がん由来因子によるアントラサイクリン心筋症の増悪機構
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名 門脇 裕
本研究は、がん由来因子によるアントラサイクリン心筋症の増悪機構を示すため、主に
担がんマウスに対してアントラサイクリン系薬剤の代表的薬剤であるドキソルビシンを投
与した担がん心筋症マウスを解析し、さらに培養心筋細胞に対してがん培養上清やがん由
来エクソソームを添加した実験を行うことによって下記の結果を得ている。
1. 乳がん細胞株 4T07 とドキソルビシンにより樹立した担がん心筋症マウスでは、著明な
心機能低下と心臓の委縮、ならびに生存率の低下が認められた。また心臓組織では
MuRF1 や MAFbx/atrogin-1 遺伝子の発現亢進を示した。
2. ドキソルビシンを含む培地で乳がん細胞株 4T07 を培養したがん培養上清を、培養心筋
細胞に対して添加した群では、がん培養上清を含まないドキソルビシン添加群との比
較において著明な心筋細胞障害が認められた。さらに同実験の培養心筋細胞において
MuRF1 や MAFbx/atrogin-1 遺伝子の発現亢進が示された。
3. ドキソルビシンを含まない培地で乳がん細胞株 4T07 を培養したがん培養上清を、ドキ
ソルビシンと混和した後に培養心筋細胞に添加しても、心筋細胞障害作用の増強は認
められず、傷害を受けていないがん培養上清はドキソルビシンによる心毒性の増強要
因とはならないことを示した。
4. 担がん心筋症マウス (Ca/DOX) 血清より細胞外小胞エクソソームを精製し、ドキソル
ビシン 100 μM との共添加を行うと、培養心筋細胞に対して著明な心筋細胞障害をもた
らすことを示した。
以上、本論文は、がん由来因子によるアントラサイクリン心筋症の増悪機構の存在を示
した。機序として、傷害を受けたがん由来のエクソソームが心臓の萎縮遺伝子を亢進させ
ることによって、アントラサイクリン系薬剤の心毒性の増悪要因として働いている可能性
が示された。がん由来エクソソームは、アントラサイクリン心筋症の新たな治療ターゲッ
トや補助診断のためのバイオマーカーとしての有用性が期待できる研究であると考える。
よって本論文は博士( 医学 )の学位請求論文として合格と認められる。