Novel technique for the identification of the pulmonary intersegmental plane using manual jet ventilation during pulmonary segmentectomy
概要
【背景】
近年、腫瘍径2cm以下の小型肺癌に対する外科治療として、肺区域切除は肺葉切除に比し肺機能温存および手術侵襲の低減を期待でき、かつ根治性においても遜色ない成績が報告されている。しかし切除区域と隣接区域との境界は不明瞭であるため、切除区域の同定には工夫を要する。今までに、区域間静脈を指標とする方法や、切除区域あるいは切除区域以外に色素や送気をすることで切離境界面を得る方法が報告されている。我々はより安全かつ簡便な方法として、軟性気管支鏡(以下 FOB)と用手的ジェットベンチレーターMCS-3TM(日本メガケア、東京)(以下 MJV)を用い、切除予定区域の区域気管支に送気することで、含気虚脱ラインすなわち切離境界面を明らかにし肺区域を同定する方法を開発した。
【目的】
MJVを用いた肺区域同定法の有用性を検証する。
【方法】
2013 年1月から2017年12月の5年間に当院で肺区域除術を予定した患者を対象とした。診療録からMJVによる肺区域同定の実施および成否が明らかでない症例、肺区域同定が不要となった症例は除外した。
診療録より後方視的に患者背景(年齢、性別、身長、体重)、切除区域、明瞭な切離境界面の同定の可否、MJVに伴う合併症を調査した。また患者背景や除区域と離境界面の同定の可否の相関関係を解析した。
MJVによる肺区域同定法は以下の手順で実施している。まず二腔式気管チューブの患側よりFOBを切除予定区域の気管支へ挿入する。術者は術野から鉗子を用いて、FOB先端より中枢側で気管支を閉鎖する。次にFOB 送気口にMJVを差し込み、送気圧を0.14~0.21MPaに設定し、肺の膨張を術野内視鏡映像で視認しながら除予定区域に送気する。 離境界面を同定後FOBを引き抜き、術者が区域気管支を遮断、肺区域境界を切離する。
さらに、対象となった手術を実施した12の呼吸器外科医に対して、MJVによる肺区域同定法に関するアンケートを実施した。アンケート項目は、切離境界の明瞭さ、簡便性、安全性、区域同定の時間短縮、除時間の短縮とし、選択肢は非常に効果的、効果的、やや効果的、無効とした。
統計学的には、対応のないスチューデントt検定、フィッシャーの直接確率検定、χ2 乗検定を用い、p<0.05で有意差ありとした。
【結果】
期間中、肺区域除は199例実施され、そのうち解析対象は171例であった。明瞭な切離境界面が得られたのは152例(89%)であり、同定の可否と患者背景に相関はなかった。除区域は境界明瞭であった19例のうち10例が右上葉の区域で、他の部位と比較し有意に同定困難であった(p=0.0028)。MJVに伴う合併症はなかった。
外科医のアンケート調査では、12人全員が境界の明瞭さ、安全性、区域同定の時間短縮、切除時間の短縮に関して「非常に効果的または「効果的」と回答し、簡便性に関しては11人が「非常に効果的または「効果的」、1人が「やや効果的と回答した。すべての項目で「無効と回答した者はいなかった。
【考察】
肺区域の同定法には、①区域間静脈を標とする方法、②色素を用いる方法、③送気により含気虚脱ラインを得る方法などが報告されている。①の方法では境界の判別が難しく、術後の断端瘻のリスクが高い。②の方法では標的部位以外に色素が流入すると同定が困難となる、時間の制約がある、蛍光色素の場合は装置の準備と暗視下での操作を余儀なくされる、などの問題点が報告されている。③の方法では、術野から直接区域気管支にカニュレーションする場合、血管内誤送気による空気塞栓の危険性が指摘されている。また、③の方法でFOBから送気する場合は、送気手段として低流量酸素(1L/min 程度)を流す方法や高頻度ジェット呼吸器(HFV)を用いた方法がある。これらの場合は、送気タイミングや時間の微調整が困難であり、特にHFVを用いた方法では、送気量過多により圧外傷が生じる可能性が危惧される。
そこで今回、我々はFOBを介してMJVを用いた方法を考案した。MJVはHFVに比べて小型であり、取り扱いが容易である。さらに、MJVは送気量、送気時間の調整もリアルタイムで容易に行うことができる。そのため今回、171例中 152例(89%)で明瞭な境界面を得ることができ、この成功率は色素を用いた先行報告よりも高かった。さらに、外科医による評価においてもMJVを用いた同定方法は、より安全で、迅速、簡便に除境界面を同定することができることが明らかになった。
【結語】
MJVを用いた肺区域同定法は安全で簡便に除区域を同定することが可能であった。さらに外科医による評価においても、その有用性が明らかになった。この方法は今後の同様の症例において重要な臨床的意義を持つ可能性がある。