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大学・研究所にある論文を検索できる 「非虚血性拡張型心筋症における心エコー図での右心機能評価に関する検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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非虚血性拡張型心筋症における心エコー図での右心機能評価に関する検討

石渡, 惇平 東京大学 DOI:10.15083/0002005046

2022.06.22

概要

【背景】
 非虚血性拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy;DCM)は左室の拡大と左室収縮能の低下により定義される疾患である。最近では左室収縮能だけではなく右室収縮能がDCMの予後予測因子として報告されており、簡便に繰り返し施行可能な心エコー図による右心機能評価が注目されている。
 心エコー図検査による右心機能評価には、右室面積変化率(fractional area change; FAC)、三尖弁輪収縮期移動距離(tricuspid annular plane systolic excursion;TAPSE)や、スペックルトラッキング法による右室長軸ストレイン(right ventricular longitudinal strain;RVLS)などがあり、それぞれ利点、欠点が存在する。そのため複数の指標を用いて包括的に右心機能を評価するのが理想的であるが、それらの指標のうち、どの指標を組み合わせるのが良いかは現段階ではよくわかっていない。
 また、右心機能評価全体の問題点として右室の後負荷依存性がある。右室は左室と比べて後負荷の影響を強く受けやすく、右室にとっての後負荷である肺動脈圧が上昇すると右室一回拍出量は大きく低下する。そのため、心不全患者の右心機能指標の低下が後負荷の増大による見かけ上の低下なのか、右室心筋自体の障害による値の低下なのかを判断するのは難しい。
 後負荷の存在下で右室自体の心筋障害がどの程度進行しているかを評価する方法は現時点では確立されていないが、それを推定する方法として右室-肺動脈連関関(right ventricular-pulmonary artery coupling;RV-PA coupling)や右室仕事係数数(right ventricular stroke work index;RVSWI)の概念が提唱されている。昨今ではこれらを心エコー図で代用する指標として、TAPSE/肺動脈収縮期圧(pulmonary artery systolic pressure;PASP)(RV-PA coupling の指標)、TAPSE×三尖弁逆流圧較差(tricuspid regurgitation pressure gradient;TRPG)(RVSWI の指標)などの有用性が報告されている。
 上記のように心エコー図検査による右心機能評価に対して様々な試みが行われているが、DCM患者においてどの単独右心機能指標を組み合わせるとより効率的に病態評価や予後予測を行えるか、RV-PA couplingおよびRVSWIを心エコー図検査で表した指標が有用かどうか、有用であればどの右心機能指標を計算式に使うのが良いかはまだ十分にわかっていない。そこで我々はそれらを明らかにするため本研究を行った。

【方法】
 2011年1月から2017年12月に当院で心エコー図検査を行った109人のDCM患者を対象に後方視的解析を行った。左室駆出率(LV ejection fraction;LVEF)<40%であり、有意な冠動脈狭窄がなく、心筋生検により特異的な心筋症や急性期の心筋炎を除外した症例をDCMと定義し、一年以内の左室補助人工心臓植え込みあるいは総死亡をイベントと定義した。
 右心機能はFAC、TAPSE、RVLSにより評価した。スペックルトラッキング法はオフライン計測で行い、右室自由壁の縦方向の収縮期最大ストレイン値をRVLSとして使用した。各右心機能指標を測定した後、RV-PA coupling指標として、それぞれの右心機能指標をPASPで割ったFAC/PASP、TAPSE/PASP、RVLS/PASPを算出した。また、RVSWI指標として、それぞれの右心機能指標にTRPGをかけたFAC×TRPG、TAPSE×TRPG、RVLS×TRPGを算出した。
 右心機能とイベントの関係を評価するため、Cox回帰分析を用いた単変量解析、多変量解析を行った。多変量解析に際して3つのモデルを作成した。Model 1は臨床的に重要と思われる最低限の因子(年齢、性別、BMI、LVEF)により右心機能指標をそれぞれ個別に補正したモデルである。Model 2は統計学的に重要と思われる因子(単変量解析でp値0.05未満となった因子)により補正したモデルである。Model 3はModel 1とModel 2で選択された因子を合わせた因子により補正したモデルである。それぞれの右心機能指標、RV-PA coupling指標、RVSWI指標の予後予測能を比べるため、受信者動作特性曲線receiver operating characteristic curve;ROC 曲線)を描出し、ROC曲線下面積(area under the curve;AUC)を求めた。右心機能指標の組み合わせの評価にはCox回帰分析によるハザード比を使用した。それぞれの右心機能指標のカットオフ値は前述したROC曲線から求めた。イベント発生と時間経過の関係を見るためにKaplan-Meier曲線を記載した。すべての解析において、p値0.05未満を統計学的に有意な値とみなした。

