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ペルオキシソームによるミトコンドリアの動態及び機能制御の解明

田中, 秀明 東京大学 DOI:10.15083/0002005169

2022.06.22

概要

【序論】
 ペルオキシソームはほぼ全ての細胞が持つ一重膜に包まれたオルガネラであり、過酸化水素の代謝や脂肪酸の酸化など主に細胞内の代謝経路の調節機能を持つことが知られている。興味深いことに、ペルオキシソームの形成異常はZellweger症候群(ZS)をはじめとする多様で重篤な疾患を引き起こす。ZS患者は脳や肝臓、筋肉など多臓器の機能不全を患い、出生1年以内に死亡してしまう。このことから、ペルオキシソームの生体における重要性は明らかである。しかし、ペルオキシソーム欠損がどのようなメカニズムでZSの症状を引き起こすかについてはほとんどわかっておらず、その機能には未だに謎が多い。

 私は本研究で、「ペルオキシソームがミトコンドリアの形態を伸長方向へと制御し、その機能を通じてカスパーゼ活性化および細胞死への感受性を制御している」という新しいオルガネラ間相互作用の存在を明らかにした。以下にその結果を示す。

【実験方法・結果】
➢ ペルオキシソーム欠損によりミトコンドリアが断片化した
 ペルオキシソームが担う未知の細胞機能を探索するために、私はペルオキシソーム生合成に必須なPeroxin遺伝子の1つであるPex3のKOマウスからマウス胎児線維芽細胞(MEF)を樹立し観察した。ミトコンドリア外膜たんぱく質Tom20の細胞染色によってミトコンドリア形態を染色したところ、コントロールMEFにおいてはTom20シグナルがミトコンドリアに特徴的な細長い網目状であったのに対し、Pex3KOMEFにおいては短く粒状であった(図1)。他のPeroxin遺伝子であるPex5やPex16をCRISPR/Cas9によってKOした場合にもこれと同様の結果が得られた。以上より、ペルオキシソームの機能欠損によってミトコンドリアが断片化することが示された。

➢ ペルオキシソーム増加薬剤4-PBAによりミトコンドリアが伸長した
 次に、ペルオキシソームを増加させる薬剤である4-PBAを細胞に添加したところミトコンドリアが伸長している様子が観察された(図2)。4-PBAによるミトコンドリアの伸長はペルオキシソーム欠損細胞では観察されなかったため、このミトコンドリア伸長は確かにペルオキシソーム依存的であることが分かった。この結果から、ペルオキシソームが積極的にミトコンドリアの動態を伸長方向へと制御していることが示唆された。

➢ ペルオキシソーム-ミトコンドリアの強制接触によりミトコンドリアが伸長した
 私はペルオキシソームがミトコンドリアの融合を促進するメカニズム候補として、ペルオキシソーム-ミトコンドリアの接触に注目した。その可能性を検証するため、ペルオキシソームとミトコンドリアの人工繋留分子として、Pex13の膜貫通ドメインとAKAP1のミトコンドリア移行ドメインを持つEGFPたんぱく質(PM tetherと称する)を細胞に発現させた。すると、実際にミトコンドリアとペルオキシソームの接触が増加した上に、ミトコンドリアの伸長がみられた(図3)。以上の結果から、ペルオキシソームはミトコンドリアと接触することでその動態を伸長方向に制御する可能性が示唆された。

➢ ペルオキシソーム欠損細胞におけるミトコンドリア上のDrp1量の増加がミトコンドリア断片化に寄与していた
 次に私は、ペルオキシソームによるミトコンドリア伸長のメカニズムの候補として、Drp1分子を介した分裂抑制の可能性を検討した。Drp1はミトコンドリアの分裂因子として知られているが、他にペルオキシソームにも局在し、その分裂も担っている。そのため、通常の細胞ではペルオキシソームがミトコンドリアに接触することでミトコンドリア上のDrp1を競合的に阻害する可能性を考えた。もしそうだとすれば、ペルオキシソーム欠損細胞ではDrp1はミトコンドリア上に局在を増加させることが考えられる。そこでDrp1の局在を調べたところ、Pex3KOMEFではミトコンドリアとDrp1の共局在が有意に増加していた(図4左)。このことから、ペルオキシソーム欠損によりミトコンドリア上にDrp1が増加することが示唆された。更にDrp1をノックダウンすると、Pex3KOによるミトコンドリア断片化は抑制される(図4右)ことが分かった。以上より、ペルオキシソームはDrp1依存的にミトコンドリアの形態を制御する可能性が示唆された。

