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大学・研究所にある論文を検索できる 「マルチモーダルディープラーニングモデルを用いた副伝導路の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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マルチモーダルディープラーニングモデルを用いた副伝導路の解析

Nishimori, Makoto 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
 WPW症候群は心臓内の副伝導路が原因で動機などの症状を引き起こす先天性の疾患であり、心房細動を合併すると致死的となる疾患である。本疾患は12誘導心電図においてデルタ波と呼ばれる特徴が見られ、従来は決定木モデルで副伝導路の局在診断がなされてきた。しかしながら、従来のアルゴリズムではデルタ波の極性が曖昧な場合、電位が低い場合、複数の副伝導路や構造異常といった先天的な奇形が存在する場合には正確性に欠けるという難点が存在する。また、各患者においても心臓の軸や大きさに影響されるといった問題点も潜んでいる。
 近年、医療分野における人工知能の応用が飛躍的に進歩している。特に医療画像においては、ディープラーニングモデルが台頭している。また、画像データのみならず波形データに関しても応用が進んでいる。従来の決定木モデルを利用した副伝導路局在診断の問題点に対し、本研究ではディープラーニングモデルを用いたWPW症候群の副伝導路の予測モデルの作成を試みた。本研究の主目的は従来のアルゴリズムよりも高精度なモデルを作成することであり、副目的は各々の患者の心臓のサイズや軸に依存しないように胸部レントゲン写真を心電図に追加して診断するモデルを作成することである。

【方法】
患者群とデータ
 本研究は、2009年3月から2021年1月までに神戸大学医学部附属病院を含めた7施設でWPW症候群に対してアブレーション治療を行った240名の患者、および正常例54名(合計294名)を対象とした後ろ向き観察研究である。アブレーションの術前に施行した12誘導心電図検査および胸部レントゲン検査の情報、および術中の電気生理学的検査の情報を使用した。
 副伝導路の局在部位はカテーテルアブレーションによる副伝導路離断成功部位により3つのグループ(Α, Β, Οに分類した。左側副伝導路(左房自由壁と左室間をバイパスするもの)をグループΑ、右側副伝導路(右房自由壁と右室間をバイパスするもの)をグループΒ、中隔部副伝導路をグループCとし、正常例をグループΝとした。

データ前処理
 12誘導心電図データは元の画像データから計算コストを抑えるために一次元データへの変換を行った。4.8m秒あたり1ピクセル、2.4μVあたり1ピクセルに変換し、全体として1心拍を250×375ピクセルに切り抜き、それぞれの誘導あたり長さ250のリストに変換した。また、胸部レントゲン画像データは200×200ピクセルに縮小した。
 本研究ではサンプルサイズが小さいため、ディープラーニングモデルの汎化性能の測定には5-foldクロスバリデーション法を用いて、平均精度とロスを算出した。

ディープラーニングモデルの構築
 全体として2つのモデルを作成した(モデル1:心電図を入力し副伝導路の局在部位を出力するモデル、モデル2:心電図および胸部レントゲン画像データを入力し、副伝導路の局在部位を出力するモデル)。
 本研究では画像認識モデルなどで広く用いられているconvolutional neural network(CNN)モデルの中で、主に1次元CNNを使用してモデルを構築した。全体として16層のCNNレイヤーと全結合層およびソフトマックス層で構築され、出力は4分類とした。また、オプティマイザーにAdamaxを使用し、ミニバッチサイズは32とした。ハイパーパラメータの調整はベイズ最適化法を用いた。
 モデル1は心電図データを入力値として学習するのに対し、モデル2は心電図データに同患者の胸部レントゲン画像から特徴量を抽出したものを結合させたデータを学習するモデルとした。胸部レントゲン画像の特徴量を抽出するために、ResNet50モデルを使用し、1519例の公開データを用いて事前学習を行い胸部レントゲン画像の特徴量を抽出できるようにした。その後、本研究のために集めたデータセット(心電図と胸部レントゲン画像)で学習を行った。ResNet50モデルの最終レイヤーを心電図の1誘導分と同じ次元数に設定し、胸部レントゲン画像のデータを12誘導の心電図に追加し、13誘導分のデータとして学習を行った。全体の80%を学習用に、20%をテスト用に使用し、5-fold cross validation法でモデル1、モデル2に対する陽性的中率、感度、F1スコア、全体の精度の4項目とし、従来のアルゴリズム(St George's decision tree algorithm)に対するそれぞれの評価値との有意差を評価した。
 外部バリデーションのため、上記で学習したモデルの係数を固定し、学習時には使用していない外部施設から入手したデータを入力し、それぞれのモデル'に対する評価値(陽性的中率・感度・F1スコア•精度)と従来のモデルとの有意差を評価した。

【結果】
患者背景と副伝導路の局在
 対象期間に全206症例(男性135症例、女性71症例)が登録され、平均年齢46.9歳(13-84歳)であった。副伝導路の局在部位の内訳は、グループAが113例(54.9%)、グループBが23例(11.2%)、グループCが38例(18.4%)、グループNが32例(15.5%)となった。

