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大学・研究所にある論文を検索できる 「コメの細胞分化 : 胚乳発生における細胞運命特定機構」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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コメの細胞分化 : 胚乳発生における細胞運命特定機構

髙藤, 良典 名古屋大学

2021.11.15

概要

多細胞生物の組織の発達は細胞の分裂と分化によって進行する。細胞の分化は細胞運命の決定によって方向づけられるが、この過程には、内的要因と外的シグナルとが関与する。植物の初期発生では、受精卵の分裂後にできた初期胚が頂端-基部軸を形成するとともに表皮系や維管束系を分化させていく。種子においてはこうした胚の形成に加えて、胚乳の形成が行われる。本研究では、イネ種子をモデルとして、胚乳細胞がどのように分化していくのかを解明することを目指した。

 イネをはじめとする穀類の胚乳は、組織の大部分を占めるデンプン性胚乳(starchy endosperm: SE)と、胚乳の外縁部に位置するアリューロン層(aleurone layer: AL)とから構成される。SEはデンプンとタンパク質を、ALは油脂をそれぞれ多量に蓄積するが、これらは胚のための栄養源となる。SEとALを構成する細胞は、貯蔵物質の違いに加えて、形態的な特徴や成熟後に担う機能も大きく異なる。SEの細胞は分裂面が不規則となる傾向があるのに対して、ALでは断面が長方形の細胞が均等に整列し、また細胞壁が肥厚する。AL細胞は、胚と同様に、乾燥耐性を獲得して、乾燥した成熟種子の中でも生き続ける。一方、SE細胞は、乾燥耐性を獲得せず、プログラム細胞死と脱水により死んでいく。ALを構成する細胞層の数は植物種によって異なるが、イネの場合は、胚側(腹側)と側部においては1〜2層のAL細胞を、背側ではやや不規則な形状をした3〜5層のAL様の細胞を形成する。これに対してSEは、完熟したイネ種子では15層以上の細胞層を形成する。

 穀類の胚乳発生は、シロイヌナズナのような双子葉植物と同様に、重複受精により1つの胚乳原核を形成することから始まる。胚乳原核は細胞質分裂を伴わない核の増殖を繰り返し、その後、中央細胞の細胞壁に沿って遊離核が1層に均等に整列した、シンシチウムと呼ばれる多核組織を形成する。続いて起きる細胞化のプロセスは、核と核の間に中央細胞の細胞壁に対して垂直な細胞壁を形成することで始まる。この時、核の外側は中央細胞の細胞壁によって閉じているが、内側は中央細胞中心に向かって開いたままになる。これによりできた区画をalveolusと呼ぶ。次に、alveolusの並層分裂が起きて、2つの細胞層が形成される。生じる2つの細胞層のうち、外側細胞層では全方向が閉じた完全な細胞が形成されるが、内側細胞層では新たなalveolus構造ができる。その後、並層分裂がさらに繰り返されて、中央細胞の中心向きに細胞層の数が増えていく。細胞化が終わる頃には、イネ胚乳の腹側では、最外層の1層の細胞のみがALへ、その内側の細胞はすべてSEへと分化する。

 SEやALの細胞分化に必要な因子は、主にトウモロコシの突然変異体の解析によりいくつか特定されている。また変異体の解析から、胚乳発達過程の後期まで、SEやALの細胞運命が可塑的であることや、細胞運命の特定と維持に位置情報が必要とされることが報告されている。加えて、トウモロコシ胚嚢の人工培養実験から、細胞分化に必要な位置情報は、母体組織からのシグナルによるものではなく、組織の内部にあるか、外側にあるかといった、場所そのものに起因するものである可能性が提起されている。さらに、いくつかのAL欠損変異体では葉の表皮に異常が現れることから、ALと表皮の細胞運命特定には、何らかの共通したメカニズムが働くことが示唆されている。しかし、こうした知見の集積にもかかわらず、胚乳発達過程におけるSEやAL細胞の運命特定機構は未解明なままであり、また、SEやALの形成に必要な位置情報がどのように関与するのかも不明なままである。

