リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「日本におけるStaphylococcus argenteusの分布状況調査と分離菌株の性状解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

日本におけるStaphylococcus argenteusの分布状況調査と分離菌株の性状解析

若林 友騎 大阪府立大学 DOI:info:doi/10.24729/00017720

2022.07.05

概要

はじめに背景と目的
Staphylococcus argenteusは、2015年に新種として登録されたコアグラーゼ陽性ブドウ球菌である。本菌は、遺伝系統学的にS.aureusおよびS.schweitzeriと近縁種であり、これら3菌種はStaphylococcus aureus complex(SAC)として取り扱われる。S.argenteusは、皮膚軟部組織感染症や敗血症の原因菌として世界各国で分離されており、S.aureusと同様にヒトおよび動物に対する病原菌として認識されている。また、一部の菌株はブドウ球菌エンテロトキシン(SE)を産生し、食中毒を引き起こすことが報告されており、食品衛生上の新たな危害要因として着目されている。しかし、これまでに食品衛生学領域における本菌の分離報告は数例しかなく、国内における本菌の分布状況は不明である。

そこで本研究では、S.argenteusの汚染実態調査を実施し、また分離菌株の性状を解析することで、本菌の国内における分布状況並びに細菌学的性状の解明を試みた。また、S.argenteus国内分離株の全ゲノム配列を解読し、国外分離株と合わせてパンゲノム解析を実施することで、国内分離株の遺伝的背景の解明を試みた。

第一章日本におけるS.argenteusの分布状況調査
国内の市販食品および食鳥処理施設環境におけるS.argenteusの汚染実態調査を実施した。鶏肉、豚肉、牛肉、魚介類、野菜類の計642検体の生鮮食品を調査したところ、鶏肉151検体中21検体(13.9%)からS.argenteusが分離されたが、その他の食品群からは分離されなかった。食鳥処理場における調査では、羽あるいは糞便からS.argenteusは分離されなかったが、チラー水1検体、包丁柄およびまな板のふき取り液各1検体、並びに解体と体のふき取り11検体からS.argenteusが分離された。鶏肉由来21株と食鳥処理場由来14株の合計35株の全ゲノム配列を解読し、コアゲノム上のsingle nucleotide variants(SNVs)に基づく系統解析を実施したところ、35株は4つのBayesian Analysis of Population Structure(BAPS)クラスターに分類され、鶏肉由来株と食鳥処理場由来株は同じBAPSに分類された。食鳥処理場から分離された13株のpairwise-SNVを算出したところ、検出されたSNV数は、0〜17であり、同一クローンであると考えられた。これらの13株は同じ食鳥処理場で複数のサンプリング日に分離された菌株であることから、1つのS.argenteus株が食鳥処理場内に定着していると考えられた。さらに、2019年4月に市販鶏肉から分離した1株と食鳥処理場由来株の間で検出されたpairwise-SNV数は8〜15であったことから、市販鶏肉は食鳥処理場内でS.argenteusに汚染されることが示唆された。

食品衛生検査において、調理人手指および調理環境の拭取り、並びに加工食品から分離されたコアグラーゼ陽性ブドウ球菌191株について菌種を同定したところ、14株(7.3%)がS.argenteusと同定された。14株の内訳は、調理従事者の手指由来株が9株、調理器具由来株が4株、食品(むきえび)由来株が1株であった。14株の全ゲノム配列を解読し、データベース上のS.argenteusゲノム配列とともにコアゲノムSNVに基づく系統解析を実施したところ、14株中7株が同じBAPSクラスター(BAPS5)に分類された。BAPS5に分類さ日本におけるStaphylococcus argenteusの分布状況調査と分離菌株の性状解析若林友騎れた18株(本研究分離株7株、データベース登録株11株)について詳細に比較したところ、同じ施設の調理人手指と調理器具から分離された菌株間で検出されたpairwise-SNV数が最大で2SNVであったことから、手指を介して調理器具が汚染されることが示唆された。また、本研究で手指から分離した菌株と国外で有症者から分離された菌株が、遺伝的に近縁関係であったことから、手指に常在しているS.argenteusがヒトに感染症を引き起こす可能性が考えられた。

SACの各菌種は互いに生化学性状が類似しており、S.argenteusは通常の同定検査ではS.aureusとして誤同定される。大阪健康安全基盤研究所において、これまでに食中毒検査あるいは食品検査等で分離したブドウ球菌1,190株について、改めて菌種を再同定したところ、2009年から2020年に分離された67株(5.7%)がS.argenteusと同定された。このことから、少なくとも2009年にはS.argenteusが国内に存在しており、通常の検査でS.aureusとして分離された菌株の数%程度は、実際にはS.argenteusであることが示唆された。

