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第 5 章 総括
第 1 節 総括
ポリマーブラシは、共有結合やイオン結合を介して基材表面に高分子鎖を密に固定化したもので
あり、その構造から発現する低摩擦特性や高反発特性、サイズ排除特性を利用した表面改質法とし
て利用されている。サイズ排除特性を利用すると、ブラシ間距離に応じたサイズのイオンを選択的
に取り込むことができる。そのため、基材に関わらずブラシ間距離を制御したブラシ修飾が実現し、
ブラシ間に存在するナノ空間を粒子凝集抑制のための鋳型として利用できれば、新たな高分散な金
属担持法として利用できる。そこで本論文では、高分子として PMMA を対象として、様々な機能
性無機材料表面へ形態を制御した PMMA ブラシを修飾する方法を確立するとともに、PMMA ブラ
シを金属還元析出の鋳型として利用した際のブラシ形態や基材との相互作用を検討した。
第 1 章では、ポリマーブラシの性質、利点と課題、および本研究の目的について論じた。
第 2 章では、TiO2、BaTiO3、ZnO および SiO2 を対象として、表面に PMMA ブラシを修飾する方
法を検討した。基材粒子が TiO2、BaTiO3、SiO2 では、シランカップリング剤を用いた重合開始剤が
導入できれば、SI-ATRP を適用した PMMA の重合により、基材上で仕込み分子量に応じた分子量を
有する PMMA ブラシを固定化することができた。一方、ZnO では、シランカップリング剤を用いた
重合開始剤の導入後、ZnO 粒子表面と銅触媒が相互作用し、SI-ATRP による重合反応が進行しない
ことが明らかとなった。圧電材料では外部刺激を与えることにより粒子表面で電子移動が生じ、重
合触媒を活性化し得ること(Mechano-ATRP)から、超音波照射下での SI-ATRP を試みたところ、
短鎖および長鎖ブラシで構成された Bimodal 構造を表面に形成した。これは、ZnO 表面への銅触媒
の吸着と Mechano-ATRP による活性化が協奏的に生じた後、ZnO 表面と重合開始点の距離が増大す
ることでブラシ層の最表面での SI-ATRP が有意に生じ始めたためと考えられる。これらのことから、
基材表面へ形態を制御した PMMA ブラシを修飾するためには、基材表面への重合開始材の固定化
が最も重要であるものの、その後の重合過程においては、使用する触媒と基材との相互作用が大き
く影響することが明らかとなった。
第 3 章では、PMMA ブラシ修飾を施した TiO2 および BaTiO3 を対象に、塩化パラジウム([PdCl4]2-)
を用いた UV 照射による粒子表面での光還元析出を検討した。両者ともに、UV 照射により粒子表
面に析出した Pd の平均粒子径は、ブラシ形態から算出したブラシが形成する空間に存在し得る粒
子径と同程度であることから、このことは、光還元反応によって Pd はブラシ内部で析出している
ことを示唆しており、基材上に形成した PMMA ブラシが Pd 粒子析出の鋳型として機能することが
明らかとなった。
Pd の還元挙動を XAFS 測定により追跡したところ、Pd イオンの還元反応が生じるためには、反応
系中に PMMA と基材粒子を共存させる必要があることがわかった。さらに、PMMA が基材粒子表
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面でブラシ形態を形成しているか、あるいは物理的に吸着しているかで、還元挙動が大きく異なる
ことが明らかとなった。なお、XAFS スペクトルより求めた反応速度が TiO2 と BaTiO3 で異なってい
たことから、還元反応には表面電荷による金属種の吸着のしやすさなど基材の特性が影響すること
が示唆された。
第 4 章では、SiO2 を用いることで、PMMA から生じるラジカルの影響のみに着目した Pd の還元
析出を検討した。粒子上に形成した PMMA ブラシの鎖長およびグラフト密度によらず、析出した
