Elucidation of the physiologic and genetic characteristics of autonomous fruit-set under high temperature in chili pepper
概要
トウガラシ(Capsicum)は香辛料、蔬菜および観賞用鉢物として利用される重要な園芸作物であるが、地球温暖化による気温上昇に伴い、花粉稔性など生殖能力および着果率の低下が予測されている。果菜類では、高温で着果率が低下する時期には着果率を向上させるために花粉媒介昆虫の導入やホルモン剤処理などの人為的な着果促進処理を行うこともあるが、トウガラシでは着果促進処理を行わずに栽培することが多い。したがって高温下であっても着果促進処理を行わずに着果する性質、即ち、高温での自動着果性(高温自動着果性)が求められるが、そのような形質を持つ遺伝資源の探索はこれまで行われていない。高温自動着果性を有する系統を見出し、その着果機構を明らかにすることができれば、地球温暖化による高温下でも収量が低下しない施設生産の実現につながることが期待される。本研究では、高温自動着果性を示すトウガラシ遺伝資源を見出し、次いでその高温自動着果性の生理的および遺伝的機構を解明するために必要な基盤的知見を得た。
第1章では、トウガラシ属の4 種( C. annuum 、C. frutescens 、C. baccatum 、C. chinense)に属する13品種から高温自動着果性が高い品種を探索した。その結果、C. annuum の2品種、‘タカノツメ’ および‘五色旭光’の高温期の自動着果率が高いことを発見した。C. annuumの品種群内では、着果率は花粉発芽率と相関が高かった。また、C. chinenseでは、‘Sy-2’および‘No.3686’の高温期の自動着果率が低いにも関わらず、それらのF1雑種では高いという現象が発見された。高温期の自動着果率に明瞭な品種間差異が見出され、高温自動着果性が遺伝的に制御され得ることが示唆された。
第2章では、第1章で見出された高温自動着果性に優れた ‘Sy-2’בNo.3686’のF1雑種に着目し、高温自動着果性に関わる生殖能力を探索した。高温自動着果性に雄性または雌性のいずれの要因が関わるかを明らかにするため、人工授粉による相互授粉を行った。その結果、F1雑種での高温自動着果性の獲得は、高温環境下における雄ずい側および雌ずい側の両方の生殖能力の維持に起因すると考察された。このうち、‘Sy-2’および‘No.3686’と比べてF1雑種では花粉発芽率が高いことが確認されたため、高温下での花粉発芽能力の維持が雄ずい側の因子に当たると考えられた。
第3章では、‘Sy-2’בNo.3686’のF1雑種に見られた高温自動着果性の遺伝様式に関する解析を行った。F2集団を利用しddRAD-seq法により得たSNPsの関連解析を行い、高温期の自動着果率および花粉発芽率と有意な関連を有する領域を探索した。その結果、第6染色体と第3染色体に1つずつ関連のp値が高い領域を検出した。第6染色体の領域内に推定される遺伝子座(Male reproductive Heat tolerance 1:MH1)に‘Sy-2’型アレル、第3染色体領域内に推定される遺伝子座MH2に‘No.3686’型アレルを有する系統では高温期の自動着果率および花粉発芽率が高かった。トウガラシの高温自動着果性に関わる2遺伝子座を特定できたと考えられた。
第4章では、単粒系統法によって作成したF4集団を用いて2つの遺伝子座MH1および MH2の高温期の自動着果率および花粉発芽率へ与える効果を調査した。‘Sy-2’型MH1アレルは‘No.3686’型MH2アレルと共存したときのみ花粉発芽率を向上する効果があると考えられた。一方で、高温期の自動着果率はMH1およびMH2の2遺伝子座による相加的な遺伝様式を示した。F1雑種が高温自動着果性を獲得した原因には、2遺伝子座の相互作用による高温下での花粉発芽率の維持が関わる可能性が示唆された。
以上より、本研究は施設園芸において重要であると考えられる自動着果性に着目し、トウガラシのF1雑種における高温自動着果性を生理学的および遺伝学的な観点から解析し、関連する遺伝子の座乗領域を特定したものであり、トウガラシだけでなく