サブサーフェス磁気イメージングシステムを用いた蓄電池内電流密度分布可視化に関する研究
概要
本研究では、蓄電池内外における静的な電流と磁場に関する基礎方程式の解析解を用い、蓄電池内電流密度分布を非破壊にて可視化することに成功した。本理論は従来の方法と異なり、2 次元平面内にのみ存在する電流以外にあっても適用可能であり、磁気センサの背後にある磁場の影響に関しても問題なく考慮される。また蓄電池外部において非破壊的計測によって得られた磁場分布から実際の蓄電池内部の電位分布、電流密度分布を解析的に導く手法としては他に類を見ない計測法である。磁場計測にあたっては XY 平面の磁場分布以外にも、円筒型セルを含む様々なセルの磁場分布を計測可能なシステムを開発した。蓄電池の構成材料には常磁性体が使用されることから、解析される蓄電池の構造、構成材料は本計測手法によって限定されない。また内部短絡箇所等、実際に動作する蓄電池の電流密度を可視化することに成功した。金属によって構成される蓄電池において、その内部情報を非破壊可視化することが出来る点が他の計測に対して有利であるといえる。
第 1 章では、リチウムイオン蓄電池の現状の課題と、電流密度分布を可視化する必要性について述べ、磁気イメージングの有用性について示した。
第 2 章では、本研究における磁場と電流の基礎方程式、及びその解析解を用いた再構成理論について詳説した。本研究における再構成理論は蓄電池外部の磁場計測データから、蓄電池近傍の磁場分布、蓄電池内部の電位分布、電流密度分布を解析的に算出する方法であることを示した。
第 3 章では、第 2 章で述べた再構成理論を含む非破壊電流密度分布可視化システムを実現する、磁場分布計測装置について述べた。その中でラミネート型セルや角型セルに適した XY 平面の 2 次元磁場分布だけでなく、円筒型セルの対称軸に沿ったスキャン軸の装置構成や、測定時間の短縮を可能にするマルチアレイ型装置等について述べた。さらに磁気イメージング法のアプリケーションにおいて蓄電池固有の課題である引き出しタブによる影響に関し、内部抵抗と容量性電流の位相差や、リファレンスデータによる差処理によってダイナミックレンジを最適化する要素技術について述べた。以上の技術によって現在までに市場に存在するほぼ全ての蓄電池セルに対し、磁場計測に基づく電流密度分布イメージングが適用可能となったと言える。
第 4 章では、第 3 章までに述べたイメージングシステムを用いて、様々な不良モードを持つ蓄電池セル、及びその模擬構造体の電流密度分布の可視化に成功した結果について述べた。製造工程において導電性異物が混入し、充電時、電池電圧に異常が生じたラミネートセルの内部短絡箇所の可視化した結果について述べた。測定試料の磁場分布とリファレンスデータを差処理することで引き出しタブによる影響をキャンセルする手法を用い、蓄電池模擬構造体やセパレータ欠損を有するラミネートセルの電流密度異常箇所を可視化した結果について述べた。本研究で開発した磁気イメージング法によって円筒型模擬構造体の磁場分布を可視化可能であることを示した。電流を印加した時間とともに電流密度分布が変化する試料において、短絡点の形成が進行する様子を可視化した結果について述べた。末尾では充放電サイクルとともに劣化した蓄電池セルの、電流密度の変化が大きい領域と小さい領域を磁気イメージング法によって映像化し、さらにセル解体、7Li-NMR を用いることでその原因の特定した結果について述べた。
第 5 章では、蓄電池セルの電子デバイスとしての電気的挙動を計測するナイキストプロットについて、その計測システム、及びリチウムイオン蓄電池に適用した結果について述べた。さらに電極上の各座標を平均化したマクロな特徴であるナイキストプロットと、空間的分布というミクロな特徴を計測する磁気イメージング法の関係について考察し、磁気イメージング法における最適な測定条件を決定するプロセスについて述べた。またこれに際し、蓄電池構成材料である金属による渦電流の影響について述べた。内部短絡を有する蓄電池セルでは、上記の最適な測定条件においてより明瞭に短絡箇所が可視化された結果について述べた。
以上、本論文では、蓄電池の内部を非破壊で可視化することが可能な磁気イメージング法に関して、本研究にて開発した計測システム、及びこれを実際にリチウムイオン蓄電池に適用した実験結果についてその詳細を述べ、蓄電池解析手法としての発展に貢献する成果をまとめた。