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大学・研究所にある論文を検索できる 「先天性サイトメガロウイルス感染症の胎盤病理」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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先天性サイトメガロウイルス感染症の胎盤病理

Uenaka, Mizuki 神戸大学

2021.03.25

概要

【目的】
 サイトメガロウイルス(CMV)感染症は、世界的にも頻度の高い母子感染症の一つである。先天性感染児の10〜15%は小頭症、中枢神経障害、難聴、網膜症、胎児発育不全などを有する症候性感染児として出生し、また出生時無症候性でも10-15%が進行性の感音性難聴や精神遅滞などの後遺症を残す。
 妊娠中のCMV母子感染の主な経路は、母体の循環血中を巡るウイルスが胎盤に感染し、胎児に感染を起こす経胎盤感染である。他に、持続感染または潜伏感染からの再活性化によって産道に排泄されたウイルスが上行性に子官頸部へと進展し、子官内に感染する上行性感染も存在し、この場合細菌感染を合併していることが多い。
 胎盤は、胎児の発育に非常に重要な役割を果たすが、CMV感染により健全な胎盤形成が阻害され、胎盤機能に重篤な障害を生じる。母体血中のCMVは、まず絨毛外栄養膜細胞に感染する。その後、絨毛の細胞性栄養膜細胞、絨毛間質の毛細血管内皮・マクロファージに感染し胎児血中にウイルスが伝播する。CMVの血管内皮細胞への感染は、血管リモデリングに深刻な影響を及ぼし、絨毛間質血管の消失、線維化をもたらし、母児間の物質移送能の障害を引き起こす。
 CMV感染胎盤における重要な病理学的所見は、慢性絨毛炎、絨毛の線維化、石灰化、巨細胞封入体などであり、それに加え、卵膜にも変化を認める。
 胎盤を介するCMV母子感染機構や先天性CMV感染児の予後を規定する因子についてはまだ十分には解明されていない。したがって、先天性CMV感染胎盤の病理学的所見と臨床背景の関係を調べることを本研究の目的とした。

【方法】
 本研究は倫理委員会の承認下、患者の同意を得て行った。2009年10月から2018年7月までの間に、神戸大学医学部附属病院を受診した妊婦を対象とし、全妊婦に血清学的CMVスクリーニングを行った。妊娠中の母体CMV IgG陽転化、母体CMV IgM陽性かつIgG avidity index<40%を母体初感染とした。また、当院で出生した全新生児に対して尿CMVPCR検査を行い、先天性感染の有無を調べた。尿の採取が不能な症例については羊水もしくは臍帯血CMVPCR検査を行った。
 娩出胎盤より胎盤実質(3〜5切片)、卵膜、臍帯のサンプルを切り出し、Hematoxylin & Eosin(HE)染色および免疫組織化学染色を行った。
 先天性CMV感染症の臨床所見(①児の症候の有無、②症候性感染に対する免疫グロプリンを用いた胎児治療の有無、③母体CMV感染時期、④分娩週数)と胎盤の組織学的所見に関して関連性を解析した。

【結果】
 本研究期間に先天性CMV感染症は37例発生し、そのうち35例の胎盤が観察可能であった。妊娠帰結は生産28例、新生児死亡3例、死産1例、人工妊娠中絶3例であった。症候性感染は26例で、そのうち12例に免疫グロブリンを用いた胎児治療を行った。
 組織学的所見として、30例(86%)でCMV免疫染色陽性であり、胎盤絨毛、羊膜、脱落膜、絨毛膜にCMV感染細胞を認めた。免疫二重染色では、絨毛間質においては主に線維芽細胞(54%)と血管内皮細胞(31%)に、羊膜においては主に羊膜上皮下結合織(97%)に、脱落膜においては子宮内膜腺上皮細胞(100%)に、絨毛膜においては繊維芽細胞(29%)にCMV感染細胞を認めた。
 CMV陽性細胞数は分娩週数に逆相関し、32週以降分娩(25例)に比べて、32週未満早産・人工妊娠中絶(10例)に多かった[中央値0.85(0-24.3)vs.61.4(1-514)個;p<0.001]。
 症候性感染では無症候性感染に比べて慢性絨毛炎(65% vs. 11%; p<0.01)、絨毛変化(38% vs. 0%; p<0.05)が有意に多く、また絨毛膜羊膜炎(35% vs.0%; p=0.07)、低酸素所見(35% vs. 0%; p=0.07)も多い傾向にあった。母体CMV非初感染では初感染に比べて脱落膜変化が有意に多かった(43% vs. 5%;p<0.01)。症候性感染に対する免疫グロブリン療法の有無による胎盤の組織学的所見には有意差は無かった。

【考察】
 本研究において、CMV感染細胞は主に絨毛間質の繊維芽細胞と血管内皮細胞に認め、症候性感染では無症候性感染に比べて慢性絨毛炎と絨毛変化の発生頻度が有意に高いことが明らかとなったが、これらは過去の報告と矛盾しない結果であった。胎盤の物質交換機構で重要な役割を持つ絨毛間質の血管内皮細胞への感染は、血管新生を阻害し、繊維化を引き起こす。最終的に絨毛間質血管は消失し、胎盤は低酸素状態をきたい胎児発育不全などの症候性感染が発生する。
 免疫グロブリンを用いた胎児治療は、胎盤におけるCMVの増殖を抑制し、胎盤機能の低下を防ぐと考えられているが、本研究では免疫グロブリン療法の有無による胎盤所見に有意差は認めなかった。
 さらに我々は、母体非初感染では初感染例と比べて脱落膜変化が有意に多く、またCMV陽性細胞数は分娩週数に逆相関することを世界で初めて明らかにした。
 妊娠早期の胎盤においてCMV陽性細胞数がより多いことから、子宮でのCMV活性化が早産と関連している可能性や、妊娠早期の幼若な胎盤では妊娠後期に比べてCMVの感染感受性が高くウイルスが増殖しやすいことが推察される。
 脱落膜における形質細胞浸潤はウイルス血症を含む異常な免疫環境を反映するが、本研究では20%に形質細胞を伴う脱落膜炎と壊死を認めた。さらに、母体CMV非初感染では初感染例と比べて有意にこれらの脱落膜変化が多かった。近年我々は、妊娠中の切迫流・早産が母体CMV非初感染例における先天性CMV感染発生と関連することを報告しており、この病態生理学的機序として、切迫流・早産自体がCMVの子宮内感染によって起こっている可能性、もしくは切迫流・早産の原因となっている細菌感染による脱落膜の炎症が潜伏感染しているCMVの再活性化を惹起している可能性が推察される。