➢ ペルオキシソーム欠損によりCytochrome Cが細胞質に拡散した
 ミトコンドリアの断片化は、Cytochrome C(CytC)をはじめとするミトコンドリア膜間腔たんぱく質の細胞質への放出と、それに続く細胞死経路の活性化と関連付けられている。ペルオキシソーム欠損によりミトコンドリアが断片化していたため、同様にCytCの局在を調べたところ、Pex3KOMEFにおいてCytCのシグナルはミトコンドリアの他、細胞質にも観察されることが分かった(図5)。この結果を他のPex遺伝子欠損細胞で検証すると、Pex5, Pex16 KO細胞でも同様にCytCの細胞質への漏出が観察された。以上より、ペルオキシソームがCytCのミトコンドリア局在に重要であることが示唆された。

➢ ペルオキシソーム欠損によりカスパーゼが活性化した細胞質へのCytC放出はカスパーゼを活性化し、アポトーシスを誘導することが知られている。興味深いことに、Pex3KOMEFではコントロールMEFに比べてアポトーシスの割合は変化していなかったものの、カスパーゼ9、3が活性化していた(図6)。そこで次にPex3KOMEFにおける低レベルのカスパーゼの活性化が、アポトーシスシグナルへの感受性を上げている可能性について検討した。実際に、DNA損傷試薬であるエトポシドを添加すると、Pex3 KO MEFではコントロールMEFに比べアポトーシス細胞が著しく増加することが観察された。このことから、ペルオキシソームの欠損はそれ自身がアポトーシスを誘導することは無いが、細胞のストレスに対する感受性を亢進させる可能性が示唆された。

➢ プルキンエ細胞特異的Pex3の欠損によりプルキンエ細胞の変性・ミトコンドリアの細胞内局在の異常が観察された
今までの結果から、マウス線維芽細胞においてペルオキシソームがミトコンドリアの形態を制御していることが示唆されている。では、この機能は生体内でどのような役割を果たしているのだろうか。私はペルオキシソーム欠損モデルマウスで異常が観察されている小脳プルキンエ細胞に注目し、プルキンエ細胞特異的CreドライバーGlud2-Creを用いて、Pex3をプルキンエ細胞特異的にノックアウトした。実際、このマウスの小脳を観察するとペルオキシソームはプルキンエ細胞では消失しているが、その他の細胞では特に変化が見られなかったため、実際にこのマウスではPex3がプルキンエ細胞特異的に欠損していることが示唆された。このマウスにおいてプルキンエ細胞の形態を観察すると、Controlマウスのプルキンエ細胞では細胞体や樹状突起が整然と秩序だって並んでいる一方で、Pex3欠損マウスのプルキンエ細胞では細胞体の並びや樹状突起の配向性における整然さが失われ、無秩序に並んでいる様子が観察された(図8)。この結果から、プルキンエ細胞の持つペルオキシソームが、正常なプルキンエ細胞の発達や樹状突起の生育に必要であることが示唆された。次に、ミトコンドリアの形態に異常が生じるとことで、神経細胞の樹状突起や軸索にミトコンドリアが正しく輸送できなくなることが知られているため、プルキンエ細胞におけるミトコンドリアの細胞内局在を観察した。すると、ミトコンドリア局在を細胞体と樹状突起で比較すると、Controlマウスと比較してPex3欠損マウスのプルキンエ細胞では細胞体のミトコンドリアが増加傾向、樹状突起のミトコンドリアが減少傾向にあった(図9)。これらの結果から、ペルオキシソームは小脳プルキンエ細胞においてもミトコンドリアの動態を制御し、プルキンエ細胞の正常な発達に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。

【本研究のまとめと展望】
 本研究により、ペルオキシソームはミトコンドリアの動態を伸長方向に制御し、カスパーゼ活性化機能を抑制するのに必須であり、ペルオキシソーム欠損がミトコンドリア断片化及びストレス脆弱性の原因となることが示唆された(図10)。
 ZSでは神経系において特に重篤な機能不全が生じることが知られているが、そのメカニズムは明らかになっていない。私は「ペルオキシソームによるミトコンドリアの動態・機能制御」が破綻することで、神経細胞におけるミトコンドリア形態異常及び不要なアポトーシスが亢進し、それらがZSの神経症状に寄与する可能性を考えている。実際Pex3KOマウスの小脳プルキンエ細胞において樹状突起の形態異常や、ミトコンドリアの局在異常、小脳形態の異常が観察されている。この可能性をさらに検証しZSの発症メカニズムに迫ることによって、ZSの治療法開発の一助になると期待している。

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