第二章日本のS.argenteus分離株の性状解析
国内で分離・収集した計95株のS.argenteus株について、Multi-Locus Sequencing Typing(MLST)による遺伝子型別、SE遺伝子の探索、並びに薬剤感受性試験を実施した。MLSTの結果、95株は13種類のSequenceType(ST)に型別された。近縁なSTをClonalComplex(CC)としてクラスタリングしたところ、13のSTは4種類のCCといずれのCCにも属さない2つのSTに分類された。ST1223が31株と最多の分離株数で、次いでST2250が27株、ST2854が16株、ST2198が5株であった。タイをはじめとして、多くの国でST2250が主要な遺伝子型であると報告されていることから、日本のS.argenteus株は、国外とは異なる遺伝子型分布を示した。

26種類のSE遺伝子の保有状況をPCRで探索したところ、17種類のSE遺伝子が少なくとも1株以上から検出され、その組み合わせパターン(毒素型)は10種類に分類された。selxは95株すべてで検出された。毒素性ショック症候群毒素-1遺伝子が1株から検出されたが、Panton-Valentine Leukocidin遺伝子を保有する菌株はなかった。

16種類の抗菌薬について薬剤感受性試験を実施したところ、1剤以上に耐性を示した株は95株中23株(24.2%)であった。S.aureus分離株について同様に感受性試験を実施したところ、177株中110株(62.1%)が1剤以上に耐性を示したことから、S.argenteusはS.aureusと比較して薬剤耐性化が進んでいないと考えられた。セフォキシチンに耐性を示すS.argenteus株はなく、全株がメチシリン感受性S.argenteusと判定された。中国やタイでは、S.argenteusのペニシリンおよびテトラサイクリンに対する耐性率が高いことが報告されているが、本研究で調査した国内分離株の両薬剤に対する耐性率はそれぞれ16.8%、9.5%と低かった。

第三章S.argenteusの大規模比較ゲノム解析
本研究で分離同定したS.argenteus国内分離株71株の全ゲノム配列を解読した。データベースから取得した415株のS.argenteusゲノム配列を加えた、合計486株のS.argenteusゲノム配列を使用してパンゲノム解析を実施した。S.argenteusはオープンパンゲノムであり、検出された総遺伝子数は5,590個、コア遺伝子は2,151個であった。486株の平均遺伝子数は2,548個であったことから、平均で全遺伝子の約83%がコア遺伝子であると考えられた。データベースから取得した63株のS.aureusゲノム配列を使用して同様に解析したところ、コア遺伝子数が1,891個、63株の平均遺伝子数が2,647個であり、全遺伝子に占めるコア遺伝子の割合が約71%と計算された。このことから、S.argenteusは近縁種のS.aureusと比較して、全ゲノムに占めるコア遺伝子の割合が高いと考えられた。

コア遺伝子上のSNVに基づく系統解析を実施したところ、486株は8つのBAPSクラスターに型別された。このうち1つのBAPSは日本の分離株のみから構成されており、日本に特徴的な系統の存在が示唆された。病原因子遺伝子をin-silicoで探索したところ、細胞接着に関する遺伝子、免疫逃避に関する遺伝子、外分泌酵素遺伝子、分泌装置に関する遺伝子、鉄獲得に関する遺伝子は、ほとんどすべての菌株が保有していた。また、コアグラーゼ遺伝子やフィブロネクチン結合タンパク質遺伝子、クランピングファクター遺伝子は、配列に多様性がみられ、系統によって異なる抗原性を有することが示唆された。

selxが486株すべてから検出された。S.aureusのselx塩基配列を加えて系統解析を実施したところ、S.argenteusのselx塩基配列でクラスターを形成したことから、selxはS.argenteusとしてS.aureusから分化した際にすでにゲノムに保持されていたと考えられた。一方で、selx以外のSEについては、その多くが各BAPSに特徴的に検出されるアクセサリー遺伝子であり、Staphylococcus aureus pathogenicity islandやgenomic island等にコードされたSE遺伝子を水平伝播によって獲得したと考えられた。

薬剤耐性に関する遺伝子を探索したところ、ペニシリン耐性に寄与するblaZが複数の株で検出された。blaZはプラスミドレプリコンタイプrep5aあるいはrep16と同時に検出されたことから、これらのレプリコンを有するプラスミドがペニシリン耐性獲得に関与していると考えられた。in-silicoのSCCmec型別を実施したところ、同じBAPSの中でも複数のSCCmec型が検出され、進化系統とは無関係にゲノムに挿入されたことが示唆された。

総括
・S.argenteusは市販鶏肉や調理人の手指から分離され、食中毒の際には原材料あるいは手指から食品が本菌に汚染されると考えられた。
・S.argenteus国内分離株のMLSTおよび薬剤感受性試験の結果は、国外分離株とは異なる傾向が見られた。
・S.argenteusの全ゲノムに占めるコア遺伝子の割合はS.aureusのそれと比較して高く、多くの遺伝子が共通に保存されている一方で、SE遺伝子や薬剤耐性遺伝子は可動性遺伝因子上にコードされており、多様性が認められた。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る