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大学・研究所にある論文を検索できる 「無線LAN位置特定システムの通信を考慮した位置特定性能評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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無線LAN位置特定システムの通信を考慮した位置特定性能評価

宮林 竜也 間邊 哲也 EmBkVQqD 埼玉大学

2020

概要

本論文では,無線LAN 位置特定システムにおいて通信を考慮した位置特定性能評価を行っている.まず,アクセスポイント(AP) への接続の有無が自端末の位置特定性能に与える影響について,AP への接続状況を変えて収集したデータを用いて位置特定性能評価を行い,未接続時における位置特定性能が高いことを示している.次に,周辺端末の通信状況が自端末の位置特定性能に与える影響について,周辺端末の通信状況を変えて収集したデータを用いて位置特定性能評価を行い,学習時に通信なしでデータベース(DB) を構築することで,評価時の通信の有無による位置特定性能劣化の影響を小さくすることができることを示している.また,通信状況の異なるデータをDB に0.3~0.7 程度含ませることで,位置特定性能が向上することを示している.以上のことから,無線LAN 位置特定システムにおいて,AP への接続状況,周辺端末の通信状況を考慮したDB 構築や位置特定性能評価の必要性を明らかにしている.

この論文で使われている画像

参考文献

実験環境

実験データ

観測方法

その他

番号 参照点配置 環境内で観測できた AP 数 実験用に配置した AP の位置 周辺端末の通信の有無 取得したデータ数 使用デバイス AP への接続の有無 実験時刻

[2]

[8]

[9]

[10]

[11]

[12]

[13]

[14]

[15]

[16]

[17]

[18]

[19]

[20]

[21]

本論文

●:論文中に明確な記載がある,▲:論文中に一部記載がある

れる環境を考慮して,無線 LAN への接続が位置特定

Analysis は,前述の Proximity や Lateration と異な

性能に与える影響と周辺端末による通信が自端末の位

り,AP の設置位置を DB として保持しておく必要

置特定性能に与える影響について評価を行う.

がない.文献 [9] では,Lateration と Scene Analysis

以降の構成は,2. で無線 LAN 位置特定システム

の位置特定性能の比較を行い,屋内の環境において

と従来の性能評価方法についてまとめ,3. では無線

Scene Analysis の方が位置特定性能が高いことが示さ

LAN への接続が位置特定性能に与える影響について

れている.本論文では,市販のスマートフォンなどで

評価を行う.4. では周辺端末の通信が自端末の位置特

も広く利用されている Scene Analysis を位置特定手

定性能に与える影響について評価を行い,5. において

法に用いる.

本論文のまとめを述べる.

2. 無線 LAN 位置特定システムと従来の

性能評価方法

2. 2 無線 LAN 位置特定システムにおける従来の

性能評価

本節では,無線 LAN 位置特定システムに関する従

来研究 [2], [8]∼[21] の実験などで考慮されている事項

2. 1 無線 LAN 位置特定システムのアルゴリズム

についてまとめる.ここでは,実験環境に関する項目,

無線 LAN 位置特定システムで利用される位置特定ア

実験データに関する項目,観測方法に関する項目の三

ルゴリズムは,Proximity,Lateration,Scene Anal-

つの観点について,各文献中での記載事項を整理した.

ysis の三つに大別することができる.Proximity (例

結果を表 1 に示す.本来,無線 LAN は通信が目的で

えば [7]) では,AP の固有 ID と位置を紐付けてデー

あるため,自端末における AP への接続状況,周辺端

タベース (Database; DB) にあらかじめ保持しておき,

末の通信状況は,ユーザや端末の設定,環境などによ

位置特定時は観測した受信信号強度 (Received Signal

り異なるが,それらが無線 LAN 位置特定システムの

Strength Indicator; RSSI) をもとに,どの AP の周辺

位置特定性能に与える影響は明らかになっておらず,

にいるか算出する.Lateration (例えば [8]) では,AP

それを明示的に示した研究もほとんど存在しない.そ

が設置されている位置を DB にあらかじめ保持してお

こで本論文では,無線 LAN 位置特定システムにおい

き,位置特定時は観測した各 AP からの RSSI などを

て通信を考慮した位置特定性能評価を行う.なお,本

もとに各 AP までの距離を割り出した後,三辺測量の

論文において想定する環境は,ナビゲーションシステ

原理で位置を算出する.Scene Analysis (例えば [2])

ムなどの LBS が必要とされる場所 (例えばショッピン

では,位置特定を行う領域中の複数の地点において,

グモールなど) である.

