リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「前臨床7T-MRIを用いた新生児低酸素性虚血性脳症モデルラットの病態評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

前臨床7T-MRIを用いた新生児低酸素性虚血性脳症モデルラットの病態評価

大木, 明子 大阪大学

2022.03.24

概要

【背景・目的】
新生児低酸素性虚血性脳症(Hypoxic-Ischemic Encephalopathy: HIE)とは、新生児期の仮死状態により引き起こされる脳障害である。新生児疾患の中でも特に重篤で予後不良の疾患であり、生存児にも脳性麻痺などの長期障害を残すことがある。 HIEは臨床症状から病態を判定することが困難であるため磁気共鳴診断法(Magnetic Resonance Imaging: MRI)などの画像診断装置が果たす役割は大きい。治療に関しては低温療法が現在標準的に用いられているが、最重症児には効果が低いとの報告がある。以上の点から、HIEに対しては高精度な診断法と効果的な治療法の開発が必要とされている。本研究ではHIEモデルラットを作製し、前臨床用高磁場MRIと化学交換飽和移動(Chemical Exchange Saturation Transfer: CEST)法や Neurite Orientation Dispersion and Density Imaging (NODDI)など
の新規イメージング技術を用いて HIE の 病態を評価した 。 また、新規治療法 である細胞療法に着目し、Superparamagnetic Iron Oxide (SPIO)及びUltrasmall Superparamagnetic Iron Oxide(USPIO)造影剤で標識した臍帯由来幹細胞をMRI画像を用いて評価した。

【方法】
実験1, CESTイメージングによるHIEの代謝状態の画像化
CESTイメージングとは、生体内バルク水と交換可能な代謝物のプロトンとの磁化の化学交換をターゲットにしたイメージング法である。複数のオフセット周波数を用いたCESTイメージングでHIEモデルを経時的に評価した。日齢8のWistarラット8匹に対してイソフルラン吸入麻酔下で左頸動脈を結紮及び切離した。保温器内で45分間回復させた後34℃で加湿されたチャンバーに入れて1時間低酸素(酸素8%)に暴露した。低酸素暴露から2時間後と24時間後にBruker社製7T-MRIを用いてCEST画像、拡散強調画像(DWI)、T2強調画像、MRスペクトロスコピー(MRS)を撮影した。CESTにおいては複数のオフセット周波数(3.5, 2.0, 1.0, 0.5 ppm)で Magnetization Transfer Ratio asymmetry (MTRasym)マップを作成し、虚血領域とその反対側のMTRasym(%)を算出した。MRSでは虚血部位及びその反対側に関心領域を設定しLCmodelを用いて解析を行った。

実験2, NODDIを用いた異なる重度のHIEモデル動物の評価
NODDI とは水分子の拡散を細胞内の制限拡散 (intracellular volume fraction: ICVF) 、 細胞間の束縛拡散 (orientation dispersion index: ODI)、脳脊髄液の自由拡散(isotropic volume fraction: ISO)の3つのコンパートに分ける新しい拡散MRIの手法である。重症度の異なるHIEモデルを作製し、NODDIを用いて経時的に評価した。生後8日目のWistarラット13匹を対象とした。実験1と同様に左頸動脈を結紮及び切離し、低酸素に1時間又は2時間負荷したものをそれぞれ軽度群と重度群とした。負荷の1時間後、24時間後、72時間後、168時間後に7T-MRIを用いてDWI、T2強調画像、Arterial Spin Labelling(ASL)画像を撮影した。虚血側と反対側に関心領域を設定し、見かけの拡散係数(Apparent Diffusion Coefficient: ADC)値、拡散異方性(Fractional Anisotropy: FA)値、Intracellular Volume Fraction(ICVF) 値 、 Isotropic Volume Fraction(ISO) 値 、 Orientation Dispersion Index(ODI) 値 、Cerebral Blood Flow(CBF)値を算出した。

