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大学・研究所にある論文を検索できる 「Oscillon Formation and 21cm Forest by Ultra-Light Axion-like Particle」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Oscillon Formation and 21cm Forest by Ultra-Light Axion-like Particle

園元, 英祐 東京大学 DOI:10.15083/0002006656

2023.03.24

概要

論文審査結果の要旨
氏名

園元

英祐

本論文は 7 章からなる。第1章は、イントロダクションである。宇宙の構造形成の標準モデル
である宇宙項および冷たいダークマターモデル(ΛCDM)の理論予言が、小スケール、例えば、
天の川銀河の衛星銀河の個数、また矮小銀河の質量密度プロフィアル(空間分布)の観測結果を
簡単には説明できない、という問題に着目し、波の性質を有する超軽量アクシオン的粒子(AxionLike Particles: ALP)がダークマターである場合にそのΛCDM 小スケール問題を解決し得るこ
とがレビューされている。これは、アクシオン粒子の質量が 10-22eV 程度である場合、ド・ブロ
イ波長が 1kpc 程度、つまり矮小銀河の大きさ程度になり、矮小銀河で示唆されている質量プロ
ファイルのコア(質量密度が一定になる領域)を説明できる可能性があるためである。本論文で
は、ALP 粒子がそのボーズ粒子の性質から、初期宇宙のある条件の下では自己相互作用のために、
安定な高密度天体(ここではオシロン=oscillon)を形成する可能性に着目している。初期宇宙で
オシロンが形成されるシナリオがレビューされ、オシロンがダークマターの一部である可能性、
またオシロンを将来の宇宙の中性水素の 21cm 線の観測で検証できる可能性があることに言及し、
本論文研究の物理的動機付けが与えられている。
第 2 章では、古典力学の断熱不変量の議論を ALP の自己相互作用系に適用し、オシロンの形
成条件をレビューしている。また、オシロンの安定性、崩壊率が議論され、宇宙年齢内に存在し、
ダークマターの候補になる条件がレビューされている。
第 3 章では、宇宙論的観点からのアクシオンの物理的動機がレビューされている。ΛCDM 構
造形成模型と近年の宇宙観測のあいだの不一致の可能性、ここでは、
「天の川銀河の衛星銀河の個
数の過小問題」

「矮小銀河における質量密度プロファイルの中心領域のコア問題」

「明るい衛星
銀河の不一致問題」がレビューされ、アクシオンがダークマターの場合にこれらの問題を解決す
る可能性について議論されている。宇宙論観測(宇宙背景放射、ライマンα吸収線系、ブラック
ホールの安定性)から許されるアクシオン粒子の質量の範囲がレビューされている。
第 4 章では、膨張宇宙における中性水素の 21cm 吸収線、あるいは輝線の観測量がレビューさ
れている。中性水素 21cm は、陽子-電子系のスピン状態間の遷移で起こるが、膨張宇宙における
中性水素の 21cm 線の放射、吸収の物理が議論され、衝突による遷移過程、宇宙背景放射の光子
(熱浴)との相互作用、また高赤方偏移の天体からのライマンα光子による遷移過程が議論され、
その物理に不確定性が少ないことが強調されている。特に、本論文では、背景光源の分光スペク
トルに現れる、手前に存在する天体による 21cm 吸収線系に着目し、その観測量に対するオシロ
ン天体起源の影響の動機付けを与えている。
1

第 5 章では、
アクシオン粒子が形成し得る高密度天体オシロンの物理が議論されている。
まず、
アクシオン粒子の自己相互作用の共鳴により、高密度天体オシロンが形成され、これらが物質の
空間分布にゆらぎ(パワースペクトル)を新たに生成することを指摘している。解析的なモデル
を用い、オシロンの個数、大きさを記述するパラメータを導入し、オシロンが作る物質パワース
ペクトルの振る舞いを議論している。そのあとで、アクシオン粒子の自己相互作用のポテンシャ
ル形状を仮定し、格子シミュレーションを用い、実際にオシロン形成を数値的に調べている。形
成されるオシロンの個数、各オシロンが持つエネルギーの分布を定量的に調べ、上述の解析的モ
デルとの比較を行っている。パラメータを選ぶことで解析的モデルが、数値シミュレーションで
得られた物質パワースペクトルの振る舞いをよく再現できることが示されている。この研究成果
は、Kawasaki, Nakano, Nakatsuka & Sonomoto (arXiv:2010.09311)で発表され、現在 Journal
of Cosmology and Astroparticle Physics に受理され、掲載予定である。
第 6 章では、第 5 章で議論した、初期宇宙で生成されたオシロンが重力源となり、後期宇宙の
宇宙構造形成で天体を形成し、それが 21cm の吸収線系として観測される可能性が議論されてい
る。ここでは、ダークマターの組成として、通常の冷たい CDM、アクシオン粒子(またアクシオ
ンから生成されたオシロン)が混合した模型が考察されている。例えば、アクシオン粒子の質量
が 10-22eV、また全ダークマターに対する質量比が 0.5 (50%がアクシオン)の模型で、オシロンが
形成された場合、z=10 程度の高赤方偏移の 1Mpc 以下の小スケールで、オシロンによる物質パワ
ースペクトルの寄与が卓越する可能性が示されている。そのあとで、Press-Schechter 理論を用
い、z=10 程度の宇宙までに形成される自己重力天体(ダークマターハロー)の個数密度が導出し
ている。このハローのなかにおける中性水素の存在量が評価され、将来の中性水素スペクトルの
21cm 吸収線系で観測される可能性が議論されている。この研究成果は、Kawasaki, Nakano,
Nakatsuka & Sonomoto (arXiv:2010.13504)で発表され、現在査読中である。
最後に、第 7 章では、本論文のまとめが述べられている。
このように本論文では、弦理論などが存在を予言するアクシオン粒子、またそれから生成される
オシロンがダークマターの一部を担うシナリオを調べ、中性水素 21cm の吸収線系の観測から検証
できる可能性を調べおり、その学問的意義は高い。アクシオン粒子の物理、格子シミュレーション
を用いた形成過程の研究、またオシロン形成がもたらす後期宇宙の構造形成への影響を調べ、解析
的、数値的手法を用いた研究が展開されている。なお、本論文 5 章、6 章までが論文提出者の研究
に基づいており、川崎氏、中野氏、中塚氏との共同研究による研究成果として 2 編の査読論文とし
て投稿中である(1編は掲載が決定している)
。これらの研究のほとんどについて、論文提出者が着
想、計画、また主体となって解析および論文執筆を行ったもので、論文提出者の寄与が十分である
と判断する。
したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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