女性の若年がん患者は、職場や地域での社会的役割だけでなく、結婚、出産、育児、介護など家庭の役割を持ちながら治療を受けている。今回、妊娠中の再発乳がん患者が、人工妊娠中絶という治療選択をした症例を経験した。看護師は多職種カンファレンスの調整を行い、適切な情報提供が行われるように調整した。また、患者と家族が話し合える環境を整え、見守ったことが迅速な意思決定に繋がったと考えられる。患者と家族は、児を失ったことへの悲嘆が続くと思われ、女性がん患者の妊孕性・妊娠・出産に関する意思決定支援では、意思決定後も多職種で精神的な支援を行っていく必要がある。
1） 鈴木久美 他：妊孕性保存と倫理，がんによって生殖機能障害を受けた女性を支える，
鈴木久美（編）
，女性性を支えるがん看護（第一版）
，医学書院，p.76，2015
2） 坂元可奈 他：子宮頸癌により中期中絶を選択した患者の思い～子宮頸癌と中期中絶に
関する文献から～，鹿児島県母性衛生学会誌，第 23 号，p.30-35，2019
表１. 意思決定までの患者と家族の思いと各職種の関わり
経過
K氏
転院当日
転院２日目
転院３日目
転院４日目
転院、造影 CT
多職種カンファレ
ンス
IC
中絶の意思表示
処置開始
腰からお腹にかけ
て痛みがはしりま
す。早く歩けるよう
になりたい。
ここまで頑張って
きたし、赤ちゃん
が動いているとこ
ろをみると諦めら
れない。痛みが取
れればもう少し動
けるようになるか
も。
歩けなくなるのが一
番怖い。痛みがとれ
れば歩けるんじゃな
いかと思ってまし
た。希望で色々考え
ちゃいけないですよ
ね。こんなはずじゃ
なかった。
自分は動けない、赤
ちゃんを抱くことも
できないかもしれな
い。超音波を見ちゃ
うと気持ちが揺らい
で、期待してしまっ
ていた。納得はして
いないけど、しょう
がないんです。
夫）今は赤ちゃんは
元気だから、殺して
しまう罪深い気持ち
はある。
（中絶について）あ
まり考えないよう
にしている。気持ち
は変わっていない。
IC 後の反応、理解の
確認。
夫婦で話し合える環
境の調整。
サポートしていくこ
とを伝える。
IC
中絶 IC 後の反応の
確認。
今後の治療や生活の
希望について聞く。
分娩前後の対応に
ついて助産師と情
報共有。
家族
夫）新築した家で 3
人で暮らしたい。
＜母はもともと妊
娠には反対してい
た経緯があり、IC
同席を依頼した＞
看護師
症状に対し「＃安楽
障害」を立案し介入
開始。
多職種カンファレ
ンスの調整。
IC 後 に 意 思 確 認
と方針の確認をす
ることを医師と共
有。
乳 腺 外
科医師
治療方針について
確認。
CT 結果説明。
カンファレンス参
産 科 医
造影剤による児へ
の影響を説明。
胎児診察。
カンファレンス
参加
IC
中絶について IC。
中絶処置の開始。
助産師
転院前より看護師
と情報共有。
カンファレンス
参加
IC 同席
分娩後の児のケアに
ついての希望を聞
く。
夫）付きそいたい。
傍にいて話をした
い。
母）現実的な話を聞
いて、今いない子よ
りも目の前の娘の方
が大事だから、長生
きしてもらって早く
治療をしてもらいた
い。
転院５日目
夫）希望でじゃな
く、今を考えなけれ
ばいけない状況だ
とわかった。障害の
ある子どもを一人
で育てていくこと
はできない。だから
妻の要望に添いた
い。
中絶する意志の確
認。
転院後に治療を開始
する旨を説明。
「＃悲嘆」立案、介
入開始
...
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