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Investigation of the pathogenic mechanism of short stature and delayed closure of the fontanel by unknown protein FAM111A.

田中, 裕之 東京大学 DOI:10.15083/0002005103

2022.06.22

概要

【序文】
family with sequence similarity 111 member A (FAM111A)は611アミノ酸からなるタンパク質で、C末端側に触媒三残基を含むトリプシン様セリンペプチダーゼ相同配列を有する。ユビキタスに発現し、核内に局在し、DNA複製に関わると想定されている。

Kenny-Caffey症候群(KCS)は著明な低身長、長管骨の骨膜肥厚と髄質の狭小化、大泉門の閉鎖遅延などを伴う症候群である。我々はこれまでに、常染色体優性遺伝で知能低下を伴わないKCS2型(KCS2)において、全エクソーム解析により、FAM111Aの特定のヘテロ接合性変異を有していることを示した。さらにKCS2と類似の症状を呈し、より重症型のOsteocraniostenosis(OCS)もFAM111Aのヘテロ接合性変異と関連していることが示された。しかし、FAM111Aの詳細な生理作用や、KCS2及びOCSそれぞれのhotspot変異であるR569H・P527Tが軟骨・骨にどのように影響するかは、全く分かっていない。

これまでに報告されているFAM111Aの変異は、人種及び家系をこえて共通の変異である。さらにgnomADなどのデータベースでは、早期終止コドンとなるナンセンス変異やフレームシフト変異の頻度が稀ではないことから、機能喪失によって疾患を発症することは考えにくい。また、我々はR569H変異を有するKCS2患者のFAM111AmRNAの発現が、健常人コントロールと同等であることを示している。これらの理由からFAM111Aのヘテロ接合性変異と関連するKCS2とOCSの症状は、FAM111Aのハプロ不全による機能喪失ではなく、機能亢進もしくは優性阻害効果によりもたらされると推察した。そこで本研究では、この仮説に基づきCre依存的に野生型または変異型ヒトFAM111Aを発現するtransgenicマウス(Tgマウス)を作製し、FAM111Aの軟骨・骨への作用を検証した。さらに、細胞株を用いて軟骨・骨分化への直接作用やタンパク質動態についても検証した。

【方法と結果】
Cre依存的に野生型または変異型(R569H)ヒトFAM111Aを発現するTgマウスを作製した。まず、このTgマウスをCAG-Creマウスと交配させることにより、全身でヒトFAM111Aを過剰発現させたが、野生型または変異型ヒトFAM111Aの過剰発現系ともにgenotyping陽性となる出生児は得られず、母胎内への死胎の残存も認められなかった。この結果からヒトFAM111Aの全身での過剰発現は胎生早期致死となり、ヒトの病態を検証出来ないと考えられた。

そのため、Fam111a及びFAM111Aの生体内での生理的強発現部位を調べた。C57BL/6マウスの組織から抽出したmRNAを用いて、リアルタイムRT-PCRを行った結果、Fam111aが成長板において強発現していることが明らかとなった。さらに、ヒト成長板組織を用いた免疫染色を行ったところ、FAM111Aが肥大軟骨細胞終末から一次海綿骨骨芽細胞に強発現していることが明らかになった。

これらの結果と、KCS2では重度の低身長の他に大泉門閉鎖遅延といった臨床症状を呈することを踏まえて、TgマウスをPrx1-Creマウスと交配させることで、四肢頭蓋特異的にヒトFAM111Aを過剰発現するマウス(Prx1-Cre;hFAM111Aマウス)を作製した。その結果、変異型発現マウス(Prx1-Cre;R569HhFAM111Aマウス)で長管骨の著明な短縮・大泉門閉鎖遅延が認められ、野生型発現マウス(Prx1-Cre;WThFAM111Aマウス)で軽度の骨短縮が認められた。さらに組織学的にみると、Prx1-Cre;R569HhFAM111Aマウスの脛骨近位端では、軟骨細胞数の減少と成長板層構造の乱れが認められた。TUNEL染色では明らかな差異は認められなかったが、EdU染色で細胞増殖が低下していた。

FAM111Aと変異体の軟骨・骨分化への直接的な影響を検証するために、マウスの軟骨前駆細胞株ATDC5及び骨芽前駆細胞株MC3T3-E1を用いた分化実験を行った。また、KCS2のhotspot変異であるR569Hだけでなく、OCSのhotspot変異であるP527Tについても同様に実験を行った。まず、野生型または変異型ヒトFAM111Aを恒常的に強制発現させたATDC5を用いて、軟骨分化・石灰化誘導後に、軟骨基質を染色するトルイジンブルー染色と、軟骨分化後期マーカーであるCol10a1のmRNA発現をリアルタイムRT-PCRで検証した。その結果、ヒトFAM111Aの発現によりトルイジンブルー染色の減弱とCol10a1のmRNA発現低下が認められ、これらの変化はR569HならびにP527T変異型で強く、野生型で軽度であった。次に、野生型または変異型ヒトFAM111Aを強制発現させたMC3T3-E1を骨分化させた後に、骨芽細胞が生成するALPの染色と、骨分化後期マーカーであるBglapのmRNA発現をリアルタイムRT-PCRで検証した。その結果、ヒトFAM111A発現によりALP染色の減弱とBglapのmRNAの発現低下が認められ、これらの変化はATDC5と同様にR569HならびにP527T変異型で強く、野生型で軽度であった。

