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書き出し

ヒレの形態再生機構に関する研究

植本 俊明 東北大学

2020.03.25

概要

序章
動物が持つ再生能力は多種多様であり、体の半分を失っても再生可能なものもいれば、体の一部しか再生できないものもいる。再生できる動物と再生できない動物は何が違うのだろうか。再生できる動物は、どのようにして体のパーツを再生するのだろうか。この疑問に答えるために、再生研究では様々な動物を用いた再生現象の解明が進められてきた。

再生現象を理解するための重要な課題の一つに形態再生の解明がある。本研究では、硬骨魚類ゼブラフィッシュの尾ヒレ再生を用いて、器官レベルと個体レベルの視点から形態再生機構の解明を目指した。第 1 章では、ヒレ再生研究に用いられている、条鰭類の胸ヒレと尾ヒレについて、その組織構造と骨格パターンについて記載した。第2章では、器官レベルの現象として、尾ヒレの形態再生への切除前の形態の記憶の関与を調べた。第 3 章では、個体レベルの現象として、ヒレ再生中の体サイズ変化をヒレの形態再生に反映する機構の解明を行なった。最後に、総合議論では、形態再生のための鰭条 (きじょう) の再生する長さの制御機構について、ヒレの内外で起こる現象について議論する。

第 1 章:条鰭類のヒレ骨格
条鰭類(じょうきるい)は胸ヒレと腹ヒレとよばれる有対ヒレと、背ヒレ、臀ヒレ、尾ヒレとよばれる無対ヒレを持つ。本章では、形態学的・発生学的観点から条鰭類の代表的なモデル生物として用いられているゼブラフィッシュを例に、胸ヒレと尾ヒレの構造、特に骨格について記載した。

胸ヒレの骨格
ゼブラフィッシュの胸ヒレは 2 種類の内骨格 (前後軸に沿って並ぶ 4 個の近位担鰭骨 (proximal radial) と 6-8 個の遠位担鰭骨 (distal radial)) と外骨格 (鰭条) から構成されており、全ての鰭条は根元で遠位担鰭骨に接続 (2 本の lepidotrichia が遠位担鰭骨を挟み込む) している。胸ヒレの鰭条本数は 10-14 本のように個体間でのばらつきが報告されており、実際に野生型系統の個体の胸ヒレを観察すると、鰭条本数には 11-13 本のばらつきが見られた。また、内骨格と鰭条の接続本数の解析から、胸ヒレの遠位担鰭骨に接続する鰭条本数には個体で共通するものとばらつきが見られるものがあることが示された。

尾ヒレの骨格
尾ヒレは 3 種類の内骨格 (血管棘 (hemal spine)、準下尾骨 (par-hypural)、下尾骨 (hypural)) と外骨格 (鰭条) から構成され、全ての鰭条は根元でいずれかの内骨格に接続する。尾ヒレの鰭条本数は 16-18 本のように個体間でのばらつきが報告されている。実際に野生型系統の個体の胸ヒレを観察すると、鰭条本数には 16-18 本のばらつきが見られた。各内骨格へ接続する鰭条の本数は血管棘のみ全ての個体で1本であり、他の準下尾骨および下尾骨にでは個体間でのばらつきが見られた。また、個体間の鰭条の総本数が同じ場合であっても、各内骨格に接続する鰭条本数の組み合わせが異なる場合があった。これらの結果から、尾ヒレの内骨格に接続する鰭条本数にはで共通するものとばらつきが見られるものがあることが示された。

尾ヒレの軸性
ゼブラフィッシュの尾ヒレは双葉型をしており、大まかに3つの領域に分けられる:長い鰭条を持つ背側と腹側の lobe 領域と短い鰭条を持つ cleft 領域。発生過程において尾ヒレはまず尾部の腹側領域に形成され、その後に尾部が背側へ折り曲がることにより、本来の前側領域が見かけ上の腹 側、後側領域が見かけ上の背側となる。そのため、背側と腹側の lobe 領域は、実際には後側と前側の lobe 領域であることになるが、本研究ではこれまでのヒレ再生研究における表記に則り、背側と腹側の lobe 領域と表記することにする。

本研究では第 2 章、第 3 章における尾ヒレ形態の解析を行うために、内骨格と鰭条の接続関係に基づき高頻度に見られた 16 本の鰭条を選択し、背側 8 本の鰭条を Dorsal fin-ray (DR) 1-8、腹側 8 本の鰭条を Ventral fin-ray (VR) 1-8 とした。

第 2 章:切除位置依存的な鰭条の再生する長さの制御機構
魚類と同様に高い再生能力を持つ両生類の四肢再生では、切除された四肢の先端に形成される再生芽細胞が自身の器官内での相対的な位置の情報(位置記憶: 図 2 左)を持っており、その情報を用いて失った組織のみを正確に再生すると考えられている。しかし、魚類のヒレ再生において、鰭条の再生する長さが位置記憶に基づいて制御されているのかは不明である。鰭条が再生する長さは、再生が行われる時間 (再生期間) と再生期間中の鰭条の成長する速さ (成長速度) によって決まっていると考えられる。そこで、本研究では再生する鰭条の長さを決める再生期間、成長速度の位置依存性を調べることで、鰭条の再生する長さの決定への位置記憶の関与を検証した。

