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大学・研究所にある論文を検索できる 「Assessment of toxicological effects regarding lead exposure and investigation of testing and treatment methods [an abstract of entire text]」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Assessment of toxicological effects regarding lead exposure and investigation of testing and treatment methods [an abstract of entire text]

中田, 北斗 北海道大学

2021.06.30

概要

産業活動に起因した鉛汚染は人類の歴史において繰り返されており、近年アフリカを中心とした途上国で特に顕著である。高濃度の鉛暴露は、酸化ストレス増加に起因した肝・腎・造血機能の障害などを引き起こす。アフリカにおける具体的な汚染状況、およびヒトの健康影響評価に関する知見は限定的であり、産業活動がもたらす経済的恩恵と環境汚染による経済的損失のトレードオフに関する正確な評価が難しい。安価かつ簡便な検査および治療法の欠如も課題である。リソースやインフラ設備が限られた途上国でその傾向は顕著であり、現場の実情に即した現実的な対策が求められる。以上の背景から、本研究ではザンビア共和国カブエ地域をモデル地域とし、健康影響と検査法の評価、さらに植物類を用いた廉価な鉛中毒の緩和手法を検証した。

 第1章では、鉱山採掘に起因した鉛汚染の典型例であるカブエ地域の汚染に関して、その歴史的背景や汚染実態を概説した。ザンビア共和国は地下金属資源が豊富であり、旧イギリス植民地時代から現在に至るまで、鉱山産業が国家の基幹産業である。鉛・亜鉛鉱床を有するカブエでは、20世紀の100年近くに渡って大規模な採掘活動が行われた。21世紀に入り深刻な鉛汚染が徐々に明らかとなり、環境、動物、ヒトにおける高濃度の鉛蓄積が報告されている。

 第2章では、カブエ全域から無作為抽出した住民504名を対象に、鉛、カドミウム、亜鉛の複合金属暴露による健康影響を評価した。血中鉛濃度は平均14.62µg/dL、最大値は154.75µg/dLであり、鉱山近郊のKasandaとMakululuの2地域で有意に高かった。これら2地域では、血中カドミウム濃度も他地域より有意に高い値を示した。血中亜鉛濃度は地域間での顕著な差を示さなかった。肝・腎機能の評価を目的とした血液生化学検査では、複数の指標で20〜50%の成人が正常値範囲外を示した。ヘム合成に関与するδアミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)の活性は、Kasanda、Makululuで有意に低かった。全ての年齢群で血中鉛濃度と有意な負の相関が認められ、鉛暴露による造血機能障害が実証された。0〜4歳を除く全ての年齢群で、推定糸球体濾過量は血中カドミウム濃度と有意な負の相関を示し、カドミウム暴露による腎機能低下が認められた。以上より、鉱山近郊の住民における鉛・カドミウム暴露と健康影響が明らかとなった。

 第3章では、無作為に抽出したカブエに住む404人の母親を対象に、小児期の鉛中毒が母親の健康関連の生活の質に与える影響を質問表により調査した。母親とその子どもの血中鉛濃度には正の相関が見られ、就学前および学齢期の子どもの血中鉛濃度は、母親よりも有意に高かった。世帯構成員の血中鉛濃度、母親の年齢、世帯収入、世帯地域を含むデータセットを用いてステップワイズ回帰分析を行ったところ、世帯の子どもの代表的な血中鉛濃度および就学前の子どもの血中鉛濃度と、母親のバイタリティおよびメンタルヘルススコアの間に有意な負の相関が認められた。また、学齢期の子どもの血中鉛濃度は、母親のメンタルヘルススコアと有意な負の相関を示した。以上より、子どもの血中鉛濃度の上昇は、母親の血中鉛濃度に関わらず、母親のメンタルヘルスに負の影響を与えることが明らかとなった。

 第4章では、血中鉛濃度のオンサイト分析機器であるLeadCare IIの有用性評価を、高精度分析を目的として一般的に使用されるICP-MS分析との比較により行った。広い血中鉛濃度レンジ(ICP-MS分析値0.8〜154.8µg/dL、LeadCare II分析値3.3〜162.3µg/dL)を有する994試料を対象にデータの比較分析を行ったところ、2つの分析法により得られた鉛濃度は、実数値を用いたPassing-Bablok相関解析でr2=0.904、対数値を用いたDeming相関解析でr2=0.903の強い正の相関を示した。一方、LeadCare分析値がICP-MS分析値と比較して概して高く、CDCの定める基準でキレート剤治療が必要とされる45µg/dL以上の2つの濃度域では、平均値で約20〜30µg/dLの正の分析バイアスがBland-Altman解析により示された。一方、10µg/dL以下の低濃度域でのバイアスは0.3µg/dL以下であり、LeadCare分析値の精度が比較的高いことが認められた。以上より、CDCが基準値とする5µg/dL付近ではLeadCareを用いた簡易的なスクリーニングが有効である一方、高濃度域ではICP-MS等の精度の高い分析機器の利用などが望ましいことが示された。

 第5章では、藍藻類スピルリナによる鉛中毒症状の緩和作用について、C57BL/6Jマウスを用いたin vivo実験を行った。アフリカを含む途上国では、食生活に起因した肥満も重要な保健課題であることから、酢酸鉛に加えて高脂肪食を投与し、肥満の軽減作用についても検証した。スピルリナ粉末を経口投与した群では、鉛暴露により低下したヘマトクリット値およびALAD活性が回復した。酢酸鉛と高脂肪食の共暴露を受けた群でも、スピルリナ投与は同様に鉛毒性を軽減した。一方、スピルリナ投与による組織中鉛濃度の有意な変化は認められなかった。高脂肪食の摂食による精巣上体白色脂肪重量および血漿中の高密度リポタンパク質の上昇は、スピルリナ投与により軽減した。スピルリナは熱帯・亜熱帯地域の湖に自生しており、栄養価の高さからFAOなどの国際機関が途上国の低栄養状態改善プログラムへの活用を進めている。以上の結果より、スピルリナが鉛中毒および肥満症の改善にも有用であることが示唆された。

 第6章では、熱帯・亜熱帯地域で広く自生・栽培されるモリンガの葉、葉の水抽出物、種子を用いた鉛中毒症状の軽減に関する検証を行った。Sprague Dawleyラットに酢酸鉛および3種類のモリンガ物質を21日間投与したところ、モリンガの投与による組織中の鉛濃度に有意な変化は見られなかった。肝機能および腎機能の検証を目的とした血液生化学検査においても、群間の有意な差は認められなかった。一方、鉛暴露により上昇した血漿中カルボニル化タンパク質濃度は、高濃度のモリンガ葉投与により有意に低下し、モリンガ葉抽出物あるいは種子の投与においても低下の傾向を示した。このことから、モリンガの投与が酸化ストレス増加を抑制することが示された。また、血液中ALAD酵素活性においても、鉛暴露により低下した活性が高濃度のモリンガ葉あるいは種子の投与により有意に回復した。以上より、モリンガによる鉛中毒症状の緩和について一定の知見が得られた。

 本研究により、鉛暴露による健康および生活の質への影響、オンサイト検査機器の有用性、安価な代替治療法に関する知見が蓄積された。SDGsをはじめとして持続可能性の重要性が強調される現代において、環境汚染の影響の正確な評価や継続的なモニタリング、現地で実装可能な廉価な治療法の開発は、汚染がもたらす負の影響を最小化し、総合収支のより優れた安定的な社会開発を進める上で極めて重要である。本研究は、こうした社会の構築に向けて一定の貢献をした。