サブサーフェス磁気イメージングシステムを用いた蓄電池内電流密度分布可視化に関する研究
概要
Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2023-03-03
サブサーフェス磁気イメージングシステムを用いた
蓄電池内電流密度分布可視化に関する研究
松田, 聖樹
(Degree)
博士(理学)
(Date of Degree)
2021-09-25
(Date of Publication)
2022-09-01
(Resource Type)
doctoral thesis
(Report Number)
甲第8135号
(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/D1008135
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(別紙様式 3
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本論文は、蓄電池の内部の電流密度分布を可視化可能な磁気イメージング法に関して、
本研究にて開発した計測システム、及びこれをリチウムイオン蓄電池に適用し、蓄電池内
部電流密度分布を可視化した結果をまとめたものである。
論 文 内 容 の 要 旨
リチウムイオン蓄電池は電極上の異常電界箇所に局所集中的に析出した金属リチウムの
樹枝状結晶が、電池内部短絡の原因となることが知られており、これを抑制するには電池
内の電流密度が空間的に均ーであることが必要とされている。そのため蓄電池の発展に際
氏 名
松 田 聖 樹
し、動作環境下の電流密度分布を評価する手法の重要性は高まる一方である。
本論文では蓄電池内外における静的な電流と磁場の基礎方程式の解析解に基づき、蓄電
専
攻
化学
池外部において磁場の空間分布を計測し、得た結果から蓄電池内部の電流密度分布を非破
壊にて可視化するシステムの実験技術の開発に取り組み、ラミネート形や円筒型を含む、
論文題目(外国語の場合は,その和訳を併記すること。)
サブサーフェス磁気イメージングシステムを用いた
蓄電池内電流密度分布可視化に関する研究
様々なリチウムイオン蓄電池セルに対しその電流密度を非破壊で可視化した結果を示して
いる。
第 1章では、蓄電デバイスとして注目されているリチウムイオン蓄電池の現状の課題と、
電流密度分布を可視化する必要性、さらにその解析方法としての磁気イメージングの有用
性について示している。
第 2章では、蓄電池外部にて計測された磁場から蓄電池内電位分布、及び溝電率分布を
再構成する理論について示している。冒頭では自由空間における定常磁場に関するラプラ
ス方の方程式を立て、解析解を尊くことで、磁場発生源からの距離に伴って広がった結果
から任意の座標における磁場分布を再構成する理論について述べている。第二に、蓄電池
内部の電流密度分布を可視化するにあたって得られた磁場から蓄電池内の電流に変化する
理論について解析的な手法を示している。
第 3章では、 2章にて述べた再構成理論にて蓄電池内部の電流密度を可視化するにあたり、
磁場分布計測技術について述べている。高感度磁気センサヘッドを 2次元走査する走査型
磁気イメージングシステム、及び磁気センサを 2次元アレイ化することで測定時間を短縮
可能となるマルチアレイ型システム、及び円筒型セル測定システムを開発しており、様々
指導教員
木村
建次郎
な形状の蓄電池セルに対して、その磁場分布を計測可能である。本章ではまず角型セルや
ラミネート形セルに適した走査型磁気イメージングシステムについて、詳説している。本
論文にて展開される磁場計測技術は pTスケールの微小磁場を計測対象としており、地磁気
を含む外的な磁場の影評を除く機構が必要不可欠であるが、これをコイルにてキャンセル
する等、蓄電池内部の電流に起因して発生し、蓄電池外部に淵洩する微小磁場を検出する
ためのハードウェア構成について示している。さらに電流経路とその周囲に発生する磁場
強度から検出可能な電流強度に関して考察している。次に本章では磁気センサをマルチア
レイ化することで測定を高速化したシステムについて、その装置構成を示している。さら
氏み、.訟田控尉灼.2
.
論文審査の結果の要旨
(別紙 1)
氏名
論文
題目
に円筒型蓄電池セルに適した計測システムとして開発した、円筒型セルの対称軸を走査軸
松田聖樹
I
サブサーフェス磁気イメージングシステムを用いた蓄電池内電流密度分布可視化に関する研究
区分
とするスキャン機構、及びその動作について示している。末尾では、蓄電池の磁場分布を
計測するにあたり、蓄電池の構造に由来する電流密度集中箇所である引き出しタブの影響
と、これをキャンセルし、明瞭に電流密度分布を映像化する計測手法として、蓄電池内の
各空間要素の位相差を利用する手法や、リファレンスデータを用いた差処理についてその
計算プロセスを述べている。
氏
職名
主査
教授
木村建次郎
副査
教授
富永圭介
副査
准教授
立川貴士
副査
教授
佐籐宣夫
副.査
印
要 旨
第 4章では、磁気イメージング法にて得られた、リチウムイオン蓄電池セルの電流密度
分布を可視化した一連の結果について述べている。電極内に尊電性の異物が混入した結果、
名
本論文は、蓄電池における電流と磁場に関する逆問題を解析的に解く方法と超高感度磁気
内部短絡を生成したセルの短絡生成箇所を可視化している。リファレンスデータとの差処
計測を組み合わせ、蓄電池内で生じる電流の局所集中を非破壊で可視化する方法論の提案と
理によって引き出しタブの影孵をキャンセルする手法を用いることで、模擬構造体、及び
その実証結果に関する一連の研究成果を纏めたものである。
蓄電池セルの電流密度集中箇所のみを明瞭に映像化することに成功した結果について示し
ている。本研究で開発した磁気イメージングシステムを用いることで、円筒形状のセルで.