観測できる各 AP からの情報を紐付けて DB とする.

位置特定時は観測した AP からの情報と DB を比較

することで位置を算出する.使用する AP からの情報

としては,RSSI が一般的である.また,この Scene

84

3. AP への接続の有無が位置特定性能に

与える影響 [22]

無線 LAN のフリースポットやモバイルルータの普

論文/無線 LAN 位置特定システムの通信を考慮した位置特定性能評価

及により,スマートフォンを AP に接続する機会が増

の 2 方向の学習用データと評価用データを取得する.

えている.無線 LAN の機能を On にしているユーザ

データ取得に用いる端末を表 2 に示す.前述したよう

端末は,AP に未接続の場合は AP の探索を積極的に

に無線 LAN 位置特定システムには様々な性能劣化要

行うのに対して,AP に接続している場合は,接続先

因が存在する.例えば端末をセルラー回線に接続した

の AP との通信が中心となるため,AP の探索回数は

場合,無線 LAN の通信状況や CPU などのリソース

少なくなる [23].本節では,AP への接続の有無が,無

の利用状況に影響を及ぼす可能性がある.本実験では

線 LAN 位置特定システムで使用する AP の探索結果

無線 LAN の AP への接続の有無が位置特定性能に与

に与える影響を調査した上で,AP への接続の有無が

える影響を明らかにするため,これらの端末には SIM

位置特定性能に与える影響について評価を行う.

カードを挿入せず,セルラー回線に接続していない状

3. 1 事 前 実 験

態としている.データ取得時の端末位置の揺らぎを軽

AP への接続の有無が AP 探索結果に与える影響を

減するために,三脚を用いて一定の高さに固定する.

評価する.本論文では,AP を介して常にネットワー

端末を固定する高さは床面から 120cm とした.これ

クに接続するとともに,AP の探索を行っている状態

は人が端末を手にもって操作しているときを想定して

を「接続」,ネットワークに接続せず,AP の探索のみ

いる.データ収集は,人がスマートフォンの画面から

を行っている状態を「未接続」と定義する.実験は,

約 50cm 離れた位置に立ち,静止した状態で行った.

埼玉大学工学部電気電子システム工学科棟及び情報

本実験では AP への接続の有無を比較するため,同一

システム工学科棟の 4 階で行った.実験環境を図 1

端末 2 台を三脚に固定し,片方が接続用 AP に接続し

に示す.本実験において「接続」の状態を作るため

た状態,一方が未接続の状態でデータ取得を行った.

の AP (以下,接続用 AP) として 2 基 (I-O DATA 製

なお,筆者らが事前に行った調査において,端末を手

WHG-AC1750AL,BUFFALO 製 WZR-600DHP2)

でもった場合と三脚に固定した場合で測定データに違

選択した.この 2 基はいずれもビームフォーミングに

いが生じないことを確認している.

は対応していない.なお,この実験環境内において観

無線 LAN 位置特定システムを実環境で利用する場

測された AP は,接続用 AP (2 基) を含み計 196 基で

合,事前に収集したデータで DB を構築し,その後,

あった.

DB 内のデータとは異なる時間に収集したデータで位

データの取得方法について,文献 [4] で述べられて

置特定を行うことから,本実験においても学習用デー

いる,人による遮蔽を考慮するため,西向きと東向き

タと評価用データは時間を置いてデータを収集するこ

ととした.具体的には,学習用データは各参照点にお

いて 1 秒おきに 1 回,計 60 回観測を行う.評価用デー

タは学習用データから 1 時間以上時間を置いた後,各

参照点において 1 秒おきに 1 回,計 30 回観測を行う.

そして,そこから更に 40 分以上時間を置いた後,再

度 30 回の観測を行い,計 60 回分の評価用データを

収集した.評価指標として,1 回の観測で取得できた

AP 数の平均 (以下,平均 AP 観測数) と標準偏差を用

いる.

表 3 に平均 AP 観測数と標準偏差を示す.学習用

データ・評価用データともに,未接続時の方が多くの

Table 2

Fig. 1

図1 実験環境

Experiment environment.

表 2 3. における実験使用端末

Devices used in experiment of Section 3.