【結果】
 心エコー図検査施行日から一年間の間で、41人(37.6%)の患者にイベントが発生した。患者全体のLVEF平均値は21.9%、FAC中央値は27.0%、TAPSE中央値は15.0mm、RVLS中央値はそれぞれ−12.5%であった。
 Cox回帰分析による単変量解析では、右心機能指標に関してはFAC、TAPSE、RVLS、FAC/PASP、TAPSE/PASP、RVLS/PASP、FAC×TRPG、RVLS×TRPGが一年イベントの予後関連因子となった。それ以外の指標に関しては、年齢、Body mass index(BMI)、ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association;NYHA)分類、収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍、ヘモグロビン値、利尿剤の使用の有無、LVEF、中等度以上の僧帽弁逆流(mitral regurgitation;MR)の有無、左房容積係数、TRPG、PASPが予後関連因子となった。
 Cox回帰分析による多変量解析はそれぞれの右心機能指標で個別に行った。Model 1では、FAC、TAPSE、RVLS、FAC/PASP、TAPSE/PASP、RVLS/PASP、FAC×TRPGが予後関連因子として選択された。Model 2では、年齢、BMI、NYHA分類、収縮期血圧、脈拍、ヘモグロビン値、利尿剤の使用の有無、LVEF、中等度以上のMRの有無、左房容積係数で補正を行い、FAC、TAPSE、RVLS、FAC/PASP、RVLS/PASP、FAC×TRPGが予後関連因子として選択された。Model 3では、Model 2による補正と同じ右心機能指標が予後関連因子として選択された。
 次に、単独右心機能指標とRV-PA coupling指標、RVSWI指標の予後予測能をROC曲線でAUCを求めて比較した。FACとFAC/PASPを比べると予後予測能に有意な差はなかった(0.78 vs. 0.77, p = 0.70)。TAPSEとTAPSE/PASPを比べても同様の結果であった(0.70 vs. 0.73, p = 0.43)。また、RVLSとRVLS/PASPに関しても同様であった(0.73 vs. 0.75, p = 0.66)。FACとFAC×TRPGを比較すると、FAC×TRPGのAUCが有意に低値となった(0.78 vs. 0.65, p = 0.007)。単独右心機能指標(FAC、TAPSE、RVLS)同士のAUCについても比較を行ったが、AUCの有意な差は認めなかった。RV-PA coupling指標においても同様の結果となった。
 最後に、単独右心機能指標の組み合わせによるハザード比を測定した。FACとRVLSで層別化した場合、FACの障害かつRVLSの障害が起きている群は、FACの障害もしくはRVLSの障害が起きている群と比べ、有意にハザード比が上昇していたた(11.28 vs. 3.36, p <0.001)。FACとTAPSEで層別化した場合、FACとTAPSEがともに障害されている群はFACとTAPSEどちらか一方が障害されている群と比べ有意なハザード比の上昇を認めなかった(7.21 vs. 3.79, p=0.08)。TAPSEとRVLSの層別化でも有意な差を認めなかった(6.87 vs. 3.16, p=0.08)。Kaplan-Meier曲線を記載したところ、90日以内の早期に多くのイベントが発生しており、それは右心機能低下例で顕著であった。

【結論】
 FAC、TAPSE、RVLSは他の臨床的指標で補正した後も、重症DCM患者における予後関連因子であったが、右心機能指標をPASPで割ったRV-PA coupling指標は単独右心機能指標と比べ、より良い予後関連因子とならなかった。また、右心機能指標にTRPGをかけたRVSWI指標も単独右心機能指標と比べ、より良い予後関連因子とならなかった。
 一方、FACとRVLSの組み合わせはFACとRVLS単独の評価と比べてより良い予後予測能を示した。FACとRVLSの複合評価で、より重症なDCM患者を抽出することが可能と思われた。

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