あっても、電流集中に起因する磁場分布を映像化した結果について模擬構造体を用いて示
、している。さらに電流印加とともに電流密度分布が変化する試料においては、その磁場分
布の時系列的な変化を追跡し、短絡が形成されていく様子を観察することに成功している。
本章末尾では充放電ザイクルに伴って電池容最が劣化したセルに関し、磁気イメージング
蓄電池は正極、電解液、負極を積層した構造を有し、正負極間を移動する荷電粒子による
電流の空間的な不均一性は、蓄電池の安全性低下や性能劣化と直接的な関係があり、例えば、
充電時の電流の局所集中は内部短絡、容量低下の原因となる。本論文では蓄電池内部を流れ
る電流と発生する磁場に関して、磁場から電流を導く逆問題を解析的に解く理論と、これに
によって電極上の劣化箇所を特定、さらにはセル解体、及び 7
Li・NMRによる材料的なアプ
基づく計算アルゴリズム、さらに蓄電池全体に広がる電流の不均一性に由来する磁場の微弱
な空間変化を捉えるための、高感度磁気計測技術に関して、その詳細が示されている。
ローチによってその劣化要因を示した。
上述した蓄電池における電流と磁場の逆間題を解析的に解く理論では、蓄電池の電極面が無
第 5章では、蓄電池の電気的挙動を示すナイキストプロット推察される磁気イメージン
グ法の最適な測定条件に関して述べている。冒頭では本研究にて開発したナイキストプロ
ットを計測するシステムの詳細、及び実際のリチウムイオン蓄電池の計測結果を示してい
る。さらに電極上の内部パラメータが異なる箇所を磁気イメージング法にて検出するにあ
たり、その最適な測定条件を蓄電池の各空間要素の等価回路から考察しており、ナイキス
トプロットを測定することで磁気イメージング法における測定条件を決定する手法に関し
て示している。また磁場計測を行う際に蓄電池に印加する交流電流に伴って発生する渦電
流が与える蓄電池外部に堀洩する磁場への影轡に関し、交流電流の周波数という観点から
考察している。最後に内部短絡を有する蓄電池セルの短絡箇所を可視化するにあたり、先
述の測定条件によってより明瞭に短絡点由来の磁場を検出可能であることを実証した結果
について述べている。
限の拡がりを有することを前提としているが、現実の蓄電池は有限のサイズをもち、加えて
蓄電池内に電流を加えるための入出力端子を備えており、理論と実際の不一致があることが
課題であった。本論文では、この課題を解決するために、正常な動作をする基準蓄電池と、
計測対象となる蓄電池の差画像を算出、すなわち現実の蓄電池が有する、蓄電池の種類に個
別の境界条件を消去、蓄電池内循環電流として逆問題を解くことで、コントラスト比の高い
電流密度分布を導く方法論が提案されている。さらに本論文では蓄電池の電流電圧特性評価、
周波数応答特性評価と、磁気計測をベースとした電流密度分布画像計測との関連について考
察し、高いコントラスト比が得られる最適な計測条件を決定するための方法について示して
いる。磁場計測においては蓄電池に交流電流を印加し、同期した振動数の磁場成分を検出す
るが、振動数に応じて蓄電池内の正常部位、異常部位毎に電流変化が生じることを踏まえ、
ナイキストプロットから最適な振動数周波数を決定する手法および実証結果を示している。
審
査
委
員
第 6章では、本論文を総括するとともに、蓄電池に対し磁気イメージング法を適用する
ことで得ることが今後期待される可能性、及び展望について述べている。
以上、本研究は、磁気計測に基づいた蓄電池内部の電流密度分布計測技術に関して、磁気計
測の最適な条件、蓄電池における電流と磁場の逆問題の解析的理論の現実の蓄電池への適用
方法、実用蓄電池での有効性を研究したものであり、本論文は、これらの重要な知見を纏め
たものであると認める。よって、学位申請者の松田聖樹は、博士(理学)の学位を得る資格が
あると認める。