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大学・研究所にある論文を検索できる 「ASXL1変異由来クローン性造血は動脈硬化を促進する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ASXL1変異由来クローン性造血は動脈硬化を促進する

佐藤, 成 東京大学 DOI:10.15083/0002005098

2022.06.22

概要

急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia: AML)及びその前病変として知られる骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndrome: MDS)などの骨髄性造血器腫瘍では、貧血や血小板減少、白血球減少による易感染状態などの症状を呈するが、近年そのような検査異常や症状を伴わずに、加齢に伴って血球における体細胞変異を有するクローンの拡大がみられることがわかってきた。この現象はクローン性造血(clonal hematopoiesis of indeterminate potential: CHIP)と呼ばれ、遺伝子変異はDNMT3A、TET2、ASXL1といったエピジェネティック制御遺伝子が多くを占めている。CHIPを有する患者は造血器腫瘍の高リスクであるが、新たに心血管疾患の高リスクであることが明らかとなり、大きな注目を集めている。最近TET2ノックアウトやJAK2V617F変異といった造血細胞増殖を亢進させることが知られている変異によって動脈硬化が促進されることを示した論文が相次いで報告されたが、これらの遺伝子変異モデルと異なりASXL1変異は造血再構築能を低下させることが報告されており、心血管疾患に関連する機序は明らかでない。

 当研究室ではASXL1で造血器腫瘍の患者で多く見つかる変異であるヒトASXL1E635fsx15変異をRosa26遺伝子座に挿入した変異型ASXL1コンディショナルノックイン(ASXL1-MTcKI)マウスを作製した。このマウスをVav-creトランスジェニックマウスと交配し、造血器特異的にASXL1-MTを発現させたASXL1-MTcKIマウスは、造血器腫瘍の発症に至らず、クローン性造血のモデルとなりうる。本研究ではこのASXL1-MTcKIマウスを用いてASXL1変異由来造血が動脈硬化に及ぼす影響を検討した。

 C57BL6/Jマウスに競合的移植を行ったところ、数カ月間に渡りASXL1-MTcKIマウス由来細胞の末梢血中キメリズムの低下を認めたが、長期的観察によってそのキメリズムはプラトーに達し、高脂肪食投与によって早期に増加傾向を示した。各分画内でのキメリズムを評価すると、好中球や単球などの骨髄球系細胞、特に炎症性単球ではASXL1-MT細胞は早期に増加傾向を示し、高脂肪食によってその増加が促進されていた。臨床におけるクローン性造血の拡大は加齢に大きく依存することが明らかとなっているが、高脂肪食が、そのクローン拡大に寄与している可能性が示唆された。

 Vav-cre:ASXL1-MTcKIマウスから動脈硬化モデルであるLdlr-/-マウスに骨髄移植を行うと、野生型マウス(WTマウス)から移植した群と比較して大動脈弁プラーク及び大動脈プラークの有意な増大を認めた。興味深いことに、LysM-creトランスジェニックマウスと交配し骨髄球系細胞特異的にASXL1-MTを発現するLysM-cre:ASXL1-MTcKIマウスから骨髄を移植しても、動脈硬化の促進が認められた。動脈硬化はその成因から、慢性炎症性疾患であることが知られており、マクロファージの炎症性が、プラーク破綻によるさらなる動脈硬化の悪化に影響することから、ASXL1-MTcKIマウス骨髄細胞を用いて骨髄由来マクロファージ(BMDM)を作成し解析を行った。炎症性について評価したところ、WTマウス由来のBMDMと比較してASXL1-MT由来BMDMはTnf及びIl1-bのmRNA発現が増加しており、免疫沈降によるウエスタンブロッティングでTRAF6の自己ユビキチン化亢進を認めた。またLipopolysaccharide(LPS)投与時の炎症性サイトカイン産生が亢進していた。Toll様受容体(TLR)を発現するBa/F3細胞(BaκB)を用いたNFκBレポーターアッセイでは、ASXL1-MT発現によってNFκBの発現が亢進したが、野生型ASXL1(ASXL1-WT)を発現させるとNFκBが抑制されることが確認された。これらの結果から、ASXL1-MTはTLR-TRAF6-NFκB炎症性シグナル伝達経路を促進させることでマクロファージを炎症性の表現型に偏倚させ、ASXL1-WTはこれに対して抑制的に働いていると考えられた。

 Vav-cre: ASXL1-MTcKIマウスにおける単球を解析すると、フラクタルカインレセプターであるCX3CR1がWTマウスに比べて炎症性単球と常在性単球いずれも発現が低下していた。CX3CR1発現の低下は動脈硬化促進的に働くことが既報で示されており、ASXL1-MT発現によって単球機能が変化している可能性が示唆された。また炎症性単球が増加するものの常在性単球の増加が乏しいことについて、分化抑制を疑いin vivo EdU染色を行なった。Vav-cre:ASXL1-MTcKIマウスにおける炎症性単球のEdU陽性率の継時的低下と常在性単球でのEdU陽性率の継時的増加はWTマウスと同様に確認され、常在性単球までの分化は保たれていることを示していた。しかしEdUの取り込み率を比較すると、常在性単球分画における取り込み率はむしろ有意に増加し、炎症性単球分画においては減少していた。単球分化に関わる遺伝子について定量PCRを行ったところ、common monocyte progenitor(cMoP)と炎症性単球ではNr4a1が半減しており、常在性単球では7分の1程度にまで減少していた。Nr4a1は常在性単球の生存維持に必須であるほか、炎症性単球もNr4a1依存的にアテローム性動脈硬化病変の修復マクロファージを生じさせることが報告されている。これらの結果から、ASXL1変異由来造血では単球の増加がみられるものの、各単球分画におけるエピジェネティックなNr4a1発現調節の変化により常在性単球の半減期が低下し、相対的に炎症性単球が増加することで、マクロファージの表現型における炎症性への偏倚に寄与している可能性が示唆された。単球及びマクロファージにおける炎症性、組織修復性のバランス調節は動脈硬化において重要であることが知られている。ASXL1変異由来造血では炎症性単球の増加とマクロファージ表現型の炎症性への偏倚が動脈硬化促進に寄与していると考えられた。

 本研究の結果から、ASXL1変異由来クローン性造血は高脂肪食によるクローン拡大の加速と、マクロファージの炎症性への偏倚によって動脈硬化を促進することが明らかとなった。本研究で得られた知見はCHIP及び動脈硬化症の治療に示唆を与える可能性がある。

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