On the Multiplicative Relations of Gauss Sums
概要
(1) 論文の構成
本学位論文は、整数論において重要な役割を演じるガウス和についての研究である。ここでの研究テーマは、いくつかのガウス和の積が1の冪根と整数の積になる乗法的関係式についてであり、ある特別な無限族について、その正確な形を決定することを目標としている。
第1章では、準備としてガウス和の乗法的関係式の一般的な枠組みを述べ、その上で申請者が得た新しい関係式を証明している。続く第2章ではガウス和の乗法的関係式に対応する代数的ガンマ単項式を考察している。第3章では、ある虚2次体の環類体を詳細に調べて、第1章で得たガウス和の乗法的関係式の特別な場合について第2章の結果を用いることにより、ガウス和の乗法的関係式がある2次形式と深く関連していることを解明している。
(2) 論文の内容要旨
ガウス和は標数pの有限体Fの乗法的指標χと加法的指標ψの積のF上の和として定義される整数論的な量である。ガウス和は整数論の様々な場面に表れる興味深い対象であるが、一般にはその値の具体的な表示を得ることは困難である。しかし、ガウス和のいくつかの積が簡単な値になる場合がある。特に、それが p の冪と 1 の冪根の積となるとき、その関係式はガウス和の乗法的関係式と呼ばれる。その代表的な例として、ダヴェンポート・ハッセ関係式とノルム関係式と呼ばれる二つの基本的な関係式がある。ハッセはすべての乗法的関係式がそれらから得られると予想したが、山本によって、その予想に反例が存在することが示された。また、山本は、すべての乗法的関係式に対して、その 2乗はダヴェンポート・ハッセ関係式とノルム関係式の組み合わせから得られることを示した。しかし、その平方根を取ってガウス和そのものを得る際の符号決定は一般には難しい問題であることが知られている。1960年代以降、多くの研究者によってガウス和の乗法的関係式の具体的な形の研究が進められているが、まだ完全な解決には至っていない。本学位論文において、申請者は指標 χの位数mが4を法として3と合同な素数ℓの4倍である場合に対して、ガウス和の乗法的関係式についての詳細な研究を行った。
本論文の概要は次の通りである。まず、第 1 章では基礎的な知識と記号を準備し、ガウス和の乗法的関係式がどのように構成されるかなどを一般的な枠組みの中で説明している。その過程で、上述のダヴェンポート関係式とノルム関係式を復習し、本論文で扱いやすい形に整えてある。その上で、χの位数がm=4ℓの場合に、ガウス和の乗法的関係式でダヴェンポート関係式とノルム関係式の組み合わせからは得られないものを一つ具体的に構成している(Theorem 1.2.1)。山本の研究により、m=4ℓの場合には、ダヴェンポート関係式とノルム関係式を合わせると、それですべての乗法的関係式が得られることが知られている。更に、申請者は位数4のヤコビ和を用いて、対応するガウス和の積の形を具体的に決定した(Theorem 1.3.9)。この二つの結果についてはマスカットによる、m=12 の場合(つまりℓ=3の場合)の先行研究の一般化になっている。
次に、第2章ではガウス和の乗法的関係式に対応するガンマ単項式を考察している。コブリッツとオーガスにより代数的ガンマ単項式と呼ばれるガンマ関数のいくつかの特殊値の積は代数的数であり、円分体上のあるクンマー拡大を生成することが証明されている。この結果はガウス和の乗法的関係式のガンマ関数版の類似になっているとみることができる。更に、ドリーニュはこのクンマー拡大のクンマー指標とガウス和の乗法的関係式に現れる 1 の冪根εが密接に関係していることを示す明示的な関係式を証明した。申請者は、m=4ℓの場合に、ガンマ単項式を具体的に計算し、それにドリーニュの定理を適用することにより、εの値をある実2次体の基本単数を用いて表す公式を得ることに成功した(Theorem 2.0.1)。この関係式は、ガウス和の乗法的関係式が2次体の整数論と密接に関係していることを示唆している。
第 3 章では、第1章で得られた乗法的関係式のある特別な場合においては、その符号がある特別な整数係数 2 元 2 次形式による素数 p の表示と関係していることを論述している。第1章と第2章では、素数pとしては4ℓを法として1と合同な素数を考えていたが、申請者は2次形式との関連を得るためには、より強くpは8ℓを法として1と合同な素数である必要があるという事実を明らかにした。そして、その条件下で素数 p の適当な冪乗を主形式と呼ばれる特別な 2 次形式で表したとき、その整数解の ℓ を法とした合同条件によりガウス和の乗法的関係式の符号が完全に決定できることを主張する結果を得ている(Theorem 3.0.1)。この定理の証明のために、申請者は判別式が -8ℓ の虚2 次体の導手4の環類体について詳細な研究を行い、ドリーニュの定理によって 代数的ガンマ単項式で得られたクンマー拡大の類体論的な性質を明らかにした。その結果をもとに、更に環類体と2次形式の一般論を用いることによりTheorem 3.0.1を得ている。