メーカ

SONY

LG Electronics

Samsung

SHARP

モデル

Xperia Z

Nexus 5

Galaxy Nexus

AQUOS PHONE ZETA

型番

C6603

LG-D821

GT-I9250

SH-02E

85

電子情報通信学会論文誌 2020/3 Vol. J103–A No. 3

Table 3

表 3 平均 AP 観測数と標準偏差

Average and S.D. of number of observed AP.

(a) 学習用データ

接続

未接続

平均

17.74

22.98

(b) 評価用データ

標準偏差

3.77

6.61

接続

未接続

平均

17.31

21.66

標準偏差

4.72

5.25

AP を観測できることを確認した.なお,文献 [25] で

は実環境において同時に観測された AP 数が示されて

おり,大学 (香港科技大学) が平均 24 基,ショッピン

グモール (香港サイバーポート) が平均 28 基であった.

本実験環境での平均 AP 観測数は文献 [25] の大学や

ショッピングモールと同程度であり,ナビゲーション

表 4 接続と未接続による位置特定性能の比較

Table 4 Evaluation results on connection and nonconnection.

(a) e[m] (専用 AP あり)

(b) e[m](専用 AP なし)

評価用\学習用 接続 未接続

接続

−0.11 0.11

未接続

−0.10 −0.19

評価用\学習用 接続 未接続

接続

−0.18 0.10

未接続

−0.13 −0.18

(c) σ[m](専用 AP あり)

(d) σ[m](専用 AP なし)

評価用\学習用 接続 未接続

接続

2.91

2.84

未接続

2.73

2.38

評価用\学習用 接続 未接続

接続

3.17

3.04

未接続

2.85

2.64

(e) ed [m](専用 AP あり)

(f) ed [m](専用 AP なし)

評価用\学習用 接続 未接続

接続

1.88

1.76

未接続

1.75

1.53

評価用\学習用 接続 未接続

接続

2.03

1.93

未接続

1.92

1.73

システムなどの LBS が必要とされる場所の一つであ

るショッピングモールに近い環境での実験であったと

言える.次節では AP への接続の有無が位置特定性能

を設置することで,通常の用途で設置されている AP

に与える影響の評価を行う.

(一般 AP) のみの場合よりも位置特定性能が向上する

3. 2 AP への接続の有無による位置特定性能の

評価

と示されていることから,本評価では一般 AP (190

基) のみの場合と専用 AP (BUFFALO 製 WHR-300

3. 1 で取得したデータを使用して位置特定性能の評

(ビームフォーミング非対応) 6 基) を含む計 196 基

価を行う.位置特定アルゴリズムには,Scene Analysis

の場合のそれぞれで評価を行った.なお,接続用 AP

を用いる.評価指標には,誤差の平均 e,誤差の標準

(3. 1 で用いた 2 基) は一般 AP として計上している.

偏差 σ ,距離誤差の平均 ed を用いる.ここで,ある

評価用データは接続・未接続でいずれも 4920 回(注 1)の

地点 j における i 番目の位置特定結果 (測定値) を xij

AP 探索結果を用いた.

とする.ある地点 j における算出された位置の平均 xj

学習用と評価用それぞれのデータ取得時における,

は,全ての地点において M 回測定しているため次式

AP への接続の有無が位置特定性能に与える影響につ

で表される.

いての評価結果を表 4 に示す.これらの結果につい

xj =

て検定を行ったところ,σ 及び ed において有意水準

1 

xij

M i=1

(1)

0.5%で有意な差が認められた.つまり,学習用・評価

用ともに未接続の状態でデータ取得を行った方が位置

ある地点 j における評価データを取得した位置 (真値)

特定性能が高いことが分かった.この理由として,3. 1

を Xj としたとき,評価地点数 L の評価領域全体に対

の結果から,未接続時は平均 AP 観測数が多いため,

する誤差の平均 e,誤差の標準偏差 σ ,距離誤差の平

位置特定により多くの情報が利用できる,つまり,各

均 ed を以下の式から求める.

1

(xj − Xj )

L j=1

L 

 1 

(xij − xj )2

σ=

L · M j=1 i=1

参照点の特徴 (位置指紋) が明確になったからと考えら

れる.

e=

ed =

L·M

L 

|xij − Xj |

(2)

た.具体的には,ここまでの実験では 1 秒間に得ら

(3)

れたデータを用いて位置特定を行っていたが,ここで

は t 秒間のデータを用いて位置特定を行うことを考え

(4)

j=1 i=1

なお,接続用 AP (2 基) は一般 AP として計上して

いる.文献 [11] では,位置特定専用の AP (専用 AP)

86

このことを確認するために,AP 接続時の評価用

データの数と位置特定性能の関係について考察を行っ

る.学習用データは AP 未接続時に収集した 6120 回

分(注 2)を用いた.評価用データは前述の実験と同じも

(注 1)

:評価点数 41 × 観測方向 2 × データ取得回数 60.

