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大学・研究所にある論文を検索できる 「イムノグロブリンスーパーファミリーメンバー8の正常造血と骨髄性白血病における役割の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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イムノグロブリンスーパーファミリーメンバー8の正常造血と骨髄性白血病における役割の解明

神保, 光児 東京大学 DOI:10.15083/0002007012

2023.03.24

概要

[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名 神保 光児
本研究は骨髄性白血病の新規治療標的を呈示することを目的とし、既に造血器腫瘍の進
行に関わることが指摘され始めているテトラスパニン蛋白質 CD9、CD81 に直接結合する細
胞表面分子であるイムノグロブリンスーパーファミリーメンバー8 (IGSF8) に着目し、主に
Igsf8 コンディショナルノックアウトマウスを用いて正常造血と骨髄性白血病における機能
解析を行うことで Igsf8 の役割を検討したものであり、下記の結果を得ている。
1.

野生型 C57BL/6J (B6) マウスの骨髄細胞で Igsf8 は mRNA、蛋白質共に広範な発現を認
めた。Igsf8 の機能解析のため造血細胞特異的 Igsf8 欠損マウス (Igsf8fl/fl; Vav-Cre) を用
いた。Igsf8fl/fl; Vav-Cre マウスは正常に誕生し、見かけ上野生型マウスと相違なく発育
した。また、同マウスの解析で Igsf8 欠損は末梢血と骨髄の細胞数と特定分画の割合に
ほとんど影響を及ぼさず、Igsf8 はマウスの成体型造血の定常状態において大きな役割
を果たしていないことが示された。

2.

Igsf8 が造血幹細胞 (HSC) に及ぼす影響を調べるため Igsf8-/- LT-HSC (CD34- Flk2c-Kit+ Sca-1+ Lineage-細胞) を用いて in vitro でのコロニー形成能と競合連続移植実験で
in vivo での造血再構築能を評価した。Igsf8 欠損はコロニー形成能を有為に減少させ、
移植後 16 週以降と 2 次移植後の造血再構築能を有為に低下させたことから、Igsf8 欠
損は HSC のコロニー形成能と造血再構築能に負の影響を及ぼしていることが示された。

3.

Igsf8 が骨髄性白血病に及ぼす影響を調べるため、マウスの骨髄細胞に MLL-AF9 と
NRASG12V を導入した急性骨髄性白血病 (AML) モデル、BCR-ABL と NUP98-HOXA9 を
導入した慢性骨髄性白血病急性転化 (CML-BC) モデルを構築した。これらの細胞でも
Igsf8 が発現していることを確認した。Igsf8 のノックダウンとノックアウトにより AML
細胞、CML-BC 細胞の in vitro でのコロニー形成能が低下し、同細胞移植後マウスの in
vivo での生存が有意に延長した。AML 発症後の Igsf8 欠損効果を調べるため、Igsf8fl/fl;
Rosa26-CreERT AML 細胞を移植し、AML 発症後にタモキシフェンを投与して Igsf8 欠
損を誘導すると、このモデルにおいても Igsf8 欠損群で生存が延長し末梢血、骨髄、脾
臓の AML 細胞が著明に減少していた。また、Igsf8 欠損は白血病細胞の骨髄へのホー
ミング能に影響を与えず、AML 細胞の S 期減少、Lineage- c-Kit+分画の AML 幹細胞
(AML LSC) のアポトーシス亢進を誘導し、AML マウス脾臓細胞の LSC 割合を低下さ
せた。これらの結果から、Igsf8 が骨髄性白血病の発症と維持に重要な役割を果たして
おり、Igsf8 の欠損は LSC のアポトーシスを誘導し AML 進行を妨げることが示された。

4.

Igsf8 による骨髄性白血病制御のメカニズム追求のため、Igsf8fl/fl もしくは Igsf8-/-での
AML LSC、CML-BC LSC、正常 LT-HSC で RNA シーケンス解析を行うと、Igsf8-/- LSC
における Wnt/β-catenin 標的遺伝子群の発現低下とアポトーシス関連遺伝子群の増加を
認め、LT-HSC ではこの傾向がないことが判明した。また、Igsf8 欠損白血病細胞は
β-catenin 蛋白質発現が低下していたが、リン酸化 S33-β-catenin の発現が上昇し、Wnt3a
で β-catenin 蛋白質発現上昇を認めず、GSK-3 阻害薬 (CHIR99021) とプロテアソーム
阻害薬 (MG132) においては β-catenin 発現が回復した。またリン酸化に抵抗性のヒト
β-CATENIN (β-CATENINS33Y)、変異のない β-CATENIN を Igsf8-/- AML 細胞に過剰発現
させると、いずれもコロニー形成能を救済したが、β-CATENINS33Y 過剰発現ではコロ
ニー形成能と β-CATENIN 発現をより救済した。これらの結果から骨髄性白血病での
Igsf8 欠損が β-catenin destruction complex からの β-catenin のリン酸化亢進を引き起こし、
プロテアソーム分解に導くことが示された。

5.

Igsf8 欠損とテトラスパニン蛋白質の関連を調べた。Igsf8 欠損は AML LSC の CD9 と
CD81 の発現減少を引き起こし、CD9 の強制発現は Igsf8-/- AML 細胞のコロニー形成
能と β-catenin 発現を部分的に救済したが CD81 の強制発現は影響を及ぼさなかった。
この結果から Igsf8 は CD9 と強調して β-catenin 発現と AML 細胞増殖に関わっている
ことが考えられたが、CML-BC 細胞では Igsf8 欠損が CD9 や CD81 の発現を変化させ
ず、この機序は AML 細胞でのみ生じていることが示された。

6.

ヒト骨髄性白血病細胞と IGSF8 の関連を調べた。IGSF8 は患者由来 AML 細胞、CML-BC
細胞と骨髄性白血病腫瘍細胞株において広範に発現し、IGSF8 のノックダウンはこれ
らの細胞のコロニー形成能を低下させた。IGSF8 ノックダウンは MV4-11、SKM-1 細
胞の β-CATENIN 発現低下と β-CATENIN の標的遺伝子の mRNA 発現低下を誘導し、
Wnt3a、CHIR99021、MG132 への反応も Igsf8 欠損マウス AML 細胞と同様であった。
また MV4-11 細胞を用いて Wnt 共受容体の共免疫沈降を行うと、IGSF8 ノックダウン
は Wnt 共受容体の結合性を低下させていたことが示唆され、これが IGSF8 発現減少が
Wnt3a への反応性を低下させた原因と考えられた。MV4-11 の NSG マウスへの異種移
植モデルでは IGSF8 ノックダウンにより末梢血キメリズム低下と生存の延長を示し、
IGSF8 発現低下はヒト骨髄性白血病においても β-CATENIN の分解亢進を介して、増殖
や進行を抑制していることが示された。

以上、本論文は Igsf8 が成体型造血の定常状態においては必須でないが造血幹細胞の造血再
構築能に関わること、Igsf8 欠損が β-catenin の分解を誘導するとともに LSC のアポトーシス
を誘導し骨髄性白血病の進展を妨げることを明らかにした。本研究は Igsf8 が骨髄性白血病
の β-catenin 発現に関連するという新たな知見とともに、正常造血への限定的な影響から
IGSF8 が骨髄性白血病の新規治療標的となる可能性を呈示し、骨髄性白血病治療に重要な貢
献をなすと考えられる。

よって本論文は博士( 医学 )の学位請求論文として合格と認められる。

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