粒子サイズとブラシに内包できる粒子サイズが良い一致を示したことから、Pd はブラシ内に析出し
ていると判断した。一方で、PMMA ブラシのグラフト密度が高い場合は、ブラシ内で析出した Pd
粒子がブラシの斥力によりブラシ外へ排出されることがわかった。
XAFS 測定による還元挙動を追跡したところ、粒子表面に形成した PMMA ブラシの形態に応じて
反応性が変化しており、ブラシ密度が希薄なほど反応が促進されることがわかった。また、反応開
始時の Pd 化学状態は、 [PdCl4]2-から大きく変化していることが明らかとなった。スペクトルシミュ
レーションの結果、反応開始時の Pd 錯体の形態は、 [PdCl4]2-とは異なり、trans-PdCl2(OH)2 の z 軸上
に水分子が配位した trans-PdCl2(OH)2・2H2O に近い構造へ変化していることが示唆された。水溶液
中の PdCl4 錯体は、pH に応じて Cl 基が OH 基に置換されることが報告されている。本研究では
PMMA ブラシに内包された Pd 錯体の置換基が OH に変化していたことから、ブラシ近傍あるいは
ブラシが作る空間内において pH が変化している可能性が考えられる。このことから、SiO2 基材上
に修飾した PMMA ブラシがつくる空間は、金属析出の鋳型として機能するだけでなく、空間の内
外、あるいは界面水の影響を受けることで pH 変化が生じる特異的な反応場として機能することを
示唆する。
本研究では、ポリマーブラシ鎖間をナノ粒子合成の鋳型として用いることを提案するとともに、
ポリマーブラシが創る微小な空間が金属イオンの配位環境に影響を与える特殊な反応場として機能
することを明らかにした。本研究で得た結果は、ポリマーブラシ修飾を様々な組成や機能性を有す
る金属酸化物表面へ展開するとともに、ポリマーブラシを用いた金属担持法を用いることで担持す
る金属粒子のサイズと量の自由な制御を実現しうるものであり、新たな視点での多次元ハイブリッ
ド材料の開発につながるものと考えられる。
89
第 2 節 今後の展望
本研究で得られた材料は金属酸化物表面に金属を担持しポリマーが修飾された三元ハイブリット
材料であり、本研究の成果はこのような多元ハイブリッド材料の設計指針になる(Fig. 5-1(a))。こ
れは貴金属担持金属酸化粒子の表面にポリマーブラシが修飾された触媒が作製できたと考えられる。
この触媒は、有機合成などにおいて、不均一触媒ではあるがポリマーブラシの有機溶媒への親和性
の高さから、均一触媒に近い状態で使用することができることが考えられる。また触媒の回収も遠
心分離や透析により容易であり、新しい観点での触媒開発に期待できる。また、ブラシが形成する
空間を反応場としても応用でき、ポリマーブラシ内部に入り込んだ化学種の反応性を変化させ、基
材粒子上の触媒と限定的に反応させることや、Fig. 5-1(b)に示したようにポリマーブラシに選択的な
イオンの取り込みの特性を利用した反応系の構築などが可能になると考えられる。
(a)
(b)
Fig. 5-1 (a) Examples of use as hybrid materials consisting of metal/polymer/oxide substrates and (b)
applications that cross the properties of the polymer (selective of incorporation ions) with the reactivity of the
substrate particles on which the particles are immobilized
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謝辞
本論文を完成させるにあたり、多くの方々にご指導、ご協力を頂きました。 心より御礼申し上げ
ます。
本研究の遂行および本論文の作成に際しまして、九州大学大学院総合理工学研究院 教授 西堀麻
衣子先生に厚く御礼申し上げます。西堀先生には、指導教員として修士課程を含め 5 年間にわたり、
