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大学・研究所にある論文を検索できる 「骨格筋においてアミノ酸シグナルが脂質蓄積を誘導する機構の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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骨格筋においてアミノ酸シグナルが脂質蓄積を誘導する機構の解明

合田, 祐貴 東京大学 DOI:10.15083/0002004956

2022.06.22

概要

タンパク質は動物個体の生命維持のために必須な生体高分子である。タンパク質の構成分子である20種類のアミノ酸自身も、その総量やそれぞれのアミノ酸の量が情報となって、動物の物質代謝に影響していることが明らかになりつつある。例えば全アミノ酸量が不足した餌を給餌された成長期の動物では成長遅滞が起こり、個体の基礎代謝量が低下する。このような動物では何らかの機構でアミノ酸量の低下をモニターし、インスリンやインスリン様成長因子の活性低下を介してタンパク質の同化と異化が抑制される結果、余剰となったエネルギーが脂質となって末梢組織に蓄積されることが明らかとなっている。これまで我々は全アミノ酸が不足した餌を給餌した動物において、種を問わず肝臓にトリグリセリド(TG)が蓄積すること、リジンが不足した餌を給餌されたブタの骨格筋にTGが蓄積し、「霜降り」状態を呈することを見出してきた。これらの結果はアミノ酸の「量」や「質」がシグナルとなって組織特異的に脂質代謝を制御していることを示唆している。そこで本研究ではこれらのアミノ酸のシグナルに対して骨格筋がどのように応答しているのか、またその結果、どのような機構で骨格筋に蓄積するのかを明らかにすることを目的とした。

第一章では、食餌中の全アミノ酸量や個々のアミノ酸量が末梢組織における脂質蓄積に与える影響について解析した。これまで我々は、食餌中の全アミノ酸量が不足した場合に骨格筋や肝臓に脂質が蓄積することを報告してきた。そこでまずアミノ酸の「量」や「質」のどのような変化が脂質の蓄積を誘導するかを調べることを目的として研究を行った。まず、15%カゼインと同レベルのアミノ酸を含む対照食(CN食)、総アミノ酸量を1/3にした低アミノ酸食(low-AA食)、20種類のアミノ酸のうち1種のみを1/3にした20種類の食餌(low-Ile、low-Leu、low-Lysなど)を作成し、6週齢のWistar系雄性ラットに2週間給餌し、胸最長筋に与えるTG量に与える影響を調べた。その結果low-AA食の給餌によりCN食の給餌と比較して胸最長筋中のTGは増加した。また各アミノ酸を減らした餌を給餌した場合、リジンを制限した食餌(low-Lys)を給餌した群でのみ胸最長筋中のTGが増加した。このことから骨格筋では食餌中の全アミノ酸の不足およびリジンの不足に特異的にTGが蓄積することが明らかとなった。この際、他の末梢組織における脂質蓄積量を解析したところ、肝臓ではlow-AA食の給餌およびlow-Arg食の給餌によりTGの蓄積が増加していたが、low-Lys食の給餌ではこの増加が観察されなかった。またX線CT装置を用いて皮下脂肪及び内臓脂肪の量を測定したところ、low-AA食の給餌およびlow-Lys食の給餌によってその体積が増加していたが、low-Arg食の給餌では増加しなかった。以上の結果から、食餌中の全アミノ酸量の不足によって末梢組織に脂質の蓄積を誘導されること、不足したアミノ酸の種類に特異的に別々の組織に脂質の蓄積が誘導されることが明らかとなった。このうち骨格筋におけるTG蓄積について詳しく調べるため、筋細胞の脂肪滴に発現するタンパクであるPLIN2の免疫染色を行ったところlow-AA食およびlow-Lys食の給餌で増加しており、筋肉内脂肪が増加していることが明らかとなった。更に遅筋型ミオシン重鎖の免疫染色やNADHTR(nicotin amide adenine dinucleotide tetrazolium reductase)染色、ATPase染色を行ったところ、low-AA食やlow-Lys食の給餌により骨格筋内の酸化的筋線維(遅筋線維)が増加していた。また遅筋型筋線維を多く含むひらめ筋ではTGの蓄積量が多いこと、遅筋型筋線維の免疫染色と脂質の共染色を行ったところ遅筋型筋線維ではTG蓄積が顕著であったことも併せ、低アミノ酸食および低リジン食の給餌は遅筋型筋線維の増加に伴って骨格筋に脂質の蓄積が誘導されると結論した。

