超音波フリップチップボンディング接合部の高強度化手法に関する研究
概要
本研究では,超音波フリップチップボンディングによる電子デバイスの Au バンプと電極の接合部を高強度化するため,4 つの手法に関する研究を行った。Au バンプと Au 電極の接合において,電極の Au 層の厚化およびランプ状接合荷重が接合部せん断強度に及ぼす影響を調べた。また,せん断強度の増加に有効である接合面の全域でフレッティング(微小な相対すべり振動)が起こる接合を取り上げ,Chip on Chip 接合における Au バンプと Al 電極の接合に及ぼすチップ同士の平行度の影響を調査した。さらに,接合面に垂直な振動方向の超音波を印加する接合方法による Au バンプと Au 電極の接合部の高強度化を検討した。
第 1 章では,電子機器の製造における電子デバイスパッケージ組立技術の位置付けを示し,安価な電子デバイスパッケージの小型化に有効な超音波フリップチップボンディングに関する研究の意義を述べた。また,当該接合技術における課題と本研究の目的を示し,論文の構成について述べた。
第 2 章では,Au バンプとセラミック基板の Au 電極の接合において,接合部のせん断強度に及ぼす基板電極の Au 層の厚化の影響を調査した。その結果,Au 層厚を 0.44 µm から 0.91 µm に厚化することにより,Au バンプの巨視的な塑性変形量が変わらず,接合部のせん断荷重が約 50%増加することを明らかにし,Au 層の厚化はせん断強度の増加に有効であることを示した。せん断荷重が増加する理由として,Au 層が厚くなると塑性流動が発生し易くなり,接合面の微視的な塑性変形量が増加することを示した。また,Au バンプの巨視的な塑性変形量が変わらない原因として,基板電極の凹凸に起因する基板電極と Au バンプとの摩擦力が大きいため,基板電極と Au バンプとの接合状態が摩擦力に及ぼす影響が相対的に小さくなることを示した。
第 3 章では,Au バンプとセラミック基板の Au 電極の接合を対象として,超音波の印加 中に接合荷重をランプ状に増加させる方法が接合部のせん断強度に及ぼす影響を調査した。 Au バンプの高さを 78 µm から 30 µm まで減少させる接合において,接合荷重を一定に保持する通常の接合と比較して,ランプ状接合荷重の接合では接合部のせん断強度が 110%増加することを明らかにした。その理由として,接合初期の接合荷重が低い状態で接合面の全域でフレッティングが起こり接合されることと,フレッティングにより Au バンプおよび電極の接合阻害物を破壊しながら拡張する真実接合面積が増加することを示した。
第 4 章では,Au バンプとチップの Al 電極の接合面の全域でフレッティングが起こる接合を用いた Chip on Chip 接合におけるチップ平行度の影響を調査した。平行度の低下により Au バンプと Al 電極の接合面積に約 2 倍の差が生じても,全ての Au バンプにおいて Al電極との接合面積に対する真実接合面積の比率が約 65%に達することを明らかにした。真実接合面積の比率が変わらない理由として,接合面において微視的な塑性変形を起こす超音波によるせん断力と接合荷重による圧力に,平行度の影響が無いことを示した。
第 5 章では,接合面に垂直な振動方向の超音波を印可する接合方法による Au バンプとセラミック基板の Au 電極の接合部の高強度化を検討した。接合部のせん断荷重および Auバンプの巨視的な塑性変形量を,接合面に平行な振動方向の超音波を印加する通常の接合方法と比較した。その結果,Au バンプの高さ減少率が 60~64%の範囲において,接合部のせん断強度が約 20%向上することを明らかにした。また,接合に寄与する主な微視的な塑性変形は接合面の拡大領域におけるフレッティングではなく,Au バンプと Au 電極の密着過程で生じることが示唆され,接合部せん断強度の増加には接合荷重を高くすることが有効であることを示した。
第 6 章では,本研究を総括した。