Validation of measurement scores for evaluating vascular anomaly skin lesions
概要
【目的, 緒言】
脈管異常とは, 小児期より発生する血管やリンパ管の腫瘍および奇形による病変の総称である。乳児血管腫, 静脈奇形, リンパ管奇形, 房状血管腫, カポジ肉腫様血管内皮腫が代表的疾患であるが, 主に皮膚や全身に起こり, 多くは自然に退縮せず, 機能面あるいは整容面から治療適応となる。従来, 手術やレーザー療法などが行われてきたが, 近年, これらの疾患の発生にPIK3/Akt/mTOR経路が関連することが多数報告され, mTOR阻害剤であるシロリムスの治療効果が期待されている。こうした薬物療法の開発において有効性の評価は非常に重要であるが, 本疾患は様々な大きさ, 色調を呈するため, 客観的な評価が困難である。皮膚科領域においては, 皮膚病変の評価方法として, 大きさや色を主治医が主観的に評価するスコアが一般化しており, 臨床試験などではこれらのスコアを用いて比較, 検討がなされているが, 本疾患における皮膚病変に対する評価法は確立されたものがない。
今回我々は, 脈管異常の皮膚病変に対する適切な評価法の確立を目的に, 結節性硬化症および一般的な皮膚病変で用いられている皮膚病変の評価スコアを参考に, 脈管異常の評価スコアを作成した。この評価スコアによる外部評価者の後方視的評価と客観的パラメーターとの相関性を検討することによって, 本スコアの妥当性を評価した。
【対象と方法】
1) 対象:当院で2015年1月1日~2020年12月31日に診療を行った脈管異常の症例のうち, 皮膚に病変を認め, 診療録, 臨床写真によって評価が可能な患者を対象とした。患者は無治療群と治療群(シロリムス等)に分けられた。
2) 方法:任意の診察日を観察日1, 観察日2(観察日1から3ヶ月以上, 6ヶ月以内)として設定し, それぞれについて, 診察時の所見, 臨床写真を診療録より収集し, 後方視的に体積, 体表面積を算出した。色調の変化量はPANTONE色見本スコアによる病変部位の評価, および解析ソフト「imageJ」によって病変と正常組織部位の輝度を3か所ずつ測定した平均値の比によって定量化した。独立した外部評価者2名(皮膚科専門医)は2ポイントの病変部位の臨床写真のみを参照し, 脈管異常の皮膚症状の改善度の判定基準(大きさと色)(6段階), および大きさ, 色のそれぞれの判定基準, 6-point Physician Global Assessment(PGA)score(6段階)によって, 観察日2の改善度を評価し, 外部評価スコアとした。
3) 解析:主解析はスピアマンの相関係数を用い, 標的病変の外部評価スコア(大きさと色)と客観的指標である病変体積の変化量および, 色調スコア(PANTONE色見本スコア)の変化量との相関係数を求めた。副次解析は, 主解析の色調スコア(PANTONE色見本スコア)の変化量を解析ソフト「imageJ」によるスコアに変更した解析および, 6-pointPGAと変化量外部評価者間の級内相関係数ICC(2, 1)とした。
【結果】
1) 患者情報:全23例の年齢は0~24歳(中央値:1歳), 女性14例, 男性9例であった。疾患の内訳は, リンパ管奇形(LM)5例, 静脈奇形(VM)3例, 混合型(LVM)8例, カポジ型血管内皮腫3例, 房状血管腫4例であった。観察日1から2の間に1度以上のシロリムスの投与を受けた16例を治療群とし, 7例は無治療群とした。
2) 外部評価者2名のスコアの級内相関係:すべての項目において外部評価者2名のスコアは高い相関性を示していた。((ICC(2, 1)):0.776, 0.799, 0.828(p<0.001))
3) 外部評価者のスコアと客観的指標との相関:脈管異常の皮膚症状の改善度の判定基準(大きさ, 色)は, 体積の変化量との相関係数-0.695(p値<0.001), 色調スコアの変化との相関係数-0.869(p値<0.001), imageJの変化との相関係数0.442(p値<0.001)であった。同様に, 脈管異常の皮膚症状の改善度の判定基準(大きさ)と, 体積の変化量および, 脈管異常の皮膚症状の改善度の判定基準(色)と色調スコア, imageJの変化はそれぞれ高い相関を示し, この2つのスコアを合算した合計値は, 体積の変化量と色調スコアの変化量両方と相関を示した。また, 6-pointPGAと病変の体積の変化量も相関を示した。
【考察】
1) 脈管異常の皮膚病変に対する治療効果判定に用いる統一した評価法は定まっておらず, 試験ごとに独自の方法で評価されていたため, 各試験の比較が困難であった。本研究にて, 外部評価者が臨床写真のみで評価したスコアリングと, 客観的指標との高い相関性が初めて示された。これらのスコアは, 今後, 脈管異常に対する薬物治療などの効果判定に使用できる可能性がある。
2) 脈管異常の色調は多彩であり, かつ場所によってまばらであることが多いため, 一元的な評価が困難である。本研究ではimageJを用いた色調の変化を客観的指標の一つとしたが, 非常に複雑な病変や広範囲の病変であった場合などの評価などには限界があり, 今後の検討が必要である。
【結論】
脈管異常の改善を評価する評価スコアを作成し, 信頼性について評価した。外部評価者のスコアによる評価と, 病変の体積や面積の縮小, 色調の変化は相関しており, 皮膚病変についての評価が可能であると考えた。