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大学・研究所にある論文を検索できる 「重陽子加速器中性子源を用いた天然亜鉛を原料とする医療用放射性銅の製造法」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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重陽子加速器中性子源を用いた天然亜鉛を原料とする医療用放射性銅の製造法

青木, 勝海 AOKI, Katsumi アオキ, カツミ 九州大学

2022.03.23

概要

現在、がんは多くの先進国において死亡原因の第1位となっており、日本でも昭和56年から死亡原因の第1位となっている。放射性同位元素(Radioisotope: RI)は、がんの治療と診断の両者で利用され、がんの早期発見・早期治療にとって重要な役割を担っている。本研究では、RIを用いたがんの画像診断に着目している。そのがんの画像診断の代表例の1つとして、陽電子を放出するRIを用いたPET(positron emission tomography)検査が挙げられる。現在、PET検査に用いられるRIは、半減期が短く、製造拠点から使用施設まで輸送できる範囲に制限があり、検査目的が限定されてしまっている。この問題を解決するために、長半減期のRIが求められており、64Cuがその候補として提案されている。64Cuの半減期は12.7時間であり、現在PET検査に用いられているどのRIの半減期より長く、製造施設から病院への輸送、体内動態の経過観察が可能な長さである。また、64Cuは、PET検査の応用のみならず、セラノスティクスと呼ばれる治療や64Cuが放出するベータ線とオージェ電子を用いた治療への応用も考えられているRIである。

 現在、64Cuは12MeVに加速した陽子による64Ni(p,n)反応で製造されている。しかし、入射粒子である陽子は荷電粒子であり、原料であるNi中の飛程が短く、その表面でしか64Cuを製造することができない。また、64Niの天然存在比が0.93%と非常に低く、大量に製造するためにはコストの高い同位体濃縮試料を用いる必要がある。新たな製造手法として、64Zn(n,p)反応を用いた製造手法が提案されている。この製造手法では、透過力の高い中性子を原料に照射することによって、原料全体にわたって64Cuを生成することができる。さらに、64Znの天然存在比は49.2%と高く、64Cu以外の亜鉛同位体の副生成物の反応断面積が小さい中性子エネルギー領域で製造できるため、原料として天然亜鉛を用いて高純度な64Cuを十分な量を製造することが可能である。

 64Zn(n,p)反応による製造手法では、数十MeVに加速した重陽子を炭素やベリリウムなどの標的に衝突させることで中性子を生成し、その中性子を原料である亜鉛に照射する。一般的に核変換によるRI製造においては、目的核種および副生成物の生成について見積り、生成量や同位体純度を推定する必要がある。先行研究では、9MeVと12MeVの重陽子入射による64Cuの製造実験を行い、高純度の64Cuの製造を確認した。しかし、従来手法である64Ni(p,n)反応による生成量より少なかったという課題があった。その課題を解決するために、重陽子エネルギーを上げることで生成量を増加させつつ、高純度な64Cuを生成する重陽子エネルギーを検討する必要がある。生成量を導出する際には、重陽子標的から生じる中性子収量分布(TTNY)と反応断面積が必要となる。しかし、前者の実験データが十分になく、64Cu製造のために最適な入射重陽子エネルギーを検討することができない。また、系統的な測定には多重箔放射化法が有利だが、よく用いられる逐次近似法による中性子スペクトルアンフォールディングでは導出するスペクトルの不確かさを解析的には導出できない。そのため、64Cuの生成量を予測する際に、不確かさまで導出ができない。さらに、近年重陽子核データライブラリであるJENDL/DEU-2020が整備され、重陽子加速器中性子源によるRIの製造量や同位体純度の導出が可能になった。しかし、JENDL/DEU-2020を用いたRI製造量の導出は理論計算であり実験による検証が必要である。

 そこで、本研究では次を目的とした。
1. 逐次近似法によるアンフォールディングにおいて、ランダムサンプリング手法を適用し測定および断面積データの不確かさ伝播を考慮したTTNYの不確かさ導出手法を開発し、64Cuの生成量と同位体純度に精度を与える。
2. C(d,n)反応のTTNYを複数の重陽子エネルギーにおいて系統的に測定し、64Cuの生成量と同位体純度の重陽子エネルギー系統性を調査し、最適な重陽子エネルギーについて検討する。
3. 測定したTTNYを用いて導出した64Cuの生成量と、JENDL/DEU-2020に基づいたTTNYを使って導出した64Cuの生成量を比較し、JENDL./DEU-2020の検証を行う。