:学習地点数 51 × 観測方向 2 × データ取得回数 60.

(注 2)

論文/無線 LAN 位置特定システムの通信を考慮した位置特定性能評価

図 2 位置特定に用いる評価用データの秒数に対する位置

特定距離誤差の平均

Fig. 2 Number of data for evaluation vs. average distance error.

ので,AP 接続時に収集した 4920 回分である.ここ

では,評価用データをまとめる方法として以下の三つ

の方法を考えた.

手法 1:t 秒間のデータをそのまま位置特定に利

用する.

手法 2:t 秒間のデータから各 AP の RSSI の

図 3 曜日・時間帯による平均 AP 観測数の時間変化

Fig. 3 Time variation of number of observed AP by

date and time range.

平均を算出して位置特定に利用する.

手法 3:1 秒ごとに位置特定を行い,得られた

位置座標の t 秒間の平均値を位置特定結果とする.

位置特定に用いるデータの秒数 t に対する ed の結

の端末が AP を介して通信を行うことで通信品質が低

下することが報告されている.本節では,無線 LAN

位置特定システムにおいて,周辺端末の通信状況が自

果を図 2 に示す.いずれの手法においても t = 6 程度

端末の位置特定性能に与える影響について評価を行う.

で,AP 未接続時の 1 秒間の位置特定距離誤差の平均

まず,事前実験として,曜日や時間帯,及び,周辺端

と同程度になることが分かった.このことから,位置

末の通信状況が自端末における AP 探索結果に与える

特定に用いる評価用データをまとめることで,位置特

影響について調査を行う.次に,周辺端末の通信状況

定に使える情報が増え,その結果位置特定性能が向上

が無線 LAN 位置特定システムにおける位置特定性能

することを確認した.

に与える影響について評価を行う.

3. 1 及び 3. 2 から,未接続時は平均 AP 観測数が多

いため,各参照点の特徴 (位置指紋) を表す情報も多く

なり,その結果として位置の識別が容易になった (位

4. 1 事 前 実 験

4. 1. 1 曜日・時間帯が自端末の AP 探索結果に与

える影響

置特定性能が向上した) と言える.AP 接続時に AP

研究室内のデスク上にスマートフォンを固定した状

探索回数が少なくなるのは無線 LAN を用いた全端末

態で,2017/10/23 (月) から 2017/11/7 (火) の 16 日

に共通していることから環境や端末が変わっても同じ

間,1 秒間おきに AP 探索を行った.実験に使用した

ことが言える.

端末は LG Electronics の Nexus 5X (LG-H791) であ

4. 周辺端末の通信状況が自端末の位置特

定性能に与える影響 [24]

人が多く集まる環境ではセルラー回線のトラヒック

負荷分散を目的とした AP が設置されている.スマー

る.文献 [6] において多数の端末が通信を行うことで

通信品質が劣化することが報告されていることから本

実験で用いる端末数は 1 台とした.取得した AP 探索

データに対して平均 AP 観測数 (時間窓 3 時間,オー

バーラップなし) と標準偏差を算出した.

トフォン以外にも PC をはじめとして無線 LAN 経由

図 3 に実験結果を示す.図中のプロットは平均 AP

で通信する端末が様々存在する.文献 [6] では,多数

観測数,エラーバーは標準偏差を表している.これら

87

電子情報通信学会論文誌 2020/3 Vol. J103–A No. 3

の結果から,曜日・時間帯によって平均 AP 観測数が

変化し,特に人の活動が活発な平日日中の平均 AP 観

測数が少ない.また,土曜日と日曜日は時間帯による

平均 AP 観測数の変化が少ない.観測された AP には,

研究室内などに設置されている AP のように常時観測

できるものの他,ある時間帯 (例えば平日日中) しか観

測できないモバイルルータなどの存在も確認できた.

