にアストロサイトで翻訳されていることを示す所見であった。

・BDNF 発現 mRNA ナノミセルの単回投与による治療
迅速な発現が得られる mRNA デリバリーの特徴を生かし、一過性全脳虚血後様々なタイミングでの BDNF 発現 mRNA ナノミセルの単回投与による治療実験を行うこととした。虚血後 1 時間、24 時間、48 時間、72 時間、96 時間の 5 タイミングで単回投与し、6 日後の脳切片を解析した。48 時間後に単回投与した群で無虚血群比 52.3%の生存神経細胞を認め、これは有意差をもって高い値であった。

・BDNF 発現 mRNA ナノミセルによる遅発性神経細胞死治療の長期経過
BDNF 発現 mRNA ナノミセルを一過性全脳虚血 2、5 日後の 2 回投与群、BDNF 発現 mRNAナノミセルを虚血 2 日後のみ投与し 5 日後は Luc 発現 mRNA ナノミセルを投与した群、Luc 発現 mRNA ナノミセルを虚血 2、5 日後の 2 回投与した群の計 3 群に対し、それぞれ虚血 6、13、 20 日後の脳切片で生存細胞数を計測した。BDNF 発現 mRNA ナノミセルを虚血 2 日後のみ投与した群の 13、20 日後における無治療群比での生存細胞率は 9.39、14.8%と、6 日後と比較し低下する傾向を示したが、BDNF 発現 mRNA ナノミセルを虚血 2、5 日後の 2 回投与した群では、それぞれ 57.7、59.0%と低下せず、これは有意に高い値であった。BDNF 発現 mRNA ナノミセルを一過性全脳虚血 2、5 日後の 2 回投与することで、遷延性の細胞死シグナルが長期的にも抑制されることを示唆するものである。

・Y 迷路試験による短期記銘力評価
一過性全脳虚血20 日後における空間認知短期記銘力評価をY 迷路試験により施行した。BDNF発現 mRNA ナノミセルを虚血 2、5 日後の 2 回投与した群、Luc 発現 mRNA ナノミセルを虚血 2、5 日後の 2 回投与した群、無虚血群の 3 群間で比較した。Luc 発現 mRNA ナノミセル投与群と比較し、BDNF 発現 mRNA ナノミセル投与群で有意に高い交替行動率が得られた。

IV 結果の要約、考察
ラット一過性全脳虚血モデルに対し、PEG-PAsp(DET)を用いた mRNA デリバリー技術によるBDNF 発現 mRNA の側脳室内投与が有効な神経保護効果をもたらすことが示された。

海馬局所的な神経細胞とグリア細胞の様々な相互作用により生じると考えられる遅発性神経細胞死において、主にアストロサイトで投与された BDNF 発現 mRNA が翻訳され、神経細胞の生存効果が得られたことが示唆された。BDNF 発現 mRNA ナノミセルを一過性全脳虚血 48 時間後に投与することで最も高い神経保護効果が得られるが、この効果を長期間維持するためには、追加投与を要した。BDNF 発現 mRNA ナノミセルが治療標的としている細胞死シグナルが一過性であることを示唆するものである。

V 結語
ナノミセル mRNA デリバリー技術を用いた BDNF 発現 mRNA 脳室内投与の、ラット一過性全脳虚血後海馬遅発性神経細胞死に対する神経保護効果を検証した。アストロサイトが BDNFを発現することで、時間依存的な神経細胞保護効果が得られた。治療薬が存在しない蘇生後脳症に対する有効な神経保護薬となる可能性が示された。

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