第二章では骨格筋に脂質蓄積が誘導されるアミノ酸のプロファイルについて詳細な解析を行った。まずlow-AA食を給餌したラットの血清中のアミノ酸量をLC-MS/MSを用いて測定したところ、low-AA食のアミノ酸組成ではすべてのアミノ酸が一様に減少しているにもかかわらず、CN食を給餌した時の血清中のアミノ酸量と比較してセリンとグリシンが増加していた。セリンとグリシンの増加がlow-AA食給餌によって誘導される脂質蓄積に重要かを調べるため、CN食にセリンとグリシンを添加したCN+Ser/Gly食を作成し、ラットに給餌した。CN+Ser/Gly食の給餌により血清中のセリンとグリシン量は増加していたが、その際の胸最長筋中のTG量は対照群と同等であった。一方、食餌中に含まれる窒素量の減少により脂質蓄積が誘導された可能性を検討するため、low-AA食給餌で減少した総窒素量に注目し、low-AA食にグルタミン酸を添加することで窒素量がCN食と同量になる食餌(low-AA sufficient E)を作成し給餌した。その結果low-AA sufficient E食を給餌した時の胸最長筋のTG量は、CN食給餌の場合と同等まで低下した。このことからlow-AA食における骨格筋におけるTG蓄積には食餌全体の窒素量の不足が必要と考えられた。次にlowLys食を給餌した時の血清中のアミノ酸量をLC-MS/MSを用いて測定したところ、CN食給餌群と比較して、Lys量が大きく減少しているとともにThr量が増加していた。そこで血清中のThrの増加を抑制するため、low-Lys食から更にThrを減らしたlow-Lys/Thr食を作成し、ラットに給餌した。その結果このラットにおいて、胸最長筋中のTG量はlow-Lys食を給餌した群と比較して減少した。この結果からlow-Lys食給餌に応答した骨格筋における脂質蓄積には血中の低リジン高スレオニン状態が必要であると結論した。

第三章では、low-AA食およびlow-Lys食の給餌が骨格筋の脂質蓄積を誘導する機構について解析した。骨格筋における脂質の殆どは外部から取り込んだ脂肪酸によるものであることが知られているため、骨格筋における脂肪酸取り込みの解析を行った。まず骨格筋において脂肪酸取り込みに重要な分子であるFATP4(fatty acid transport protein 4)の免疫染色を行ったところ、low-AA食およびlow-Lys食給餌において増加していた。一方脂肪滴に蓄積したTGを分解する律速酵素であるATGL(adipose triglyceride lipase)はlow-AA食及びlow-Lys食給餌によって減少していた。このことから筋細胞そのものの脂肪酸取り込みの量が増加し、またTG分解が抑制されたことが脂質の蓄積が増加したことの原因と考えられた。さらに骨格筋の培養細胞を用いて脂肪酸の取り込み量を測定した。常法にしたがい十分に分化させたL6筋管細胞を、全てのアミノ酸が充足したFull培地、全てのアミノ酸がFull培地の1/3量の1/3培地、Full培地からリジンを抜いた⊿Lys培地、⊿Lys培地に更にFull培地の2倍量のThrを添加した⊿Lys∔Thr培地で2日間培養し、蛍光標識された脂肪酸を添加することで、細胞内の蛍光量から脂肪酸の取り込み量を評価した。その結果、⊿Lys∔Thr培地で培養した場合にL6筋管細胞への脂肪酸取り込みが増加していることが明らかとなった。また、ラット胸最長筋より取得した初代培養細胞をこの培地で1日間培養したところ、⊿Lys∔Thr培地で培養した場合において、脂肪酸の取り込みが増加している傾向が観察された。一連の成果から、骨格筋は血清中の低リジン高スレオニン状態に直接応答して、脂肪酸取り込みを増加させる結果、脂質蓄積を増加させる可能性が示された。

本研究により、1)食事中のアミノ酸の総量や特定のアミノ酸の不足は、血中のアミノ酸バランスの変化を引き起こすことによって末梢に脂質の蓄積を誘導すること、2)骨格筋では、アミノ酸から供給される窒素量全体の低下や血中の低リジン高スレオニン状態に応答して脂質の蓄積が誘導されること、3)その過程で骨格筋では脂肪酸取り込みが増加すること、が初めて示された。これらの知見は高品質な食肉資源の提供につながるだけでなく、筋肉内脂肪の増加が原因とされる筋疾患の予防や治療にも貢献すると期待している。

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