従来アルゴリズムとの比較
 モデル1(心電図モデル)は従来アルゴリズムよりも全体の精度が有意に高かった。(0.78[SD, 0.02] vs 0.61; p<0.001(one samplet-test))。また、グループAとグループBの陽性的中率、感度、F1スコアは従来アルゴリズムに比べいずれも有意に高く(p<0.001; one sample t-test)、グルーブCに対する陽性的中率(p<0.001)、Flスコア(p=0.019)が従来アルゴリズムに比べ有意に高かった。

胸部レントゲンデータの追加のモデル指標への影響
 モデル2(心電図+胸部レントゲンモデル)はモデル1(心電図モデル)よりも全体の精度が有意に高かった((0.80[SD, 0.04] vs 0.78[SD, 0.02]; p<0.04(t-test))。また、グループBに関して、モデル2の感度(p=0.0011; t-test)、Flスコア(p=0.008; t-test)はモデル1に比べ有意に高かった。

外部バリデーションデータでの検証
 モデルの学習には使用していない外部施設から入手したデータを用いた検証では、全体88例のうち、グループAが45例(51.1%)、グループBが13例(14.7%)、グルーブCが8例(9.0%)、グループNが22(25.0%)を解析対象とした。
 モデル1の全例に対する陽性的中率、感度、F1スコアおよび精度はいずれも従来アルゴリズムに比べ有意に高かった(陽性的中率:0.74 vs 0.7(p=0.01)、感度:0.73 vs 0.59(p<0.001)、Flスコア:0.73 vs 0.61(p<0.001)、精度:0.73 vs 0.59(p<0.001))。
 またモデル2の全例に対する感度、精度はモデル1に比べ有意に高かった(感度:0.76 vs 0.73 (p=0.044)、精度:0.76 vs 0.73(p=0.044))。

【論考】
 本研究では12誘導心電図データからWPW症候群の副伝導路の局在部位をディープラーニングモデルを用いて推測したところ、従来のアルゴリズムに比べ精度が有意に高かった。また、前述のモデルに加え胸部レントゲン画像を追加したモデルでは心電図のみを使用したモデルに比べて有意に精度が高かった。
 ディープラーニングモデルには従来アルゴリズムにはない有用な点がいくつか存在する。1つ目はQRS波の極性やデルタ波が曖昧な心電図の場合は、従来アルゴリズムでは判断しかねる場合があるが、ディープラーニングモデルではそういった問題点がない。2つ目は、従来アルゴリズムでは局在診断の確率を算出することができないが、ディープラーニングモデルでは各クラス分類の確率を算出することが可能であるため、いずれのクラスの確率も低い場合は心奇形や複数副伝導路の可能性がある非典型例として扱うことができる。3つ目は、従来アルゴリズムでは個々の心臓の大きさや軸の向きなどを考慮して局在診断することができないが、ディープラーニングモデルでは心電図以外の画像データも併せて入力することにより、個々の心臓の解剖学的な情報も加味して推論を行うことが可能である。
 心電図のみを使用して副伝導路の局在診断を行う際に、個々の心臓の大きさや軸方向などに影響されるため、完全に部位を診断できるアルゴリズムは存在しない。胸部レントゲン写真は心臓の解剖学的情報の一部を含むため、胸部レントゲンデータの追加は局在診断の正確度の改善に寄与したものと考えられる。本研究では正面胸部レントゲン画像のみを学習データとしたが、側面画像や胸部CTなどの2次元的な情報があればさらに精度は向上すると考えられ、今後の我々の研究の課題であると考えている。
 一般的にディープラーニングモデルは多くのサンプルデータを必要とするが、医療分野に関しては医療情報が限られているためサンプルサイズが小さくなる傾向があり、工夫が必要である。本研究においては、転移学習を使用し小さなサンプルサイズからの学習も可能とした。転移学習は外部データセットからあらかじめ画像の特徴を小さな次元で抽出できるように事前に学習することで、実データが小さい場合においても効率よく特徴量を捉えることができる手法である。本研究においてはあらかじめ大きなサンプルサイズで事前学習したモデルを使って200×200×3次元のレントゲン画像を長さ250のべクトルにまで次元削減を行った。
 本研究はサンプルサイズが小さいため、本来は10クラス以上に分類されている副伝導路を3クラスに分類するモデルを作成した。本分類による副伝導路の局在は、治療成績に関与するため治療戦略を決定するうえで重要でありその臨床的意義は高い。その一方で、さらなる詳細な局在診断には十分な学習データが必要となるため今後の研究課題としたい。

【結論】
 心電図•胸部レントゲン写真によるディープラーニングモデルを用い、より高精度のWPW症候群の副伝導路予測モデルの作成に成功した。本研究では、複数モダリティを用いたディープラーニングはより正確な診断を可能とする新規モデルを提供できる可能性を示した。

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