以上のことから,曜日・時間帯によって無線 LAN の

通信状況が異なるため,AP 探索結果にも影響が生じ

ている.そのため,無線 LAN 位置特定システムの位

図 4 通信の有無による平均 AP 観測数の時間変化

Fig. 4 Time variation of number of observed AP by

communication state.

置特定性能評価においても,無線 LAN を使用する通

信機器をもった人の活動による影響を考慮する必要が

あると言える.

4. 1. 2 周辺端末の通信状況が自端末の AP 探索結

果に与える影響

周辺端末の通信状況が AP 探索結果に与える影響

を調査するために,4. 1. 1 と同様,研究室内のデス

ク上にスマートフォンを固定した状態で,2017/12/2

(土) から 2017/12/6 (水) の連続 88 時間,1 秒おきに

AP 探索を行った.実験に使用したスマートフォンは

4. 1. 1 と同じ Nexus 5X である.端末数は 4. 1. 1 と

Fig. 5

図 5 4. 2 における実験機器配置

Arrangement of experiment equipments on

Section 4. 2.

同じ理由から 1 台とした.無線 LAN による通信を行

うための AP (以下,通信用 AP) を 1 基 (BUFFALO

他の AP がパケットを送信することができないため,

製 WHR-300 (ビームフォーミング非対応)) 設置し,

端末で観測される AP 数が減少している.つまり,通

通信チャネルは実験環境内で干渉が最も少なくなるも

信の有無による平均 AP 観測数の変化は CSMA/CA

のを選択した.通信トラヒック発生させるための PC

の基本原理に依るため,本実験で用いた Nexus 5X 以

を 3 台,スマートフォンとは異なるデスクに固定し,

外の端末でも同様に「通信あり」では平均 AP 観測数

通信用 AP に接続した.通信時は FTP により常にファ

が減少すると考えられ,周辺端末の通信状況が自端末

イルのアップロード/ダウンロードを繰り返した.PC

の AP 探索結果に影響を及ぼしていると言える.

の内訳は,FTP ホスト用が 1 台,FTP クライアント

用が 2 台である.本実験において,PC で FTP 通信

が行われている状況を「通信あり」,PC で FTP 通信

4. 2 周辺端末の通信状況による位置特定性能の

評価

4. 1 の結果を踏まえて,周辺端末の通信状況が無線

が行われていない状況を「通信なし」と定義する.な

LAN 位置特定システムにおける位置特定性能に与え

お,通信なしの状況においても通信用 AP は稼働さ

る影響について評価を行う.実験場所は 3. と同じであ

せたままとした.本実験では,1 時間おきに通信あり

る.実験機器は図 5 のようにを配置した.FTP 通信用

と通信なしの状況を繰り返した.1 秒おきに取得した

PC は 4. 1. 2 と同様である.データ取得は実験環境内

AP 探索データに対して平均 AP 観測数 (時間窓 1 時

の参照点 (計 41 点) で行った.評価については,実験

間,オーバーラップなし) と標準偏差を算出した.

領域端での片方向のみへの誤差の影響を低減するため,

実験結果を図 4 に示す.平均 AP 観測数は,いずれ

領域内の中央 30m 区間の評価点 (計 31 点) で行った.

の時間帯においても「通信なし」に対して「通信あり」

位置特定に用いる AP は,一般 AP (222 基),位置特

の方が 10 基程度少ないことが分かる.無線 LAN で

定専用 AP (5 基),通信用 AP (1 基) の計 228 基であ

用いられている CSMA/CA (Carrier Sense Multiple

る.位置特定専用 AP と通信用 AP には BUFFALO

Access/Collision Avoidance) の基本原理から,

「通信

製 WHR-300 (ビームフォーミング非対応) を用いた.

あり」ではデータ通信中の AP と同じチャネルを使う

データ取得に用いる端末は表 5 のとおりである.これ

88

論文/無線 LAN 位置特定システムの通信を考慮した位置特定性能評価

Table 5

表 5 4. 2 における実験使用端末

Devices used in experiment of Section 4. 2.

メーカ

SONY

LG Electronics

HTC

ASUS

モデル

Xperia Z

Nexus 5X

Desire 626

ZenFone Selfie

型番

C6603

LG-H791

D626

ZD551KL

らの端末は 3. と同様の理由から SIM カードを挿入せ

ず,セルラー回線に接続していない.また,3. で述べ

た AP への接続の有無による位置特定性能への影響を

考慮して,未接続の状態で実験を行った.4. 1. 1 の結

果から,平均 AP 観測数が比較的安定している 22 時

から翌 6 時に実験を行った.

