論文の公開元へCurrent knowledge of and attitudes toward human papillomavirus-related disease prevention among Japanese: A large-scale questionnaire study
概要
１．序論
子宮頸がんを始めとする HPV（ヒトパピローマウイルス）関連疾患は予防し得る性感染症である．そのため世界中で男女を問わず一次，二次予防が重要視されてきている（Lowy et al., 2008）．日本では，子宮頸がんの予防を目的として予防接種法の下で HPV ワクチン接種の定期接種が開始されたものの，慢性疼痛症候群や運動機能障害などの副反応に対する疑念から 2013 年 6 月に厚生労働省から積極的接種勧奨の中止が打ち出されて以降，公費接種対象世代（小学校 6 年生～高校 1 年生までの女児）における HPV ワクチンの接種率はほぼゼロとなっている (Ueda et al., 2015)．国や名古屋市が行った疫学調査によって HPVワクチンの接種有無に関わらず副反応とされている症状を呈する同世代の子供達がいることやHPV ワクチン接種と副反応における関連性は証明できないことが示されたが (厚生労働省, available at: http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000- Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000147016.pdf; Suzuki et al., 2018)，未だ国主導のHPV ワクチン接種プログラムの積極的接種勧奨の再開の見込みは立たない．このような日本の現状を改善するためには，日本人における HPV や HPV ワクチンなどに関する知識や意識の現状を明らかにしておく必要がある．また，性感染症という観点から男性の予防意識や行動が重要であるが，特に男性の HPV，HPV ワクチン，子宮頸がんに関する知識や意識は低いだろうと推測され，この仮説を明らかにする．
２．方法
調査場所と研究参加者
2015 年 10 月～2016 年 6 月までに全 21 か所で調査を行った．横浜駅の公的イベントスペース（平日と休日の 2 回），大学生（横浜市立大学医学部 5 年生，神奈川大学人間科学部 1・2 年生，横浜市立大学国際総合科学部 3 年生）や専門学校生（東京都，埼玉県，新潟県にある看護学校の生徒）の授業，横浜市にある社員 10 名以上の企業 7 社，市民公開講座や学会などで調査研究の機会を得た．16 歳以上の日本人男女を対象とし，研究の趣旨に同意いただいた上で無記名回答してもらった．
質問紙
子宮頸がん，HPV，HPV ワクチンに関する知識や意識を問う質問紙を過去の類似の調査研究を参考に作成した．調査用紙は，マークシート式とし，知識に関する 11 問（子宮頸がんに関する 6 問，HPV 感染に関する 3 問，HPV ワクチンに関する 2 問）に加え，HPV ワクチンの効果や副反応についての認識を問う問題，娘や息子に HPV ワクチンを打つかどうかを問う問題を作成した．
属性情報として，研究参加者の性別，職業，年齢，結婚歴，性経験，子宮頸がん検診歴（女性のみ），HPV ワクチン接種歴（女性のみ）を回答してもらった．
知識を問う 11 問の正答数を 3 分位点によって低知識群（0-4 点），中知識群（5-7 点），高知識群（8-11 点）に分類した．
統計
統計手法としてt 検定，χ2 検定，2 項ロジスティック回帰分析を用いた．オッズ比（OR）をロジスティック回帰分析から算出した後に，一般男性，一般女性，男性医療関係者，女性医療関係者の 4 つのサブグループにおける知識や意識の差を分析するため，多変量解析として，年齢，結婚歴，性経験を共変量として調整した調整オッズ比（aOR）を算出した．
３．結果
男女 3,033 人が研究に参加した．年齢，性別，職業のいずれかの記入がなかった 249 人を除外し，2784 人を解析対象とした．39%（1,182 人）は男性，61%（1,602 人）は女性であった．77.4%（2,156 人）は一般人であった．
HPV に関すること、子宮頸がんのこと、HPV ワクチンのことに関する計 11 問の知識を問う設問すべてで男性は女性よりも有意に正答率が低い結果であった。特に正答率に大きな差が見られたのは，「性交渉の経験があっても，20 歳代であれば子宮頸がん検診の必要はない（正解：いいえ）」の設問に対し，女性の正答率が 64.5％であった一方，男性の正答率は 24.5%であった．医療者を除く一般男性に対する医療者を除く一般女性における知識レベルは aOR=3.86 の結果であった．HPV ワクチンの効果と有害事象の認識について，一般女性は一般男性に対して aOR=2.45, 3.93 の結果であった．また，娘への HPV ワクチン接種については，一般女性は一般男性に対して aOR=0.78 の結果であった．
４．考察
医療関係者以外を主な対象とし 1000 名以上の男性を含む HPV 知識や予防意識に関する調査研究は他になく，本調査研究は貴重な日本人のデータである．仮説通りに一般男性の知識は低い結果であった．少数例の研究であるが，日本人の父親は HPV ワクチンに関する知識は低いがワクチンに対する受け入れは高いという報告もあり，我々の結果と一致している（Hanley et al., 2012）．全体として 40.7%もの参加者が娘に HPV ワクチンを接種させたいと回答した．これはワクチンの重要性については一定程度認識されていることを示しているだろう．その中で，一般女性は一般男性に比べて，娘への HPV ワクチン接種に消極的であったことも注目すべき結果である．本研究により，日本人男性の知識・認識不足が明らかとなったが，HPV は性別に関わらず感染するため，性別に関係なく知識や予防意識を持つことが重要である．男性は女性よりも娘へのワクチン接種に関して前向きな姿勢を示しており，男性へのアプローチが日本のワクチン接種率回復への一つの糸口になり得る．そのためにはソーシャルマーケティング理論（Lefebvre et al., 1988）等を用いて属性毎に効果的な介入方法を検討する必要があると考えられる．
