宇都宮大学船生演習林におけるシイタケ原木に関する放射性セシウムの調査
概要
2011年3月11日に発生した,東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故(以下,「原発事故」とする)により,環境中へ大量の放射性核種が放出・飛散した.その結果,海洋をはじめ陸上生態系でも広域にわたり森林地帯にも放射性降下物による汚染が引き起こされた.その中で,放射性セシウムである137Csは半減期が30年と比較的長く,森林・林業活動に及ぼす影響が懸念された.東北・北関東地方では,シイタケ人工栽培用の原木を生産するコナラ類の森林が汚染され,一部の市町村では,原木の流通・利用ならびに生産されたシイタケの出荷が制限された.特に,露地栽培によるシイタケの生産・出荷に関しては,甚大な影響を受けた.原発事故の影響により国の定めた放射性セシウムに関する規制値は,食品としてのシイタケが100Bq/kg,そして樹皮を含む原木から子実体であるシイタケへの放射性セシウムを移行係数を2とし,シイタケ栽培用の原木が50Bq/kgとなった.
福島県南部に隣接する栃木県では,原発事故後の2011年3月15日に放射性降下物が観測された(飯塚ら2012).筆者らは,栃木県北部の塩谷町に設置されて,当該福島原発から南西方向約130kmに位置する宇都宮大学農学部附属演習林において,シイタケ原木栽培ため伐採されるコナラ属(コナラ,一部フモトミズナラも含む.以下,「コナラ」とする.)を対象に,12月に採取した原木を翌年の4月に植菌し,露地栽培されたホダ木およびそこから生産されたシイタケ子実体(以下,「シイタケ」とする.)について,放射性セシウムによる影響を調査してきた.本報告は,これまでの結果を整理したものである.