データ取得は,学習時における通信の有無,評価時

における通信の有無,専用 AP の有無の計 8 パター

ンで行った.学習用データ・評価用データともに,各

参照点において 1 秒おきに 30 回の AP 探索を 2 方向

(西向き,東向き) で行った後,データの偏りを低減す

るため 24 時間以上あけた後,再度 30 回の観測を行っ

た (計 60 回).つまり,学習用データ・評価用データ

ともに,1 参照点につき AP 探索 480 回分(注 3)である.

評価指標として式 (4) の ed を用いる.

DB 構築に用いるデータ数を変化させたときの位置

特定性能を評価するため,DB 内のデータ数を AP 探

索 30 回分から 240 回分まで 10 回ずつ増加させた.

DB 構築に用いるデータによる位置特定性能の偏りを

排除するため,ここでは乱数を用いて 30 種類の DB を

図6

通信の有無・DB 内のデータ数の違いによる位置特

定性能の変化

Fig. 6 Positioning performance comaprison on communication and number of data.

生成し,それらの平均を取ったものを実験結果とした.

評価用データは,通信ありの状況で取得したデータと,

用 AP の有無に依らないことも分かる.更に,学習時

通信なしの状況で取得したデータ,それぞれ 14880 回

通信ありで構築した DB では,評価時の通信の有無に

分(注 4)を用いた.

DB 構築に用いるデータ数の変化に対する位置特定

より性能が大きく異なるのに対して,学習時通信なし

で構築した DB では,その差が小さいことも分かる.

距離誤差の平均の変化を図 6 に示す.ここで,学習

以上のことから,学習時に通信なしで DB を構築する

用データにおける通信の有無,評価用データにおける

ことで,Scene Analysis の Survey Phase で作成する

通信の有無の組み合わせの違いによる位置特定性能を

DB (事前確率の分布) に様々な AP や RSSI が含まれ

比較するため,凡例として,学習時通信なし,評価時

ることになるため,評価時の通信の有無による位置特

通信ありとして,S(N)-E(T) と表記している.これら

定性能劣化の影響を小さくすることができると言える.

の結果から,DB に含まれるデータ数を増加させるこ

通信あり/通信なしで観測できる AP や RSSI が変わ

とで位置特定性能は高くなることが分かる.また,学

ることは無線 LAN の仕組みに依るものであり,環境

習時と評価時で通信状況が同じ場合は,学習時と評価

や端末が変わっても同様となる.

時で通信状況が異なる場合よりも位置特定距離誤差の

次に,DB 内の通信あり/なしのデータの割合を変

平均が小さいことも読み取れる.これらの傾向は,専

化させたときの位置特定性能評価を行った.DB 内の

(注 3)

:AP 探索回数 60 × 観測方向 2 × 使用端末数 4.

:1 参照点の AP 探索回数 480 × 評価点数 31.

(注 4)

データ数を AP 探索 240 回分に固定し,その中に含ま

れる通信ありの状況で観測した AP 探索結果の割合を

89

電子情報通信学会論文誌 2020/3 Vol. J103–A No. 3

変化させた.先ほどの実験と同様,DB 構築に用いる

出現数の 3 点に注目する.データ数は AP 探索で観測

データによる位置特定性能の偏りを排除するため,乱

した BSSID と RSSI の組の数,BSSID 観測数は AP

数を用いて 30 種類の DB を生成し,それらの平均を

探索で観測した BSSID の数,RSSI 出現数は AP 探

取ったものを実験結果とした.

索で観測した AP のそれぞれで得られた RSSI の数を

DB 内の通信ありのデータの割合を変化させたとき

それぞれ表している.図 7 の結果において評価時の

の ed を図 7 に示す.評価時の通信の有無,専用 AP

通信状況を分けずに作成したグラフに,DB 内のデー

の有無によらず,DB 内の通信ありのデータの割合の

タ数・BSSID 観測数・RSSI 出現数のそれぞれの最大

変化に対して,ed は単調変化するのではなく,0.3∼

値で規格化した規格化データ数・規格化 BSSID 観測

0.7 付近で極小値を取った.これらの結果から,同じ

数・規格化 RSSI 出現数を重畳した結果を図 8 に示す.

通信状況のみで DB を構築するよりも,異なる通信状

規格化データ数については,DB 内の通信ありのデー

況を含んだ DB を構築することで位置特定性能が向上

すると言える.

