Isolation and Structure Elucidation of Bioactive Compounds of Red Kidney Bean (Phaseolus vulgaris L) and Jack Bean (Canavalia ensiformis (L) DC)
概要
糖尿病は、世界中で患者の有病率が毎年増加している疾患の一つであり、特にインスリン非依存性糖尿病を適切に管理するには、食後の血糖値の上昇を抑制することが重要である。そのため、 α-グルコシダーゼ阻害剤は糖尿病の改善のために用いられる。近年、天然物由来の効果的なα-グルコシダーゼ阻害剤の探索研究が盛んに行われ、様々な植物から阻害能を有する物質が見出されている。
マメ科植物は、特に開発途上国で広く消費される食品の 1 つである。これまでに、豆類には様々な生理活性物質が含まれていることが多数報告されている。中でもポリフェノール類は、生物活性物質の代表的な一つとして報告されている。しかし、マメ科植物は多種多様であり、いまだ十分に調査されていないものが多く存在する。 それらの中には、抗糖尿病薬として利用可能な新たな物質が含まれている可能性がある。 本研究では、α-グルコシダーゼ阻害活性を指標として、インドネシア産 Red kidney bean 及び Jack bean 中の生理活性物質の単離・構造解析を行うことを目的とした。
1.Red kidney bean(Phaseolus vulgaris L)ヘキサン抽出物中の抗糖尿病成分
Red kidney bean を各種溶媒で抽出し、そのα-グルコシダーゼ阻害活性を測定したところ、ヘキサン抽出物に中程度の阻害活性が見出された。そのため、脂溶性物質に着目して分離を行った。得られた化合物は GC-MS 及びUPLC-MS を組み合わせることにより構造決定を行った。その結果、ヘキサン抽出物中の主要成分は、トリアシルグリセロール(TAG)であった。GC-MS 分析により TAG の構成脂肪酸を決定し、UPLC-MS/MS 分析により各脂肪酸の結合位置を決定した。主な TAG は、構成脂肪酸がα-リノレン酸(ω-3)(Ln)とリノール酸(ω-6)(L)である LnLnLnと LnLLn であった。 これら TAG のα-グルコシダーゼ阻害能は、ポジティブコントロールとして用いたアカルボースに匹敵した。さらに、TAG 中の構成脂肪酸の種類とその結合位置は、阻害能に影響を与えることが明らかとなった。不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸に比べて阻害活性が高く、 TAG 中の不飽和脂肪酸の割合が多いほど阻害活性は高い傾向が見られた。
2.Jack bean(Canavalia ensiformis(L.)DC)中の抗糖尿病成分
Jack bean の高付加価値化による利用率の改善を目指し、α-グルコシダーゼ阻害活性を指標にしてポリフェノール成分の分離と構造解析を行った。得られたポリフェノール類はすべてケンフェロール配糖体であり、主要の 4 種に加えて、微量成分として 10 種以上の同定に成功した。構造解析は、NMR(1D 及び 2D)、GC-MS、UPLC-MS を組み合わせることによって行った。得られた化合物のうち、1 種が新規化合物(kaempferol 3-O-α-L- rhamnopyranosyl (1→6)-β-D- glucopyranosyl (1→2)- β-D-galactopyranosyl-7-O-[3-O-o- anisoyl]- α -L-rhamnopyranoside)であり、その他についても、Jack bean 中では初めての報告であった。得られた化合物のうち、糖構造にアニソイル基が結合した構造を有する化合物は、ポジティブコントロールとして用いたアカルボースよりも高いα-グルコシダーゼ阻害活性示した。この結果は、これらの化合物が糖尿病予防において有効である可能性を示した。
本研究において、これらの植物中には抗糖尿病作用を示す物質が含まれていることが明らかとなった。本研究で単離同定した化合物は、抗糖尿病薬あるいはそのリード化合物として利用できる可能性がある。さらにこれらの植物の、食品としての利用による糖尿病予防効果、機能性食品としての利用の可能性が示唆され、未利用植物の有効活用の可能性が期待できる。