The clinical significance of CXCL16 in the treatment of advanced non-small cell lung cancer
概要
1. 序論
血管内皮増殖因子(Vascular endothelial growth factor: VEGF)-Aを標的としたヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブは、VEGFを阻害することで血管新生を抑える目的で開発された分子標的薬であり(Jain RK. 2005)、進行非扁平上皮非小細胞肺癌患者に対しプラチナ製剤併用化学療法に上乗せすることで有効性を示す(Sandler A et al. 2006)(Niho S et al. 2012)(Zhou C et al. 2015)。ベバシズマブの効果予測バイオマーカーとしていくつかの血管新生マーカーとベバシズマブの有効性を評価する研究がこれまで行われてきたが、現時点で確立されたものは無い(Jayson GC et al. 2011)(Miles DW et al. 2010)(Jubb AM et al. 2006)(Van Cutsem E et al. 2012)(Van Cutsem E et al. 2011)。C-X-Cモチーフリガンド16(CXCL16)はCXCケモカインファミリーのひとつであり、腫瘍細胞の増殖や転移に関わることが知られている。そのメカニズムとしては、CXCL16のHIF-1αの調節によるVEGF分泌とERK、Akt、p38経路を介した自己増殖による血管形成の誘導や細胞移動の促進などが示されている(Wang J et al. 2008)(Lin S et al. 2009)(Gao Q et al. 2012)(Yu X et al. 2016)。本研究では、血管新生因子であるCXCL16に着目し、非小細胞肺癌患者における血清CXCL16値と組織でのCXCL16の発現、および細胞障害性抗癌剤やベバシズマブの血清CXCL16値に与える影響や予後との関係を評価し、これらによりベバシズマブを含むプラチナ製剤併用化学療法で治療された患者におけるバイオマーカーとしてのCXCL16の意義を検討した。
2. 実験材料と方法
2010年10月から2016年8月に横浜市立大学附属病院呼吸器内科で進行非小細胞肺癌と診断された患者の血清CXCL16値を測定した。血清は化学療法の開始前および各コース時、病勢進行後に採取した。血清CXCL16の濃度は、酵素免疫測定法(Enzyme-linked immuno-sorbent assay: ELISA)によって測定された。治療前後の血清CXCL16値、奏効率(response rate: RR)、無増悪生存期間(Progression free survival: PFS)、および全生存期間(Overall survival: OS)をログランク検定を用いて統計解析した。また、肺癌組織アレイを用いて、肺癌組織におけるCXCL16およびVEGF-Aの発現を免疫組織化学染色によって評価した。
3. 結果
40人の患者が適格基準を満たし、患者背景は以下の通りであった。年齢の中央値は66.5歳(38-85歳)、男/女21人(52.5%)/19人(47.5%)、腺癌/扁平上皮癌/非小細胞肺癌/大細胞神経内分泌肺癌34人(85.0%)/4人(10.0%)/1人(2.5%)/1人(2.5%)、臨床病期はIIIB期/IV期/術後再発3人(7.5%)/34人(85.0%)/3人(7.5%)であった。27人の患者が化学療法を施行され、13人の患者が分子標的療法(EGFR-TKI投与11名、ALK-TKI投与2名)を施行された。化学療法を受けた患者のうち、ベバシズマブ併用療法を施行された患者が14人、ベバシズマブ非併用療法を施行された患者が13人であった。
40名の非小細胞肺癌患者と27名の健常者での血清CXCL16値をELISA法で測定した。非小細胞肺癌患者の治療前の血清CXCL16の中央値は3.47(2.08-8.14)ng/mLであり、年齢適合健常成人者と比較し有意に上昇していた(2.18(1.34-2.98)ng/mL, p<0.05)。
一次治療としてプラチナ製剤併用化学療法を受けた進行非小細胞肺癌患者を、ベバシズマブ併用群と非併用群に分け、それぞれ治療前後での血清CXCL16値を評価した。ベバシズマブ併用群のうち治療効果が得られた患者では血清CXCL16は有意に低下したが(治療前の⾎清CXCL16値: 3.50(2.50-5.30)ng/mL、治療後: 2.83(1.91-4.54)ng/mL)、一方でベバシズマブ非併用群では血清CXCL16は低下しなかった(⾎清治療前のCXCL16値: 3.40(2.10-4.14)ng/mL、治療後: 3.37(2.42-4.65)ng/mL)。更に、病勢進行を認めた患者では治療後の血清CXCL16値は有意に増加していた(治療前の血清CXCL16値: 3.12(2.08–8.14)ng/mL、PD後: 4.14(2.63–10.81)ng/mL、p<0.05)。
細胞障害性抗癌剤とベバシズマブの併用療法における、効果予測因子としての血清CXCL16の有用性を評価するために、ベバシズマブ併用化学療法を受けた患者を、治療開始時の血清CXCL16値で2群に分けた(カットオフ: 3.45ng/mL)。治療開始時の血清CXCL16低値群では奏効率が高値群に比べて有意に高かった(低値群vs.高値群=85.7%vs.16.5%、p=0.029)。しかし、2群間でOSとPFSにおける有意差は見られなかった。続いて、化学療法を受けた患者の治療前後の血清CXCL16の変化とOSの関係を検討した。化学療法後に血清CXCL16値の低下が得られた患者群は低下が得られなかった患者群に比べて予後が良好であった(カットオフ: 0.07ng/mL)。更に、より大きな低下が認められた12例中9例で化学療法にベバシズマブを併用されていた。治療開始時点の血清CXCL16値はPFSやOSとの相関を認めなかったが、低値群ではよりベバシズマブの効果が高く、化学療法後に得られた血清CXCL16値のより大きな低下は予後良好因子である可能性が示唆された。
4. 考察
本研究では、治療前の血清CXCL16値は健常者に比べ非小細胞肺癌患者において有意に高く、治療前の血清CXCL16値がベバシズマブ併用化学療法の効果の予測につながる可能性があることが示された。一方、治療前の血清CXCL16値とベバシズマブ併用療法のPFS、OSに相関は見られなかった。血清CXCL16の治療前後の変化がベバシズマブを併用した化学療法の効果を反映する可能性があることが示唆され、治療後に血清CXCL16値が得られた患者においては、OSの延長と相関が見られた。上記の結果から、血清CXCL16値はベバシズマブの効果予測バイオマーカーとなる可能性が示唆された。