実験3, Superparamagnetic Iron Oxide (SPIO)及びUltrasmall Superparamagnetic Iron Oxide(USPIO)造影剤を用いたヒト臍帯由来間葉系幹細胞の標識及び追跡
ヒト臍帯組織由来間葉系幹細胞(Umbilical cord-derived mesenchymal stem cells: UC-MSCs)を、MRI用造影剤であるSPIO及びUSPIOで標識し、7T-MRIを用いて標識細胞ファントムと新生児ラット脳内の画像化および定量評価を行った。 UC-MSCsを37℃、5%CO2 下で培養した。SPIO造影剤であるResovistまたはUSPIO造影剤である Molday ION Rhodamine Bを最終濃度50, 100 µg/mLで培地に添加し24時間培養した。対照群として非標識のUC-MSCsを同様に培養した。プルシアンブルー染色、トリバンプルー染色、MTTアッセイを行い、細胞への取り込み、生存率、増殖能を評価した。標識細胞の分化能を評価するために、オイルレッド染色、アリザリンレッド染色、アルシアンブルー染色を行った。ファントム実験においては、0.25×106, 0.5×106, 1.0×106, 2.0×106 個の細胞をアガロースゲルに固定し、T2マップを撮影した。対照群、SPIO群、USPIO群のそれぞれに関心領域を設定し T2値を測定した。動物実験では生後8日目のWistarラットを対象とした。麻酔下でラット頭部を固定し、SPIOまたはUSPIOで標識したUC-MSCs (3.0×105 cells/3.0 µL PBS)を左脳内に投与し移植当日、7日後、14日後にT2強調画像を撮像した。

【結果】
実験1, 負荷2時間および24時間後には、DWIの高信号とADCマップの低信号が観察された。 CEST画像では負荷2時間および24時間後において3.5 ppmと2.0 ppmで虚血側MTRasymは有意に低下した。CEST画像では24時間後のMTRasymの低下が顕著でありDWI画像と比較すると信号変化の領域や様相が一致しないことが明らかになった。 MRSでは虚血2時間後から乳酸の増加が観察された。24時間後には乳酸増加に加えてクレアチン、コリン、グルタミン酸、グルタミンの低下が観察された。

実験2, ADC値は軽度群では1時間後から低下し168時間後に回復傾向が認められた。重度群においても1時間後にADCマップ上で低信号が見られ、168時間後には高信号が観察された。FA値に関しては、障害側で低下し168時間後の重度群では軽度群より有意に低値となった。NODDI画像では、1時間後に両群でICVF値とODI値は高値を示した。168時間後には重度群で障害部位が顕著になり、ICVF値とISO値は ADCマップの高信号領域と一致して特に高値を示した 。ISO値とICVF値は負荷から24時間以降、ODI値は1~168時間以降に重度別での有意差を認めた。

実験3, 顕微鏡下の観察によりSPIOとUSPIOはUC-MSCsに取り込まれていることが確認された。トリパンブルー染色では対照群および標識されたUC-MSCsの生存率は同等であった。MTTアッセイではUSPIO標識UC-MSCs(100 µg/mL)は対照群に比べて増殖能が有意に低下した。SPIO標識UC-MSCs(100 µg/mL)では軟骨細胞への分化は阻害された。ファントム実験では、対照群に比べてSPIO及びUSPIOで標識したUC-MSCsでは信号が減少した。T2値を算出した結果、USPIO標識UC-MSCsは対照群に比べて有意に低いT2値を示した。SPIOはいずれの細胞数においても対照群との差は見られなかった。動物実験においては移植後14日後までT2強調画像において信号の低下が観察された。組織染色においてもSPIO及びUSPIOの存在が確認された。

【結語】
小動物用高磁場MRIと新規MRイメージング技術を用いてHIEモデル動物の病態を評価した。研究成果より、CESTイメージングやNODDIといった先進的MRI技術を用いることで、早期HIEにおける代謝状態の可視化や重症度判定が可能であることが示唆された。また、新たな治療製剤であるUC-MSCsをMRI用酸化鉄造影剤で標識し、標識細胞の特性評価及び生体内イメージングを行った。MRI造影剤で標識した細胞は、移植後の経時的追跡が可能であることが分かった。以上の研究成果により前臨床イメージング機器と疾患モデル動物を用いた研究が今後のHIEの診断・治療の開発に大きく貢献していくことが期待される。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る