まず、尾ヒレを 2 通りの方法で切除し、各鰭条の再生過程の位置依存性を調べた。尾ヒレを背-腹軸方向へ水平に切除した場合では、切除前の長さが長い鰭条は切除前の長さが短い鰭条に比べて再生期間は長く、成長速度は大きかった。また、再生終了時期と再生芽における遺伝子発現状態の関係を調べるために、ヒレの成長マーカーである fa93e10 の発現を再生過程全体にわたり定量 PCR を用いて解析した。その結果、fa93e10 の発現量のピークは成長速度のピークと一致するが発現量が尾ヒレ切除前の状態に戻る時期は本研究で明らかにした再生終了時期とは一致しないことが示された。次に、尾ヒレの背側の鰭条と腹側の鰭条を基部-先端部軸方向に異なる位置で切除した場合では、基部側で切除した鰭条の方が先端部側で切除した鰭条よりも再生期間は長く、成長速度は大きくなる傾向が見られた。統計解析において、再生期間と成長速度は鰭条の切除した長さと相関していたことから、再生期間と成長速度は基部側から切除位置までの距離ではなく、鰭条先端部から切除位置までの距離 (切除した長さ) によって決まっていることが示唆された。これらの結果から、切除された鰭条は自身が失った部分を認識し、再生期間と成長速度の両方を制御することで失った長さを正確に再生する、すなわち双葉型の形態を再生すると考えられる。さらに、薬剤処理を用いた、鰭条の切除部位付近の太さと再生する長さの関係の解析から、切除部位付近の組織状態が位置記憶として鰭条の再生する長さの決定に寄与している可能性が示された。

第 3 章:体サイズ変化に相関した鰭条の長さの制御機構
鰭条の再生する長さの制御機構について、第二章では鰭条が切除前の長さを再生するために、切除部位付近の組織にある位置記憶を用いている可能性を示した。一方、ゼブラフィッシュは一生を通じて成長し続けるように、再生中に体の大きさが変われば、再生すべきヒレの長さも変化する可能性がある。したがって、鰭条の再生する長さの制御には、“体サイズの変化の情報” という尾ヒレの外から得られる情報も関与しているのではないかと考えた。

本研究ではまず、尾ヒレ再生期間中における体サイズ変化と鰭条の再生する長さの関係を調べ た。尾ヒレ再生中に体サイズが変化した個体では再生終了時の鰭条の長さは再生前よりも長くなっていた。さらに、体-鰭比は再生前後で変化していなかったことから、鰭条が再生する長さは体サイズの変化を反映しており、さらに体サイズに対して一定の比率となる長さに制御されていることが示された。この時、体サイズの変化の大小に関係なく再生期間はおおよそ一定であるが、成長速度は変化していたことから、体サイズ変化時には鰭条の成長が促進されることにより再生前よりも長い鰭条が再生することがわかった。次に、体サイズ変化への GH と IGF の関与を調べるために、GHと IGF1 を尾ヒレ再生中の個体へ投与し、再生期間内における体サイズ変化量への影響を調べたところ、GH と IGF1 は再生期間内における体サイズ変化を促進するが、体-鰭比は再生前後で変化しなかいことがわかった。また、体サイズ変化時における生体内の GH/IGF シグナル経路の活性化状態を調べるために、脳下垂体、肝臓、尾ヒレにおける GH/IGF シグナル経路の遺伝子発現解析を行った。その結果、体サイズ変化に相関して GH/IGF シグナル経路の遺伝子発現量が増加していた。これの結果から、GH シグナルや IGF シグナルが体サイズを増加させると同時に鰭条の成長を促進することで、鰭条の再生する長さに体サイズ変化が反映されていることが示唆された。また、再生時と非再生時における GH/IGF シグナル経路の遺伝子発現状態の比較から、再生時と非再生時では体サイズ変化時における GH/IGF シグナル経路の遺伝子発現状態が異なることが示された。

総合議論
器官形成研究において、形態再生機構の理解は重要な課題の一つである。本研究では双葉型の尾ヒレを持つゼブラフィッシュをモデルに、器官レベルの視点と個体レベルの視点から尾ヒレの形態再生機構の解明を目指した。2 章ではヒレの形態再生への位置記憶の関与を調べた。鰭条の再生する長さを決めるパラメータ (再生期間と成長速度) の解析から、再生期間と成長速度は切除した長さによって決まっている可能性を示した。この結果は、鰭条の再生する長さの決定には基部-先端部軸に沿った位置記憶が関与することを示唆している。そして、薬剤処理実験において示されたように、切除部位付近の組織状態 (鰭条の太さ) が基部-先端部軸に沿った位置記憶として、鰭条の再生する長さを決めているのかもしれない。

第 3 章では体サイズ変化を鰭条の再生する長さに反映する機構の解明を目指した。体サイズ変化を尾ヒレに伝える機構として全身性シグナルの関与を考え、その候補として GH と IGF に注目し た。GH や IGF の投与実験および GH/IGF シグナル経路の遺伝子発現解析から、GH シグナルや IGFシグナルは体サイズ変化を促進すること、鰭条の再生成長を促進することが示唆された。これらのことから、体サイズ変化時には GH シグナル量、IGF シグナル量が尾ヒレに “体サイズ変化の情報”として伝達され、尾ヒレは受け取った GH シグナル量、IGF シグナル量に応じて鰭条の成長を促進させることで、体サイズ変化を鰭条の再生する長さに反映させているのかもしれない。

体サイズ変化時において、尾ヒレ内の IGF シグナルはどのようにして鰭条の長さに変換されるのだろうか。例えば、全身性シグナルは鰭条が持つ位置記憶 (組織状態) を書き換えることによっ て、再生する鰭条の長さを常に変化させているのかもしれない。これを検証するためには、鰭条の太さを制御する機構に加え、尾ヒレ内における IGF シグナル量の変化が再生する鰭条の長さの変化にそのように繋がるのかを明らかにする必要があるだろう。

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