研究に関して、多くのご支援とご助言を頂きました。新型コロナウイルス感染症拡大や東北大学の
移転に伴い大変ご多忙の中、手厚いご指導いただけたこと心より感謝申し上げます。 本論文の審査
にあたり、九州大学大学院総合理工学研究院 教授 島ノ江憲剛先生、九州大学大学院総合理工学研
究院 准教授 中川剛志先生、九州大学先導物質化学研究所 准教授 宮脇仁先生には、大変お忙しい中、
有益なるご助言とご教示を賜りましたこと感謝申し上げます。島ノ江先生には、論文審査の主査を
務めていただくなど、大変お世話になりましたこと重ねて御礼申し上げます。
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 助教二宮翔先生には、西堀研の先
輩として在籍していた時から、研究に関する議論をさせていただきながら、多大なご支援をいただ
きました。心より感謝申し上げます。
SPring-8 での放射光実験では、高輝度光科学研究センター (JASRI)の加藤和男研究員には実
験の様々な場面で助けて頂き、有益なご助言を多く頂き実験を円滑に行なうことができました。心
より感謝申し上げます。また本研究は、一般課題(課題番号:2019A1407、2019B1612)として
実施しました。あいちシンクロトロン光センターでの実験では、神谷和孝博士に実験の様々な場面
で助けて頂き、解析においても多くのご助言を頂きました。心より感謝申し上げます。なお本研究
は、公共等利用課題(課題番号:202004023)として実施しました。また九州シンクロトロン光研
究センターでの実験では、河本 正秀 博士、瀬戸山 寛之 博士にご支援いただき実験を遂行すること
ができました。心より感謝申し上げます。
九州大学 ネガティブエミッションテクノロジー研究センター 教授 高原淳先生、大阪工業大学 工
学部 応用科学科 准教授 平井智康先生には、ポリマーブラシ修飾や有機合成に関して多くの助言を
頂き、また快くさまざまな装置を使用させていただきました。心より感謝申し上げます。
九州大学先導物質化学研究所 准教授 小椎尾謙先生には快く様々な実験装置を使用させていただ
きました。心より感謝申し上げます。九州大学先導物質化学研究所 濱田あゆみ様には、ポリマーブ
ラシの作製に関して多くの助言とご指導をいただくとともに物品購入や事務手続きなど、多くのご
支援を頂きました。心より感謝申し上げます。
九州大学大学院総合理工学研究院教授 中島英治先生には九州大学においてのメンターとなってい
ただき、学生生活の面で様々なご支援をいただきました。また、同研究室秘書の石川亜子様、森田彩
子様には、物品購入や事務手続きなど多くのご支援をいただきました。心より感謝申し上げます。
九州大学筑紫地区中央分析センター 准教授 稲田幹先生には、中央分析センターの装置をお借り
する際に、測定の相談などをさせていただき、有益なご助言をいただきました。心より感謝申し上
げます。
九州大学大学院総合理工学研究院 准教授 渡邉賢先生、助教 末松昂一先生には、修士課程のとき
から研究に関する相談に乗っていただくこともあり、大変お世話になりました。また快く様々な実
験装置を使用させていただきました。心より感謝申し上げます。
東北大学 多元物質研究所 教授 村松淳司先生、教授 蟹江澄志先生、講師 松原正樹先生、助教 大
須賀遼太先生には、西堀研の東北大学への移転に伴い、研究に関して様々な議論をさせていただく
とともに、東北大学の学生との交流の機会を積極的に設けていただきました。心より御礼申し上げ
ます。
博士課程を乗り切るにあたり、九州大学および東北大学西堀研究室の学生の皆様のおかげで楽し
く生活することができました。皆様に深く感謝いたします。特に、二宮翔先生を初め、入学時から
多くの議論を交わしていただいた金子智也先輩(現 AGC)
、現博士課程 1 年の板本航輝君、高分子
班の松尾栄実さん(現 TOTO)、片山章太郎君には様々な面で支えていただきました。 最後に、長
い学生生活を支えてくれた、両親と兄弟に深く感謝します。
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