 そこで本研究では、SEとALの細胞運命の特定機構を理解するために、最初の並層分裂によってどのようにSEとALの始原細胞が生じるのか、また最外層細胞の並層分裂がどのような遺伝子群の発現変動を伴うものかに着目した。まず、共焦点レーザー顕微鏡を用いた組織化学的解析を行い、イネ胚乳の初期発達における細胞層の増加や細胞分裂のパターンを詳細に調べた。その結果、初期の細胞化過程においては細胞層の形成が高い同調性をもつことが示された。そこで、これをもとに、胚乳の初期発達段階を細胞層の形成によって新たに分類しなおした。また、有糸分裂期の染色体や新たな細胞分裂によって形成された並層細胞壁を観察することで、最外層細胞の並層分裂が繰り返し起こることを明らかにした。このことは、細胞化過程において、最外層細胞が分裂するごとに、内側にSE始原細胞が、また外側にSE/AL始原細胞が繰り返し生じることを意味した。さらにまた、興味深いことに、2細胞層期以降の最外層細胞では、核の位置が常に外側細胞壁の近傍に局在する様子が観察された。このことは、胚乳組織の最外層細胞が、最初の並層分裂直後から継続して特殊性をもつことを反映すると考えられた。

 次に、胚乳発生初期の並層分裂により生じる内側層細胞と最外層細胞におけるトランスクリプトームの差異の検出を試みた。具体的には、細胞化の初期段階にあるイネ胚乳より、最外層を含む組織または含まない組織をレーザーマイクロダイセクション法によって切り出し、それぞれからRNAを抽出してRNA-seq解析を行った。これにより、内側層と最外層のトランスクリプトームにどのような違いが現れてくるかを調べた。また、同様な解析により、シンシチウム期から3細胞層期にかけて、細胞層特異的なトランスクリプトームの変化を調べた。これらより得られたデータを活用して、SE特異的遺伝子とAL特異的遺伝子の内側層と最外層での発現パターンの違いを、新たなRNA-seq解析により構築した遺伝子マーカーセットを利用して調べた。その結果、SEの属性が1細胞層の段階で発現し始めること、また最初のalveolusの並層分裂によって生じる2つの細胞では、内側細胞により特異的に発現するようになることが判明した。SEの属性の発現は、デンプン合成酵素遺伝子の発現に代表されるが、これらの遺伝子の内側細胞での発現値は胚乳発達の進行とともに増加することから、SEの性質は発達段階が進むにつれて増強されていくと考えられた。

 一方、ALの属性は2細胞層期から発現し始めること、また最外層の細胞に偏って発現することが明らかとなった。ALの性質がいつ現れ始めるのかをさらに明確にするために、最外層細胞特異的に発現する遺伝子群のシンシチウム期から3細胞層期にかけての発現について、ピアソン相関を用いた階層クラスタリングを行ったところ、2つのクラスターの発現パターンに大別された;1つは2細胞層後期と3細胞層期において最外層細胞で顕著に高い発現を示すが、シンシチウム期や1L期では殆ど発現しない遺伝子群(Cluster 1)のパターン、もう1つはシンシチウム期から発現し続け、2細胞層後期や3細胞層期になると最外層細胞に発現が限定されてゆく遺伝子群(Cluster 2)の発現パターンとなった。これらの結果は、ALアイデンティティの獲得は2細胞層後期以前に行われることを示唆した。また、Cluster 2には、7つのAL特異的遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子の発現は胚乳発生初期からみられており、このことは少なくともALアイデンティティの一部がシンシチウム期から確立され始めることを示した。

 本研究の結果は、最初の並層分裂がトランスクリプトームのレベルで非対称分裂であることを明確に示し、また同時に、細胞運命を特定する位置情報やその受容システムが最初の並層分裂以前にすでに機能していることを示唆した。さらに、上述のCluster 2に含まれる表皮特異的遺伝子やそれらを制御するtypeⅣ HD-ZIP遺伝子の発現パターンを調べた結果、これらの遺伝子の多くが細胞化の始まる前のシンシチウム期からすでに発現していることや、2細胞層期以降に最外層細胞に特異的に発現するようになることが示された。これらの結果は、表皮のアイデンティティがシンシチウム期に獲得されること、すなわち、最外層が表皮性をもつことが胚乳細胞の分化のための位置情報としての役割を担い得ることを意味した。

 以上の結果とこれまでの知見とを考え合わせて、本研究では以下を2つを提唱した。
(1)表皮のアイデンティティの獲得が、AL細胞運命づけのための必要条件となる。(2)イネ胚乳の細胞の分化メカニズムは、ある発達段階までは可塑性を保持しつつ、位置情報と’’developmental cue”の両方を通じて、細胞の分化を進めるようにはたらく。

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