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高線量下で動作するロバストで可搬なMeVオーダーγ線コンプトンカメラの開発

長谷川, 庸司 信州大学

2021.11.19

概要

2版

様 式 C−19、F−19−1、Z−19 (共通)

科学研究費助成事業  研究成果報告書
令和

2 年

7 月

7 日現在

機関番号: 13601
研究種目: 基盤研究(C)(一般)
研究期間: 2016 ∼ 2019
課題番号: 16K05376
研究課題名(和文)高線量下で動作するロバストで可搬なMeVオーダーγ線コンプトンカメラの開発

研究課題名(英文)Development of a robust compton camera operable under high dose environment

研究代表者
長谷川 庸司(Hasegawa, Yoji)
信州大学・学術研究院理学系・教授

研究者番号:70324225
交付決定額(研究期間全体):(直接経費)

3,600,000 円

研究成果の概要(和文):エネルギーがMeVオーダーのγ線の入射方向を測定するコンプトンカメラは,物理
学、医療、環境など広い分野で用いられる。本研究では,入射γ線による反跳電子の飛跡の測定と,散乱γ線の
エネルギーと位置の測定を共通化し,散乱標的にガスを用いることにより高線量下で動作する簡素でロバストな
コンプトンカメラを開発した。
細分化した無機シンチレータと半導体光検出器を用いることでガス増幅とシンチレータによる蛍光を同時に読み
出し,γ線に対するエネルギー分解能散と入射位置測定の性能評価を行った。シミュレーションにより入射γ線
の方向を再構成のアルゴリズムの開発と評価を行った。
研究成果の学術的意義や社会的意義
高線量下で動作するロバストで可搬なMeVオーダーγ線コンプトンカメラは,様々な分野で用いられることが期待
される。特に,放射線源の分布を視覚的に捉える事ができるため,原子炉の廃炉作業のような高線量下で活躍が
期待できる。本研究では,コンプトン散乱をガスで起こすことで,高線量下での動作させること,読み出し回路
を簡単にすることでロバストで可搬なコンプトンカメラを開発した。実際の環境での使用に耐え得る性能は達成
できていないが,様々な新しい技術を導入することで性能を向上させることができると考えている。

研究成果の概要(英文):A Compton camera sensitive to MeV-order gamma rays is utilized in many
fields for physics, diagnostic, and environment. In this study, we developed a simple and robust
camera which has a common readout for measuring scintillation lights from gas amplification for
electrons and from inorganic scintillator for gamma rays and operable under high radiation
environments.
Energy resolution and position resolution of scintillation counters for scattered gamma rays were
measured. For measurement of tracks of recoil electrons, a gaseous chamber with gas electron
multipliers was filled with Ar + methene gas mixture. Light yields of gas amplification were too
small to reconstruct the tracks. Simulation studies of developing algorithms for reconstruction of
incident gamma rays were also performed.

研究分野: 素粒子物理学
キーワード: 放射線測定器

※科研費による研究は、研究者の自覚と責任において実施するものです。そのため、研究の実施や研究成果の公表等に
ついては、国の要請等に基づくものではなく、その研究成果に関する見解や責任は、研究者個人に帰属されます。



式 C−19、F−19−1、Z−19(共通)

