Epigenetic conversion of conventional T cells into regulatory T cells by CD28 signal deprivation
概要
〔目的(Purpose)〕
制御性T細胞(Treg)は転写因子Foxp3を特異的に発現し, 免疫抑制能に特化したCD4陽性T細胞サブセットである.生体内のTregは, Treg特異的DNA脱メチル化等のエビジェネティック修飾に基づく成熟した細胞系譜に分化しており, 免疫学的環境下にて安定した免疫抑制能を発揮する.しかし, non-Treg細胞からIL-2, TGF-βとTCR刺激によりin vitroで人工的に転換したTreg(induced-Treg; iTreg)では, Treg特異的エピゲノムの誘導は困難である.これらは生体内への再移入後の機能的安定性を保持できず, 病原性活性化エフェクターT細胞に再転換しうることから, 自己免疫疾患のTreg細胞移入療法に用いるには安全上の懸念が指摘されている.
本研究では, 生体内で機能的安定性を保持するiTregの誘導法樹立を目指し, iTreg分化誘導時のTreg specific CpG DNA脱メチル化におけるTCK共剌激分子シグナルの寄与を検討した.
〔方法ならびに成績(Methods/Results)〕
iTreg誘導実験には, マウスナイーブCD4陽性T細胞からanti-CD3剌激抗体, anti-CD28剌激抗体, IL-2, TCF-βリコンビナントタンパクを用いた.共刺激分子であるCD28シグナルの非存在下で持続的なTCR剌激を加えると, T細胞は不応答状態に陥るとされている.しかし上記条件下でのiTreg誘導に際して, anti-CD28刺激抗体の除去は細胞の増殖, 生存に影響を与えず, Foxp3発現細胞を増加させた.この現象はIL-2, TGF-βの双方に依存していたことから, IL-2とTGF-βシグナルの協調は, 共刺激非存在下でのT細胞の不応答を回避することが示唆された.
CD28シグナル除去iTreg(CD28(-)iTreg)では, CD28(十)iTregと比較してTreg特異的DNA脱メチル化領域(Treg-specific DNA demethylated region; Treg-DR)の脱メチル化レベルが有意に亢進しており, DNA脱メチル化酵素TETの補酵素Ascorbateの添加による相乗作用も認められた.この現象はTNF-a等によるNF-kBシグナルの活性化により阻害され, NF-kB結合領域の欠損体ではTreg-DR脱メチル化の促進が認められたことから, CD28刺激除去によるNF-kBシグナルの低下がTreg-DR脱メチル化促進に寄与していることが示唆された.
In vivo投与に際し, CD28(-)iTregは, IL-2存在下で2週間程度in vitro培養, 増殖させることが可能であった.この間Treg特異的エピゲノムとTreg-signature genesの発現, 免疫抑制能を安定的に保持し, さらにin vivo投与時の生存性を向上させた.これらのTregはマウス抗原刺激モデル, 接触性皮膚炎モデルにおいてCD28(+)iTregと比較し有意な免疫抑制能を示し, 病態を完全に抑制した.
〔総括(Conclusion)〕
本研究では, T細胞共刺激分子であるCD28シグナルがTreg特異的DNA脱メチル化の阻害因子であることを見出し, その知見に基づきマウス非Treg細胞からTreg特異的脱メチル化を伴う新規Treg誘導法を開発した.新誘導法ではマウス再移入時のFoxp3発現の安定化, 炎症モデルにおける免疫抑制能の改善が認められた.本研究は, 免疫痪患に対するTreg細胞移入療法の実現に重要な基盤的知見を提供する.