リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「Seismic Performance Analysis of Fill Dams Using Velocity Based Space-Time Finite Element Method」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

Seismic Performance Analysis of Fill Dams Using Velocity Based Space-Time Finite Element Method

Sakai, Kotaro 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23239

2021.03.23

概要

ダムの地震時安定性の予測は,ダムが貯水を制御する機能を喪失することによる下流域の人命や資産への被害が大きいことから重要である.我が国では,国営造成農業用ダムについて,ダムサイトにおいて発生しうる最大レベルの地震動に対して耐震性能照査が行われており,大地震時においてもダムが貯水機能を失わない程度の変形に抑えられることを解析により確認している.

 フィルダムについては,堤体材料がひずみの発生に伴う非線形性を有することから,広く用いられてきた方法として等価線形化法による動的解析が用いられる.等価線形化法では,塑性変形を計算することができないため,塑性変形解析により別途,塑性変形量を計算する必要がある.このような従来法は,解析上の設定が単純である利点を持つ一方で,堤体材料の強度を超えるような大地震時には現実と合わない問題がある.本論文では,このようなフィルダムの耐震性能照査における従来法の問題点を解析事例により明確に示す.また,従来法の問題点を解決する有効な方法として,地震応答と塑性変形を一貫して解析することができる弾塑性地震応答解析を提案する.この弾塑性地震応答解析では,速度型Space-Time有限要素法(v-ST/FEM)を採用し,長時間かつ大振幅である大地震の解析を安定的かつ高精度に実施する解析法を提案する.

 v-ST/FEMの時間積分法は増分型の構成式を導入するが,支配方程式を増分型としないため地震後の静的なつり合いを正確に計算できる利点を有する.本論文では,線形問題および非線形問題の両方でNewmark-β法よりも安定かつ高精度な計算が確認されているv-ST/FEMに,下負荷面モデルを用いた弾塑性構成式を適用したフィルダム弾塑性地震応答解析法を提案し,微小変形の範疇で地震応答と塑性変形に一貫性をもって解析できることを確認した.さらに,同手法によるケーススタディを行い,ダム地点において想定される最大レベルの地震動を観測したフィルダムの地震時挙動を再現し,大地震に対する本手法の適用性を確認した.

 本論文は全6章で構成され,従来法の問題点を明らかにし,v-ST/FEMによる弾塑性地震応答解析の有効性が確認される.第1章では,研究背景および目的とともに,既往研究のレビューを記述する.第2章ではv-ST/FEMの定式化を示す.第3章では,フィルダムモデルの解析を実施し,従来法の限界を明らかにする.第4,5章では,下負荷面モデルをDrucker-Prager型の構成式に適用した数値計算例を通じて,提案する弾塑性地震応答解析法に用いられる弾塑性構成式の特徴を整理する.また,実際のフィルダムモデルを用い,ダムサイトで観測された地震の加速度記録を入力して地震応答解析を行う.第6章では,研究全体の結論と展望を述べる.本論文に記される研究結果を要約すると,以下のとおりである.

 第3章で明らかになった従来法の限界として,次の項目が挙げられる.
1. 土質材料のようにせん断強度を持つ材料では,動的荷重が作用した時にせん断強度よりも大きな応力は伝播しない.そのため,応力の大きさに比例して発生する応答加速度もせん断強度の大きさに応じた上限値を持つ.この応答加速度の挙動は材料の降伏に起因して生じるため,大きな地震動を受けた際に顕著となる.
2. すべり土塊の移動量により塑性変形量を計算する従来法では,既定値を超えた応答加速度を積分することで移動量を算出する.そのため,低強度な材料で構成された堤体は,応答加速度の上限値も小さく塑性変形量を過小評価する.
3. 従来法の問題は,大きな地震動が作用した時に低強度な堤体ほど塑性変形量が小さくなる矛盾を内包しており,その限界は堤体材料のせん断強度を越える地震動に対して塑性変形量を正確に計算できないことにある.この問題を解決するには,堤体材料の降伏時においても応力と塑性ひずみの関係を記述できる弾塑性構成式を導入した地震応答解析が必要不可欠となる.

 第2,4および5章では,v-ST/FEMを用いた弾塑性地震応答解析法を提案し,数値計算例を通じて次のような知見を得た.
1. v-ST/FEMは高精度かつ安定的な時間積分を可能にするだけでなく,Space-Time有限要素法の範疇で,連続な変位を算出する唯一の手法である.時間積分の精度と安定性に加えて,連続な変位を算出するv-ST/FEMは大地震に対する弾塑性地震応答解析に向くことに着目し,それによる弾塑性地震応答解析の定式法を示した.
2. 1次元の弾塑性地震応答解析を通して,入力加速度の増加に伴う応答加速度と塑性変形量の変化を調べた.その結果,材料の降伏により応答加速度が上限に達するものの,塑性変形量は増加を続ける結果を得た.これにより,弾塑性地震応答解析により,上述した従来法の問題を解決できることを示した.
3. 動的な弾塑性応答を記述するには,静的な弾塑性挙動とは異なり,繰返し荷重に対する弾塑性挙動を表現する構成モデルが必要となる.これを実現するため,拡張下負荷面を導入したDrucker-Prager型の弾完全塑性モデルの定式化を実施した.
4. 2011年に発生した東北地方太平洋沖地震を経験した小田ダム(宮城県,ロックフィルダム)を対象とし,上記の弾塑性モデルを組み込んだv-ST/FEMよる弾塑性地震応答解析を実践した.その結果は,解析結果と観測された加速度応答と塑性変形が概ね一致することを示し,v-ST/FEMによる弾塑性地震応答解析の実問題への適用性を実証した.

 以上のように,本論文では高精度かつ安定的な時間積分を実現でき,連続な変位を算出するv-ST/FEMを利用した弾塑性地震応答解析を提案した.また,大地震を経験した実ダムへの適用を図ることで,その計算性能を実証した.提案法は微小変形理論に基づくが,大変形に対応する定式化も可能であり,今後は適用対象をさらに拡大することが期待される.