最後に、細胞株を用いてウエスタンブロッティングによる強制発現FAM111Aタンパク質の確認と、免疫染色による内在性FAM111Aの細胞内局在の検証を行った。HEK293に野生型または変異型FAM111Aを強制発現させウエスタンブロッティングを行ったところ、野生型発現株で全長の75kDaに加えて約45kDaの断片が認められ、変異型発現株でこの断片が著明に増加していた。R569HとP527T以外の他の既報変異で解析したところ、同様に断片の増加が認められた。断片の増加量はKCS2の既報変異よりOCSの既報変異の方が多い傾向にあった。次に、FAM111Aの全長とN末端側の断片を認識する252-356アミノ酸配列を認識するポリクローナル抗体と、全長とN末端側とC末端側の断片の全てを認識する全長配列を認識するポリクローナル抗体の二種類を用いてHEK293で免疫染色により内在性FAM111Aを検出した。その結果、全長とN末端側の断片は間期の核小体内に顆粒状に局在が認められ、一方でC末端側の断片は細胞周期を通して、核内、核小体内及び細胞質内に顆粒状に局在が認められた。野生型と変異型の強制発現では細胞内局在に明らかな差異は認めなかった。

【考察】
本研究ではFAM111Aが生体内で成長板の肥大軟骨細胞終末から一次海綿骨骨芽細胞に強発現して、軟骨内骨化及び膜性骨化を抑制する機能を有していることを世界で初めて示した。さらにPrx1-Cre;hFAM111Aマウスの解析でKCS2のhotspot変異であるR569HヒトFAM111Aが、マウスにおいてKCS2と同様に四肢長管骨の短縮と大泉門閉鎖遅延をきたすことを示した。また、組織学的な解析により、骨短縮の発症機序は細胞増殖の低下によることが示唆された。Prx1-Cre;hFAM111Aマウスでの軟骨内骨化と膜性骨化を抑制するという結果は、細胞株での分化実験によって、より直接的に示した。また、細胞株を用いた実験では、OCSのhotspot変異であるP527Tでも同様に抑制することが判明した。タンパク質レベルの実験ではFAM111Aは全長に加えて一部断片化して存在していることが判明した。この断片はKCS2及びOCSを引き起こすほぼ全ての変異で増加し、OCSの既報変異の方が多い傾向があること、細胞内での局在は断片により異なり、全長とN末端の断片が核小体内に存在しC末端の断片が細胞質に存在することを示した。

今回得られた結果を統合すると、断片化タンパク質が骨化を抑制する機能を有し、変異型では断片が増加するため、FAM111Aの機能亢進作用により骨短縮や大泉門閉鎖遅延をきたすと考えられた。さらにOCSではこの断片の増加がより著明なため、重症な臨床症状を呈することが示唆される。

FAM111Aは、DNA複製や細胞周期に関連することが、先行研究で示唆されている。しかし、詳細な機序は不明なままで、軟骨細胞や生体内での機能は検証されていなかった。本研究のPrx1-Cre;hFAM111Aマウスの組織学的な解析により、初めて生体内での軟骨細胞増殖との関連を示した。またFAM111AはDNA複製の際にproliferating cell nuclear antigen (PCNA)と共に働く重要なタンパク質であることが示唆されているが、成長板においては、PCNAとは鏡像となる発現局在であることから、FAM111AとPCNAの発現量の変化が適切な細胞周期の維持に重要であると考えられた。FAM111Aで高度に保存されている配列であるPIPboxがPCNAとGST pull down assayで直接結合することが示唆されており、このPIPbox配列を有するFAM111AのN末端の断片が細胞増殖の抑制機能を有していることが推察される。

今回の結果から、FAM111Aは断片化により生理作用を獲得することが示唆された。FAM111Aが相同配列を有するトリプシノーゲンは、切断による断片化により活性型となるタンパク質であり、hotspot変異による切断の亢進や断片の安定化によって疾患を発症するとされており、本症と同様の機序が想定される。

今後の検討課題として、本研究ではKCS2及びOCS患者でのFAM111A強発現組織の変化や、FAM111Aの多臓器への影響が検証出来ていないこと、FAM111Aの正確な切断点や切断機序、その後の分解経路や、変異による断片増加が切断の亢進によるものなのか、断片タンパク質の分解障害によるものなのかについての検討があげられる。今後、断片毎の機能解析を行うことで、将来的には患者の症状を治療する方法を開発し得ると考えられる。

【結論】
本研究の成果は、作用未知であったFAM111Aが生体内で軟骨・骨の成長及び分化増殖に抑制作用を有することを世界で初めて示した。FAM111Aが変異によりこの機能が亢進することでKCS2の原因となることを明らかにした。KCS2における低身長発症機構の解明のみならず、骨格形成の新たな制御機構の発見と考えられる

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