図 7 の結果について考察を行う.本論文で用いてい

る Scene Analysis による無線 LAN 位置特定システ

ム [2] において,位置特定性能に影響を与えうる項目

として,ここではデータ数,BSSID(注 5)観測数,RSSI

図 7 DB 内の通信ありのデータの割合を変化させたとき

位置特定性能の変化

Fig. 7 Positioning performance comaprison on communication data ratio.

(注 5)

:Basic Service Set Identifier.

90

図8

DB 内の通信ありのデータの割合を変化させたとき

位置特定性能と 3 項目の関係

Fig. 8 Relationship between positioning performance

and three items.

論文/無線 LAN 位置特定システムの通信を考慮した位置特定性能評価

タの割合の増加によって単調に減少している.これは

今後の課題として,空港や大型商業施設など広い環境

4. 1. 2 で示したとおり,周辺端末の通信によって観測

での性能評価,無線 LAN 位置特定システムの通信を

できる AP の数が減少しているためである.一方,規

考慮した位置特定性能の改善手法や DB 構築手法の検

格化 BSSID 観測数と規格化 RSSI 出現数は 0.3∼0.7

討などが挙げられる.

付近で極大値を取った.この極大値を取った範囲は ed

が極小値を取る範囲と一致している.つまり,通信状

[1]

A. Kupper, Location-based Services, Wiley, 2005.

況の異なるデータを DB に含ませることで,データ数

[2]

伊藤誠吾,河口信夫,“アクセスポイントの選択を考慮した

ベイズ推定による無線 LAN ハイブリット位置推定手法と

” 電学論(C),vol.126, no.10, pp.1212–1220,

その応用,

は少なくなるが,BSSID 観測数と RSSI 出現数が多く

なるため,通信ありのみ,または,通信なしのみでは

観測することができなかった AP や RSSI が観測され

[3]

るようになり,位置特定において優位に働いていると

[4]

言える.先に述べたとおり,通信あり/通信なしで観

測できる AP や RSSI が変わることは無線 LAN の仕

[5]

組みに依るものであるため,環境や端末には依らない

結論である.

本論文では,無線 LAN 位置特定システムにおいて

[7]

への接続の有無が位置特定性能に与える影響について

評価を行った.事前実験では,学習用データ・評価用

no.1, pp.51–62, 2006.

小南貴基,相河 聡,“Finger Print による位置推定に

” 信学論(B),

おける無線 LAN 端末個体差の校正法,

vol.J99-B, no.2, pp.53–59, Feb. 2016.

[6]

5. む す び

通信を考慮した位置特定性能評価を行った.まず,AP

2006.

総務省,“情報通信白書,

” 2017.

伊藤誠吾,佐藤弘和,河口信夫,“無線 LAN の受信電波強

” 情処学論,vol.47,

度分布間類似度による方向推定手法,

早川 愛,山口実靖,小口正人,“無線 LAN-AP におけ

る TCP ACK パケット蓄積回避のための協調的輻輳制御

手法の提案と実装,

” データ工学と情報マネジメントに関

するフォーラム,no.C2-2, 2015.

J. Krumm and K. Hinckley, “The NearMe wireless

proximity server,” Proc. 6th Int’l Conf. Ubiquitous

Comput., pp.283–300, Nottingham, UK, 2004.

[8]

A.

LaMarca,

Y.

Chawathe,

S.

Consolvo,

J.

Hightower, I. Smith, J. Scott, T. Sohn, J. Howard,

データともに,未接続時の方が多くの AP を観測でき

J. Hughes, F. Potter, J. Tabert, P. Powledge, G.

ることを確認した.このことを踏まえて,屋内廊下に

Borriello, and B. Schilit, “Place lab: Device posi-

おいて AP への接続状況の異なるスマートフォンで収

tioning using radio beacons in the wild,” Proc. 3rd

集したデータを用いて位置特定性能評価を行った.そ

Int’l Conf. Pervasive Comput., pp.301–306, Munich,

の結果,未接続時における位置特定性能が高いことを

示した.次に,周辺端末の通信状況が自端末の位置特

Germany, 2005.

[9]

B. Li, J. Salter, A.G. Dempster, and C. Rizos, “Indoor positioning techniques based on wireless LAN,”

定性能に与える影響について評価を行った.事前実験

Proc. 1st IEEE Int’l Conf. Wireless Broadband

では,曜日・時間帯,及び,周辺端末の通信状況が自

& Ultra Wideband Commun., pp.13–16, Sydney,

端末の AP 探索結果に影響を与えることを確認した.

