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大学・研究所にある論文を検索できる 「アルツハイマー病血漿バイオマーカー分子APP669-711の産生機構解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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アルツハイマー病血漿バイオマーカー分子APP669-711の産生機構解明

松﨑, 将也 東京大学 DOI:10.15083/0002007136

2023.03.24

概要





















松﨑

将也

【序論】
世界的に高齢化が進み、現在では 5000 万人以上もの認知症患者が存在すると推計されている。
とりわけアルツハイマー病(AD)は認知症の中で最も多い神経変性疾患であり、早急な対策が求
められている。これまでの研究から、AD 患者脳特異的に蓄積するアミロイドβ(Aβ)は発症に
最も深く関与すると考えられ、Aβに対する様々な創薬研究が行われてきたが、多くの治験が失
敗に終わっている。一方、AD 発症の 10 年以上前から脳内で Aβ蓄積が開始しており、抗 Aβ療
法は認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)さらにはプレクリニカル AD で開始するべきだと
考えられている。すなわち脳内 Aβ蓄積を反映し、MCI やプレクリニカル AD を簡便に判定できる
バイオマーカーが必要とされている。近年、ヒト血漿中で Aβ関連ペプチドである APP669-711
(Aβ(-3)- 40)が超高感度 IP-MS 法により見出され(Kaneko et al., Proc Jpn Acad Ser B Phys
Biol Sci 2014)、血中 APP669-711/Aβ1-42 比と Aβ1-40/Aβ1-42 比を組み合わせたバイオマー
カーにより、少量の血液から脳内 Aβ蓄積の有無をアミロイド PET に匹敵する精度で判定可能で
あることが示された(Nakamura et al., Nature 2018)。APP669-711 は Aβと同様にアミロイド
前駆体タンパク(APP)の部分断片であるが、その産生機構や病態との関連は一切不明であった。
そこで、APP669-711 の産生機構と脳内病理と連動するメカニズムを解明することで、AD 早期診
断バイオマーカーとしての生物学的根拠を確立することができると考えた。
【方法と結果】
1. 培養細胞を用いた APP669-711 産生に関する薬理学的解析
当教室において、APP669-711 はグリア由来培養細胞以外の様々なヒト由来培養細胞から分泌
されており、その産生機構には何らかの細胞特異性があること、APP669 位(Aβ(-3)位)切断に
はメタロプロテアーゼが関与し、次いでγセクレターゼにより APP669-711 を主とした様々な C
末端長をもつ APP669-x ペプチド群が産生されることが示唆されていた(吉澤 遥太 修士論文)。
しかしこれまでの解析では、IP-MS 法を行うにあたり、ヒト Aβ1 位を含む N 末側領域を特異的
に認識する抗体が用いられていた。一方、Aβの N 末端長には多様性が存在すること、またヒト
Aβとマウス Aβは N 末側領域において 3 アミノ酸異なることが知られている。そこで私は、ま
ず様々な培養細胞における内因性 APP669-x および Aβ関連ペプチド産生に対する各種プロテア
ーゼ阻害薬の影響を、Aβ内部配列に対する抗体を利用した IP-MS 法により網羅的に解析した。
その結果、マウス神経芽細胞腫由来 Neuro2a の培養上清中から、APP669-711 と同様にメタロプ
ロテアーゼ阻害薬 GM6001 で産生が阻害され、βセクレターゼ阻害薬 MBSI で産生量がほとんど変
化しない Aβ12-40 や Aβ12-42 を見出した。この APP669 位と Aβ12 位近傍のアミノ酸配列が類
似していることから、切断には同じ配列特異性を示すプロテアーゼが関与しているのではないか
と考えた。近年、Aβ12-40 の産生酵素として ADAMTS4 が報告されていたことから(Walter et al.,
Acta Neuropathol 2019)、APP669-711 産生を担うプロテアーゼの候補として ADAMTS4 に着目し
解析を進めた。
2. ADAMTS4 が APP669-711 産生に与える影響
ADAMTS4 が APP669-711 産生に与える影響を検討するため、HEK293A 細胞に APP と ADAMTS4 を共
発現した過剰発現実験や、内在性の APP669-711 産生が検出できる肺胞基底上皮腺癌細胞由来
A549 細胞における ADAMTS4 ノックアウト実験により検討した。その結果、ADAMTS4 過剰発現によ
り、APP669-711 産生量の増加が観察された。さらに ADAMTS4 ノックアウト A549 細胞では、
APP669-711 産生量の減少が認められたが、GM6001 処理によりさらに減少した。以上の結果から、

