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大学・研究所にある論文を検索できる 「バラ科サクラ属果樹の自家不和合性花粉側共通因子の同定とその園芸的利用に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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バラ科サクラ属果樹の自家不和合性花粉側共通因子の同定とその園芸的利用に関する研究

大野, 健太朗 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23244

2021.03.23

概要

バラ科サクラ属には多くの果樹作物が属し,それらのほとんどがS-ribonuclease(S-RNase)依存性配偶体型自家不和合性を示すので,果実生産時には他家受粉のために多大なコストがかかる.さらに,サクラ属果樹類では自家不和合性の人為打破の成功例がなく,育種時の交雑組み合わせも大きく制限されている.S-RNase型の自家不和合性はナス科,オオバコ科,バラ科で精力的に研究されており,S遺伝子座にコードされる雌ずいS因子(S-RNase)と花粉S因子(S haplotype-specific F-box protein; SFB)が自他認識機能を担うことが明らかにされている.しかしながらバラ科サクラ属のS因子は他の植物とは異なる認識様式を示すとされ,未解明の点が多い.

 サクラ属果樹のカンカオウトウ(Prunus avium)‘Cristobalina’は,M遺伝子座に座乗する自家不和合性共通因子の変異により花粉側の自家不和合性機能が損なわれ自家和合化したことが報告されている.本研究は,サクラ属に特異な自家不和合性反応機構の解明および人為制御法の開発を目的として,この共通因子の同定と機能解析を行ったものである.

 第1章では,‘Cristobalina’のF1後代43個体(M遺伝子座の遺伝子型がMmであり自家和合性の18個体とM遺伝子座の遺伝子型がMMであり自家不和合性の25個体)および既存17品種(M遺伝子座の遺伝子型はMM)を材料にして,連鎖解析とアソシエーション解析を組み合わせて行うことで,サクラ属花粉側共通因子を同定した.全ゲノムシークエンスリードをMm後代,MM後代,MM品種の3グループでプールし,35bpよりなるサブシークエンス(k-mer)に細分化してグループ間の特異性と共通性に基づいてm特異的多型をk-merの形式で抽出した.m特異的k-merを含むリードをアセンブルして得られたコンティグの配列情報から,m特異的な1,848bpのトランスポゾン様挿入配列を同定した.このトランスポゾン様挿入配列の近傍には花粉で強く発現するglutathione S-transferase(GST)様遺伝子が座乗しており,m花粉で発現低下していたため,これをサクラ属花粉側共通因子の候補とし,M-locus encoded GST(MGST)と命名した.分子系統解析の結果,MGSTはサクラ属およびオランダイチゴ属に特異的に存在し,ナス科など他の双子葉植物には存在しないため,サクラ属に特異な自家不和合性反応に関与することが推察された.

 第2章では,サクラ属特異的な自家不和合性反応機構の解明のための研究を行った.第1節では‘Cristobalina’および後代の花粉における遺伝子発現解析を,第2節ではMGSTとS-RNaseの分子間相互作用の解析を行った.遺伝子発現解析においては, ‘Cristobalina’(Mm)のF1後代(Mm系統11個体とMM系統19個体)間の比較,および‘Cristobalina’自殖後代(mm6個体)と‘Cristobalina’(Mm)間の比較により,共通して検出された発現変動遺伝子および有意に濃縮されたGO termは極めて少数であった.分子間相互作用解析においては,大腸菌発現の組換えMGSTと雌ずい由来の内生S-RNase間の相互作用は確認されなかったが,花粉由来の内生MGSTは,複数アレルのカイコ発現の組換えS-RNaseと相互作用した.以上の結果より,MGSTの発現変動は花粉粒の段階においては特定の反応系に大きな影響を及ぼしていない可能性が高いこと,ならびにMGSTはS-RNaseとの直接の相互作用を通じたS-RNaseの活性制御に関与する可能性が示された.

 第3章では,サクラ属3種{ニホンスモモ(P. salicina),ウメ(P. mume),およびカンカオウトウ}の花粉にアンチセンスオリゴを処理してMGSTまたは花粉側S因子のSFBをサイレンシングし,自家不和合性の人為打破を試みた.GRAS-Di®マーカー解析により,得られた種子が自家受精に由来することが確認された.ニホンスモモ‘ソルダム’およびウメ‘南高’の自家受粉区において,MGSTまたはSFBをサイレンシングした花粉の受粉により自殖後代が得られた.また,サイレンシング処理により雌ずい内の花粉管伸長の促進も観察された.以上の結果は,MGSTおよびSFBがサクラ属の自家不和合性反応に必須の因子であることを裏付けるものであり,かつサクラ属自家不和合性の人為打破の初めての成功例でもある.

 以上の通り,本研究によって,サクラ属自家不和合性の共通因子MGSTが初めて同定され,さらにMGSTとS-RNaseが特定の条件において相互作用することが示された.またニホンスモモとウメの花粉へのアンチセンスオリゴの処理により,自家不和合性の人為打破にも初めて成功した.本研究の結果は,サクラ属に特異な自家不和合性反応機構の解明およびサクラ属の自家不和合性の人為制御法の開発に活用可能な重要な知見を与えるものである.

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