NDNにFunction Chainingを適用したIoTネットワークの実用化に向けた機能実装
概要
1.1 まえがき
近年、社会の IoT 化が進むにつれて、IoT デバイスが急速な増加傾向にある。これら IoT デバイスの中には、ファクトリーオートメーションや自動運転車のように短い応答時間を必要とするものも多い。そのため、今後の社会ではより低遅延でリアルタイム性の高いネットワーク環境が求められることとなる。これを解決する手法としてエッジコンピューティングが提案され、注目されている。エッジコンピューティングは、エッジデバイスの近くにコンピューティングインフラストラクチャを配置することにより、全てのデータをクラウドサーバに送信する場合に比べてより迅速かつ効率的な処理を行うという考え方である [6]。しかし、現行のエッジコンピューティングの問題点として、これらコンピューティングインフラストラクチャを用いてデータ送信を行うため、データ転送時間がコンピューティングインフラストラクチャの配置場所や処理能力に依存してしまうことが挙げられており、確実なリアルタイム性を保証することができない [5]。この問題を解決するため、私たちはネットワークサービスの仮想チェーンを作成し配送コンテンツに適用する Service Function Chaining (SFC) の考え方を採用し、ネットワークサービスを戦略的かつ動的に配置することを提案している。この考え方を用いたネットワークでは、ネットワーク内のあらゆるコンピューティングリソースに対してチェーン化された Function を実行することによって IoT データを処理し、目的のアウトプットを取得することができる [9]。この考え方を基にネットワークサービスを戦略的かつ動的に配置することにより、IoT 環境で求められているリアルタイム性の追求を実現することができる。さらに私たちはエッジコンピューティングにおける問題点の解決に向け、現在普及している IP通信とは異なりコンテンツの名前を介してルーティングを行う Named Data Networking (NDN) を SFC と併用する。NDN と SFC の考え方を併用した場合、NDN はコンテンツ名だけでなくファンクション名を使用してパケットルーティングを行う。そのため、ネットワーク内に配置されたあらゆる Function の中から最も適切なインスタンスを選択することができる。このように、SFC と共に NDN の考え方を用いることによってより柔軟な Function チェインを行うことが可能となる。
また、NDN では各ルータが通過したデータを一時保存しておくための Cache 機能を有している。NDN ではこの機能によりコンテンツ受信までの時間を短縮することができ、SFC を実行する場合には Function 処理を施したデータを Cache することによって Function 処理に費やす時間も省略することができる。NDN とSFC を組み合わせて作成されたネットワークである NDN Function Chaining+ (NDN-FC+) は効率的であり管理をする上でも簡単であるため、IoT 環境に対応したネットワークだと言える。
本研究では、NDN-FC+のユーザビリティをより向上させるためのアーキテクチャの変更、作成を行った。まず、IoT 環境で求められるリアルタイム性を追求するため、ルータが自らの Cache データを自律的に更新する手法を提案し評価を行った。さらに、柔軟な Function チェインの構成のため、 Function 処理におけるネットワーク部と加工部を切り離し、Function を複数から選択する手法を提案し評価を行った。
1.2 本論文の構成
本論文の構成を以下に示す。
• 第1章では、本研究における序論を述べる。
• 第2章、第3章では、本研究で用いられる概念である SFC および ICN、NDN について説明する。
• 第4章では、本研究に関連する研究について紹介する。
• 第 5 章では、本研究で用いられるネットワークアーキテクチャである NDN FC+について説明する。
• 第 6 章では、本研究の提案手法について説明する。
• 第 7 章、第 8 章では、本研究の評価方法およびその結果について説明する。
• 第 9 章では、本論文のまとめおよび今後の展望について述べる。