APP669 位の切断には ADAMTS4 が関与すること、一方 ADAMTS4 以外の酵素も関与している可能性
が示唆された。
3. マウス血漿中内因性 APP669-711 の検討
これまで、ヒト血漿中から同定された APP669-711 が、マウス血中にも存在しているかについ
ては不明であった。そこでマウス Aβ特異抗体を利用し IP-MS 法により野生型マウス血漿を解析
した結果、内因性 Aβに加えて内因性 APP669-711 が検出された。そこでヒトにおいて脳内老人
斑蓄積バイオマーカーとして報告されている血中 APP669-711/Aβ1-42 比の上昇が、脳内 Aβ蓄
積が認められる AD モデル動物 APP/PS1 マウスにおいても確認されるかどうか検討した。APP/PS1
マウスは、ヒト Sweden 変異型 APP およびΔExon 変異型 PS1 を神経系特異的 Prion プロモーター
により過剰発現しているマウスである。Sweden 変異は Aβ(-2)および Aβ(-1)位への二重変異で
あり、βセクレターゼによる切断を亢進させ Aβ1-x の産生量を数倍以上上昇させることから、
まず Sweden 変異が APP669 位の切断に与える影響を培養細胞系により検討した。その結果、Sweden
変異により APP669-711 産生が消失することが明らかとなった。すなわち、APP/PS1 マウスにお
ける内因性マウス APP669-711 およびマウス Aβの挙動は、過剰発現させたヒト APP に由来する
のではなく、ヒト Aβアミロイドの脳内蓄積により生じる病的現象を反映していると考えられる。
そこで脳内 Aβが蓄積していない若齢(2 ヶ月齢)および十分に蓄積している老齢(23-25 ヶ月
齢)マウスの血漿を IP-MS 法により解析した。その結果、血漿中マウス APP669-711/マウス Aβ
1-42 が老齢マウスで上昇していることが認められた。以上の結果より、この血中バイオマーカ
ーは脳内の Aβ蓄積と相関して変化することが示唆された。
4. APP669 位断端特異的認識抗体を用いた APP669-x ペプチドの解析
次に APP669 位切断断端を特異的に認識する抗体の作出を目的として、Aβ(-3)-4 に相当する
ペプチドを用いてウサギに免疫し、得られた抗血清について抗原ペプチドで精製した。Aβ1-x
の前駆体である c99 や APP669-x の前駆体である c102 の過剰発現細胞ライゼートを用いて検討し、
APP669 位切断断端を特異的に検出できる精製ポリクローナル抗体を得ることができた。これら
の抗体を用いて、APP/PS1 マウス脳を解析した。その結果、ヒト Aβ蓄積が認められる老齢 APP/PS1
マウス脳のギ酸可溶画分において、内因性マウス Aβに加えて APP669 位切断断端抗体に反応す
る 4 kDa のペプチドが検出された。また脳組織切片において、APP669 位切断断端特異抗体によ
りヒト Aβ斑と共局在する斑様構造が染色された。これらの結果より、マウス脳内でも APP669
位切断が起こり APP669-x ペプチドが産生されていること、またマウス Aβに加え、マウス
APP669-x ペプチドもヒト Aβ斑に蓄積していることが示唆された。
【総括】
本研究より、APP669-711 産生酵素の1つとして ADAMTS4 を見出した。また、内因性マウス
APP669-711 の検出法を確立した。これまでにマウス個体やマウス由来細胞サンプルから
APP669-711 を発見したという報告はなされていなかった。本研究において、AD モデルマウスで
も血漿中 APP669-711/Aβ1-42 の変動が脳内 Aβ蓄積と相関することが示された。加えて、APP669
位切断ペプチドが高齢マウス脳内においても蓄積し、Aβ斑に巻き込まれていることも示唆され、
APP669-711 の産生機構と脳内病理と連動する分子病態連関の解明に繋がる点で非常に有意義で
ある。今後 ADAMTS4 発現細胞と脳内 APP669-x ペプチドの詳細な生化学的解析を進め、血漿中
APP669-711/Aβ1-42 が脳内病態によって変動するメカニズムを更に明らかとなることが期待さ
れる。
よって本論文は博士( 薬学 )の学位請求論文として合格と認められる。

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