1.研究開始当初の背景
MeV オーダーのγ線の到来方向を広い視野で測定できるコンプトンカメラは,地上観測ができ
ない MeV オーダーのγ線を放出する天体の衛星による観測,医療現場における放射性薬剤によ
る汚染,福島第一原子力発電所事故で環境に放出された放射線源の汚染マップの測定など,宇宙
物理学,核医学診断,環境の分野で広く使用されている。より簡便でロバストな検出器を開発で
きれば,実験室の外での観測や測定を前提とした宇宙物理や環境の分野において用途は大きく
広がる。多くの開発例があるコンプトン散乱の標的が固体のコンプトンカメラの場合,散乱の起
こる確率が大きいため,高い検出効率は放射線のレベルが高いところでは,背景事象の増加を招
く。標的をガスにすることで,散乱の確率を下げ,バックグラウンドが多い環境や,強い放射線
環境でも動作し,広い視野で精度の高い測定が可能なコンプトンカメラの開発が可能となる環
境に放出された高濃度の放射性物質の分布,例えば,原発事故の原子炉建屋内の放射性物質の分
布を測定するのに有利となる。
2.研究の目的
コンプトンカメラは,コンプトン散乱を検出
する散乱検出器と,散乱されたγ線を検出する
吸収検出器からなる。コンプトン散乱の標的を
ガスにしたコンプトンカメラは先行研究があ
り,電子の飛跡を検出するため,散乱が起こった
時刻から信号が観測されるまでの時間を測定し
飛 跡 を 再 構 成 す る TPC(Time projection
chamber) と呼ばれる飛跡検出器を用い, TPC
はガスによる雪崩増幅で増幅された電子の誘起
電流を観測している。本研究の新しい点は,1)
電子の飛跡を検出する際のガス電子増幅器
(GEM)に厚い GEM(thick GEM, tGEM)を用いる
ことで,
通常複数枚組み合わせて使用する GEM を
1 枚で実現可能であること,2)この雪崩増幅と
散乱γ線吸収のシンチレーション光を光読み出
しにして回路を共通化することで,構造を簡略
化,ロバストにすることができると考える。図1
に示すように,散乱検出器にガス放射線検出器 図 1 本研究で開発するコンプトンカメラ
を,吸収検出器に無機シンチレータと半導体光
検出器を用いたシンチレーションカウンタを用 の概略図
いている。動作原理についての研究は既に進め
ており,本研究では,実証機を作成し,最終的には屋外でのフィールドテストを目標とする。
3.研究の方法
(1)吸収検出器の性能評価
シンチレーションカウンタからなる吸収検出器は散乱γ線のエネルギーと入射位置の測定精
度を評価する。吸収検出器は,無機シンチレータ (古河電子製 Ce:GAGG) と半導体光検出器 (浜
松ホトニクス社 MPPC) の組み合わせたシンチレーションカウンタである。放射線が入射した場
合に,MPPC が感度を持つ波長 520nm のシンチレーション光を放出する。シンチレータのサイズ
や,シンチレータと MPPC の接合方法を変えることによるγ線に対するエネルギー分解能,位置
分解能を評価し,最適化を図る。
(2)散乱検出器の開発と製作
散乱検出器に tGEM を 1 枚,もしくは厚さ 50 と 100µ
m の GEM と組合せてガス増幅を行う。
tGEM は 1 枚でもある程度の増幅率を期待でき,より簡素化されたコンプトンカメラを構成で
きる。飛跡再構成に重要な位置分解能は,tGEM の読み出し方法を最適化することで対応する。
吸収検出器を構成する Ce:GAGG はアルゴンガス中の雪崩増幅から発生するシンチレーション光
は真空紫外光を吸収し波長 520nm の光を放出する波長変換物質として働く。tGEM とシンチレー
ションカウンタの組み合わせにより,散乱電子と散乱γ線の異なる測定対象を一つの検出器で
検出するより現実的な実証機を開発,製作し,性能評価を行う。
(3)読み出し回路の開発と製作
半導体光検出器用の専用 IC を用い,出力信号の処理を柔軟に行うための回路の開発と製作
を行う。また、信号処理回路に適した入射γ線の方向を再構成するアルゴリズムを開発する。

