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大学・研究所にある論文を検索できる 「がん治療における免疫栄養療法に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

がん治療における免疫栄養療法に関する研究

中村, 健太郎 東京大学 DOI:10.15083/0002008297

2023.12.27

概要





















中村 健太郎

がん患者の生活の質(QOL)低下には、患者の体重減少や栄養不良といった要因が大きい
ことが明らかになっている。そのため、がん患者の治療に際しては、栄養不良を防ぐため
に適切な栄養管理が重要になる。がん患者では、がんの存在やがん治療に伴う生体へのス
トレスによって、異常な免疫反応が引き起こされ、栄養不良の原因となっている。
これらを背景に、本論文は、種々のがん治療の際の適切な栄養管理方法を見出すことを
目的とし、ホエイペプチドや乳酸菌発酵物等を配合し、栄養組成を工夫した免疫調整流動
食(IMD)について、動物モデルを用いて評価し、その作用機構を検討したものであり、6
章から構成されている。
第 1 章の緒論ではまず研究の背景と目的について述べている。第 2 章では、IMD を利用し
た栄養管理を行うことで、周術期の侵襲ストレスによって生じる異常な生体反応を予防、
軽減できるかどうかを明らかにするために、腸管虚血再灌流(I/R)による全身性炎症反応
モデルおよび食事誘発性急性膵炎による遠隔臓器障害モデルを用いて IMD の効果を検討し
ている。通常の栄養管理で使われる一般的な組成の流動食(汎用流動食)または IMD を凍
結乾燥物としてマウスに投与した後に I/R 手術を実施した。手術後の生存を確認したとこ
ろ、IMD 投与により術後早期の生存率が改善した。また、手術後の血中インターロイキン-6
(IL-6)濃度および血糖値の上昇が、IMD 投与によって抑制された。以上より IMD を術前に
投与することでがん手術後の生存が改善される可能性が示唆された。続いて、マウスのコ
リン欠乏エチオニン添加食誘発性急性膵炎による遠隔臓器障害モデルを用いて、炎症発症
後から IMD を投与したところ、汎用流動食と比較して脾臓や肝臓の腫大、および血中の肝
酵素指標の上昇が有意に改善された。また、血中 monocyte chemoattractant protein-1 濃
度の上昇が IMD 投与によって有意に抑制された。これらの結果から、炎症が発症した後で
も IMD による栄養管理を行うことで、遠隔臓器障害が軽減されることを見出している。
第 3 章では、がん悪液質に対する化学療法と IMD を用いた栄養管理の効果を検討してい
る。マウス結腸がん細胞株 Colon26 細胞を皮下移植したマウスに、抗がん剤 5-フルオロウ
ラシル(5-FU)を投与しながら、汎用流動食または IMD を摂取させた結果、5-FU と IMD の
併用によって、体重および筋肉量が維持され、汎用流動食を摂取させた場合と比べて、血
漿中のプロスタグランジン E2 濃度が有意に低下しており、血漿中 IL-6 濃度および血管内皮

増殖因子濃度も同様に低下が認められた。また、IMD が 5-FU の抗腫瘍効果を減弱させるこ
とはなかった。以上より、抗がん剤と IMD の併用は、がんの進展に伴う体重や除腫瘍体重、
筋肉の減少を抑制することが示されており、その機序としてがんによる全身性炎症反応の
抑制が示唆されている。
第 4 章では、IMD が腸管および腸内環境に与える影響を検討している。マウスに IMD を投
与することで、汎用流動食に比べて小腸組織重量、および盲腸内短鎖脂肪酸量、血漿中グ
ルカゴン様ペプチド-2 濃度、血漿中グレリン濃度が有意に増加した。また、IMD を摂取し
たラットの小腸組織では汎用流動食に比べ、絨毛が有意に長く、陰窩が深く、陰窩中の分
裂細胞数が増加した。また、IMD を摂取したラット盲腸中では、 Bifidobacterium 属と

Lactobacillus 属の細菌数の増加が認められた。以上の結果より、IMD は腸内細菌叢を改善
し、腸管内の短鎖脂肪酸の増加や、消化管ホルモンの産生亢進を誘導することを明らかに
しており、これらの作用が全身性炎症反応の抑制やがん悪液質の発症予防の機序の一つと
考察している。
がんの化学療法中は、がん悪液質を考慮した栄養管理に加えて、抗がん剤の副作用も考
慮した栄養介入が必要になる。第 5 章では、IMD が抗がん剤 5-FU により誘発される副作用
を予防できるかどうかを検討した。汎用流動食または IMD をラットに摂取させた後に 5-FU
を投与したところ、IMD は 5-FU 投与後に誘発される体重や摂餌量、白血球数の減少を抑制
した。また、IMD の摂取は 5-FU 投与後の腸管絨毛の萎縮を予防し、下痢の発生を遅延させ
た。第 3 章と第 5 章で得られた知見を統合すると、化学療法の際に IMD による栄養管理を
行うことで、がん悪液質への進展を予防しつつ、抗がん剤の副作用を低減できる可能性が
考えられた。第6章の総合討論では、IMD の作用機序や、臨床応用について考察している。
以上本論文は、がん治療における手術や化学療法の際の IMD を用いた栄養管理の有用性
を示し、その機序の解明を進めたもので、学術上応用上寄与するところが少なくない。よ
って、本論文は博士(農学)の学位請求論文として合格と認められる。

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