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Platelets enhance malignant behaviours of gastric cancer cells via direct contacts

齊藤 亮 山梨大学 DOI:info:doi/10.34429/00005004

2021.03.23

概要

研究の目的:
近年、癌の進展過程において、腫瘍細胞と周囲支持細胞の相互作用が重要であることが注目されている。癌関連線維芽細胞に加え、血液細胞成分であるリンパ球やマクロファージなど免疫細胞も癌進展に深く関与する。しかし、同様に血液成分である血小板と癌との相互作用についての報告は、まだ少数認める程度であり、詳細機序は不明な点が多い。一方で、我々は以前に、胃癌手術の術中出血量が多いと腹膜播種再発を来しやすいことを報告した。これらの知見から、胃癌進展、特に腹膜播種形成における血小板の役割を明らかにすることを目的とし、ヒト胃癌患者由来血小板とヒト胃癌細胞を用いた細胞機能評価と分子機序の解析を行った。

方法:
山梨大学医学部附属病院第1外科にて治療された胃癌患者から、治療介入前に採血を行った。血小板はクエン酸バッファー等を用いて非活性化状態で精製し、胃癌細胞は、樹立・株化され市販されているNUGC-3とMKN74を用いた。検討は以下の手順で進めた。
1) 胃癌細胞と血小板の接着と複合体形成を視覚的に確認するため、血小板と反応させた胃癌細胞を電子顕微鏡にて観察した。
2) 血小板により修飾される胃癌細胞機能の評価を行なった。細胞機能評価として、細胞増殖能、遊走及び浸潤能、接着能を評価した。増殖能は24時間後と48時間後の細胞数比をそれぞれ評価した。遊走能及び浸潤能は8µmの小孔膜を用いて行い、浸潤能評価では加えて小孔膜上に細胞外基質をコーティングした。接着能は腹膜播種を想定し、中皮細胞株Met-5Aへの接着細胞数を評価した。さらに、詳細検討として直接接触系に加え、血小板不透過膜を用いて液性因子のみが関与する、間接接触系を用いて同様の評価を行い、比較検討した。
3)続いて、血小板接触により癌細胞内に起こる変化を、NUGC-3胃癌細胞株と血小板の様々な反応系にて評価した。すなわち、血小板非反応系をコントロールとし、48時間直接接触系を基本対象群とし、15分直接接触系および48時間間接接触系も含めて評価を行った。15分直接接触系は血小板自体に含まれるRNAおよびタンパクを、また48時間間接接触系は液性因子を介した反応を考慮して作成した。具体的には、まず抽出したRNAを用いてマイクロアレイ解析を行った。その結果から EMT関連遺伝子の変動に着目し、特に顕著な変動を示したMMP9 mRNAについて、多数例での検証を RT-qPCRで、またタンパク発現の評価をウェスタンブロッティングにて行なった。本研究は山梨大学医学部倫理委員会の承認を受け(承認番号2159)、全ての患者から文書による同意のもと実施された。

結果:
1) 電子顕微鏡観察では、胃癌細胞の周囲を取り巻く多数の血小板が観察され、複合体形成の様子が確認された。
2) 細胞機能評価の結果、血小板直接接触により、増殖能は2倍程度に有意に増強された。遊走能、浸潤能はともに6〜7枚程度と有意に増強された(p < 0.001およびp = 0.017)。接着能の変化は1.5〜1.7倍程度と比較的軽度であったが、やはり有意に増強された(p = 0.036)。これらの細胞機能の変化は直接接触系においてのみ確認され、間接接触系では認められなかった。
3) マイクロアレイ解析では様々な分子の変化が同定された。血小板非作用群と直接接触群の比較において、多くのEMT関連遺伝子の変動が認められ、特にMMP9 mRNAの上昇が顕著であった。この変化は、血小板直接接触群においてのみ認められ、間接接触群や短時間接触群では認められなかった。多数例での検証においても、直接接触群でMMP9 mRNA発現上昇の再現性が認められ、タンパクレベルでも同様の結果であった。

考察:
本研究では、血小板により、遊走能や浸潤能をはじめとする胃癌細胞の様々な悪性挙動が増強されることが明らかとなった。いずれの変化も、胃癌における腹膜播種形成に対して促進的に作用するものと考えられた。分子解析では、血小板作用による胃癌細胞内のEMT関連分子の変化が同定され、マイクロアレイ解析の結果MMP9 mRNAが最も大きな変動を示していた。これらの変化の要因として、血小板の癌細胞への直接接触の他、液性因子を介した作用が考えられたが、詳細解析の結果、直接接触系においてのみ、細胞機能や分子発現の有意な変動が見られ、間接接触系では認められなかった。以上より、血小板と癌細胞の直接接触こそが重要であり、その結果、血小板から直接あるいは液性因子等を介して癌細胞に悪性シグナルが伝わるものと考えられた。具体的なシグナル伝達経路や、鍵となる血小板と癌細胞の結合分子に関しては現在検討中であるが、これらが腹膜播種をはじめとする癌進展に対する新規治療標的となる可能性がある。

結論:
本研究により、胃癌患者由来血小板が、特に直接接触を介し胃癌細胞の悪性度を増強することが明らかとなった。今後、新規治療標的の開発に向けた検討を進めていく。

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参考文献

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