Australia, 2006.

[10]

野田真吾,間邊哲也,長谷川孝明,“屋内廊下における

” 信学技報,

無線 LAN による位置特定に関する一検討,

ITS2012-41, 2013.

[11]

野田真吾,間邊哲也,長谷川孝明,“屋内外無線 LAN 位

置特定における専用アクセスポイントの設置効果につい

” 信学技報,ITS2012-59, 2013.

て,

[12]

間邊哲也,長谷川孝明,永長知孝,相原弘一,“位置特定社

会基盤のシステム創成学論的考察—Wi-Fi によるスマー

” 信学技報,ITS2014-7, 2014.

トフォン位置特定性能,

[13]

J. Tang, Y. Chen, L. Chen, J. Liu, J. Hyypp¨

a, A.

このことを踏まえて,屋内廊下において周辺端末の通

信状況を変えて収集したデータを用いて位置特定性能

評価を行った.その結果,学習時に通信なしで DB を

構築することで,評価時の通信の有無による位置特定

性能劣化の影響を小さくすることができることを示

した.また,DB 内の通信ありのデータの割合を変化

させたときの性能評価と考察から,通信状況の異なる

データを DB に 0.3∼0.7 程度含ませることで,位置

Kukko, H. Kaartinen, H. Hyypp¨

a, and R. Chen, “Fast

特定性能が向上することを示した.以上のことから,

fingerprint database maintenance for indoor position-

無線 LAN 位置特定システムにおいて,AP への接続

ing based on UGV SLAM,” Sensors, vol.15, no.3,

状況,周辺端末の通信状況を考慮した DB 構築や位置

特定性能評価の必要性を明らかにした.これらの結論

pp.5311–5330, 2015.

[14]

L. Chen, B. Li, K. Zhao, C. Rizos, and Z. Zheng,

“An improved algorithm to generate a Wi-Fi fin-

は,無線 LAN 位置特定システムの構築や性能評価に

gerprint database for indoor positioning,” Sensors,

おいて,通信を考慮することの必要性を示唆している.

vol.13, no.8, pp.11085–11096, 2013.

91

電子情報通信学会論文誌 2020/3 Vol. J103–A No. 3

[15]

Y. Huang, L.-T. Hsu, Y. Gu, H. Wang, and S.

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[16]

C. Luo, L. Cheng, M.C. Chan, Y. Gu, J. Li, and Z.

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2017.

[17]

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[18]

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[21]

N. Hern´

andez, M. Oca˜

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Increasing WiFi-

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[22]

宮林竜也,間邊哲也,“アクセスポイントへの接続の有無

” 信

に着目した無線 LAN 位置特定システムの性能評価,

学技報,ITS2016-72, 2017.

[23]

守倉正博,久保田周次,802.11 高速無線 LAN 教科書,イ

ンプレス R&D,2005.

宮林竜也,間邊哲也,“無線 LAN における周辺端末の通

[24]

[25]

信状況が位置特定性能に与える影響について,

” 信学技報,

ITS2017-86, 2018.

S. He and S.-H.G. Chan, “INTRI: Contour-based trilateration for indoor fingerprint-based localization,”

IEEE Trans. Mobile Comput., vol.16, no.6, pp.1676–

1690, 2017.

(2019 年 5 月 6 日受付,9 月 12 日再受付)

宮林

竜也

平 28 埼玉大・工・電気電子システム工

卒.平 30 同大大学院博士前期課程修了.

在学中,無線 LAN を使用したシームレス

測位に関する研究に従事.

92

間邊 哲也

(正員:シニア会員)

平 18 埼玉大・工・電気電子システム工卒.

平 20 同大大学院博士前期課程修了.平 24

同大博士後期課程修了.博士(工学).同

大・非常勤研究員を経て,平 25 より同助

教.人の移動環境を高度化する IT ベース

のシステムの創成に関する研究,特にシー

ムレス測位を含む歩行者ナビゲーションシステム,超小型低速

車両(SV)プローブデータに基づくナビゲーションシステムな

ど,リアルワールドにおける情報社会基盤の実現に従事.ITS

研究専門委員会幹事.IEEE,情報処理学会,土木学会,交通

工学研究会各会員.

...

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