 本研究ではまず、多重箔放射化法の測定データから中性子スペクトルを不確かさ付きで導出する手法を開発した。生成放射能と反応断面積に対してランダムサンプリング手法を適用し、大量の入力データを作成した。この時に、生成放射能は測定時の統計誤差を標準偏差とした正規乱数を用い、断面積は核データの共分散を用いて多変量正規乱数により生成される。生成したデータを、逐次近似法のアンフォールディングコードであるGRAVELの入力値として使用し、大量の中性子スペクトルを導出する。導出したスペクトルを統計解析することで、解スペクトルとその不確かさを導出できるようにした。

 開発した中性子スペクトルの不確かさ手法のテストのために、シミュレーションで導出した生成核種の放射能に対して開発した手法の適用を行った。このシミュレーションは、PHITSにて20MeV重陽子入射によるC(d,n)反応で生じた中性子を多重箔に照射し、実際の多重箔放射化法によるTTNY測定実験を模擬した。アンフォールディングの入力データ生成の際の断面積のランダムサンプリングでは、共分散を使った場合とそうでない場合で、それぞれの中性子スペクトルの不確かさが異なり、共分散を考慮した場合の方の不確かさが大きくなることがわかった。これは、誤差伝播則より導出した中性子スペクトルの不確かさに、断面積の共分散に関係する項が含まれていることが原因だと考察した。これにより、断面積の共分散を用いて不確かさを導出することが重要であると考えた。

 次に、16、20、25MeV重陽子入射によるC(d,n)反応のTTNY測定を、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター(CYRIC)にて行なった。開発した不確かさ手法を適用し、TTNYとその不確かさを導出した。導出したTTNYは、過去にWeaverらやMeuldersらが測定したデータ、JENDL/DEU-2020に基づいたTTNYと比較し、同様の傾向を示すことがわかった。この時に、TTNYの不確かさ(分散・共分散)を導出し、64Cuの生成量の精度を導出できるようにした。また、TTNYの重陽子エネルギー系統性についても調査し、重陽子エネルギーが上がるにつれて、中性子収量が上がることがわかった。

 導出したTTNYと核データを用いた畳み込み積分により、銅の各同位体の生成量を算出した。その時、誤差伝播則よりTTNYと核データの不確かさを生成量の不確かさへ伝播させ、生成量の精度について検討した。この結果より、核データの不確かさによる伝播がTTNYの不確かさより大きいことがわかった。64Zn(n,p)反応の断面積を様々な核データライブラリと実験値を比較し、今後の断面積評価について議論した。さらに、JENDL/DEU-2020に基づいたTTNYを用いて、銅の各同位体の生成量を計算し、測定したTTNYを用いた場合と比較し同様の傾向を得ることがわかった。その結果から最適な重陽子エネルギーについて検討した。

 本論文は6章から構成される。

 第1章は序論であり、研究背景と目的について述べる。64Cuが医学分野で注目されているRIであることを示し、その製造手法について述べた。TTNYの新規実験データ取得と64Cuの生成量予測の重要性について説明した。

 第2章では、中性子スペクトルの測定手法である多重箔放射化法について説明し、TTNYの導出とその不確かさ導出の手法について述べる。

 第3章では、シミュレーションで導出した生成核種の放射能に対して2章で述べた手法を適用し、その結果について述べる。断面積のランダムサンプリングの際に共分散の使用の有無によって変化するTTNYの不確かさについて説明し、断面積の共分散を用いた不確かさ導出の重要性について述べた。

 第4章では、16、20、25MeV重陽子入射のC(d,n)反応の各TTNYの測定について述べる。導出するTTNYを、過去の他者の実験データと比較した結果やTTNYの不確かさ(分散・共分散)について説明する。

 第5章では、導出したTTNYとその不確かさから、64Cuの製造量と同位体純度とそれらの不確かさを導出した結果について説明する。64Cuの製造量と同位体純度の重陽子エネルギー系統性について明らかにした。さらに、JENDL/DEU-2020に基づいたTTNYを用いて算出した64Cuの製造量と同位体純度を比較した。

 最後に第6章では、本研究を総括するとともに今後の課題、展望について述べる。

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