4.研究成果
(1)吸収検出器の研究
シンチレータ Ce:GAGG は 2 種類のサイズ(6mm
×6mm×10mm,3mm×3mm×10mm)を用い,MPPC は
3mm×3mm の受光面を持つ 4 つの独立した読み出
しチャンネルが 2×2 のアレイ上に配置されてい
る。読み出し形状による位置分解能を評価するた
めに, 6mm×6mm×10mm のシンチレータ1個に対
し,2×2 のアレイに配置された 4 つの受光面を
接合し,4 つのチャンネルからの信号の重心を求
めることで,光の入射位置を測定する。一方,3mm
×3mm×10mm のシンチレータは1つのシンチレー
タに1つの受光面を接合した。エネルギー分解能
を測定するためにγ線源からのγ線を入射して
光量を測定した。アナログ信号を CAMAC 規格の
ADC モジュール(豊伸電子社製)を用いて読み出
し,十分な光量とエネルギー分解能が得られるこ
とが分かった。図2にエネルギー分解能とγ線
のエネルギーの関係を示す。エネルギー分解能
∝a/√ にしたがうことが分かった。次に,MPPC
の各チャンネルを校正し,γ線の入射位置の測
定精度を求めた。図3に 3mm×3mm×10mm の
Ce:GAGG を用いた場合の再構成した入射位置の
分布を示す。殆どの事象が,4 つの MPPC のチャ
ンネルのうち一つだけ信号を出していることか
ら,光電吸収であることが分かる。対角線や四角
形の辺に相当する部分に入射位置が再構成され
た事象は,コンプトン散乱により,複数のチャン
ネルから信号が出ているものである。

図 2 Ce:GAGG のエネルギー分解能のγ線エ
ネルギー依存性。5 種類のγ線のエネルギー
について測定し, a/√ +b(E:γ線のエネル
ギー,a,b は定数)でフィットした曲線を示
す。

(2)散乱検出器の開発と製作
図 3 4 つのチャンネルで測定した光量から再
tGEM のサイズは 10cm×10cm,厚さ 400µ
m ,孔 構成した入射位置。x-y 座標の第1象限から第
径 300µ
m ,GEM も同様のサイズで,厚さ 50μm と 4象限のそれぞれが MPPC のチャンネルに相当
100μm,孔径 50µ
m のものを用いて測定した。こ する。縦軸,横軸は MPPC の光電面の大きさに
れらの GEM を1枚または複数枚組合せて測定を行 規格化している。第1象限のチャンネルに入
った。まず,陽極板を用いて誘起電荷による電気 射した場合,(0.8,0.8)付近に入射位置が再構
信号を,陽極板と GEM に貼られた電極から読みだ 成される。
したところ,放射線(γ線または X 線)による散乱
電子により生成した,電離電子によるガス増幅か
らの信号が観測された。次に,Ce:GAGG と MPPC に
よるシンチレーションカウンタをガス検出器内に
設置し,ガス増幅からのシンチレーション光と誘
起電荷による電気信号のコインシデンスを測定し
たところ,シンチレーション光と電気信号の有意
な相関は見られなかった。原因としては、アルゴ
ンと混合している CH4 がシンチレーション光であ
る真空紫外光を吸収し,Ce:GAGG まで十分な光が
到達しなかったことが考えられる。ガスに混合す
る波長変換剤や,シンチレータの配置について
様々な検討を行ったが、有意に光量が増加するこ
とはなかった。実験室で行った性能評価により,
フィールドで行うのに十分な性能が出せないこと
が分かったため,フィールド試験は行わなかった。
(3)読み出し回路の開発と入射方向再構成アル
ゴリズムの開発
散乱検出器と吸収検出器からの信号を共通で読 図 4 カメラの焦点深度を変えて再構成
み出す MPPC の信号は ASIC により処理され,その した場合の画像。正しく焦点深度を設定
信号を用いて入射γ線の方向を再構成する回路の した場合に,点線源の位置が分かる。
試験を行った。実際の検出器からの信号は取得出
来なかったため,
シミュレーションにより疑似信号を作成し,
再構成のアルゴリズムを評価した。

本研究で開発しているコンプトンカメラは,視野が広く,視差を利用することにより,3 次元の
分布図を作成できる。図4に示すように,焦点深度を変えることにより,3 次元のγ線分布図が
得られることが分かった。さらに,機械学習を用いたアルゴリズムを用いることで分布図が効率
的に作成できると考えられる。 ...

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