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大学・研究所にある論文を検索できる 「特別養護老人ホームに入居している認知症をもつ人の家族介護者における複雑性悲嘆に影響する要因の探索 : 人生の最終段階における医療・ケアに関する満足度と家族内の意見の相違に焦点を当てて」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

特別養護老人ホームに入居している認知症をもつ人の家族介護者における複雑性悲嘆に影響する要因の探索 : 人生の最終段階における医療・ケアに関する満足度と家族内の意見の相違に焦点を当てて

福井, 千絵 東京大学 DOI:10.15083/0002004559

2022.06.22

概要

研究目的
 特別養護老人ホーム入居者の97%が認知症をもつとされており、認知症をもつ人の家族介護者の20%が複雑性悲嘆を呈するとの報告がある。特別養護老人ホームにおいて、入居者との死別後の家族支援は現実的に困難な状況であるため、複雑性悲嘆については、入居時から実施可能な予防的観点がより重要である。複雑性悲嘆に影響する要因は、故人や家族介護者の個人特性に起因するものもある一方、家族・職員等からの社会的なサポートにも関連がみられ、これらに着目することにより複雑性悲嘆を緩和することができる可能性がある。そのため、本研究では、複雑性悲嘆に影響する要因として、人生の最終段階における家族内の意見の相違と人生の最終段階における医療・ケアに関する満足度に焦点を当て、これらと複雑性悲嘆との関連を検討する。
 本研究の目的は、特別養護老人ホームに入居していた認知症をもつ人の家族介護者において、①複雑性悲嘆の実態を明らかにし、②人生の最終段階における医療・ケアに関する満足度と家族内の意見の相違という2つの概念が複雑性悲嘆に与える影響を探索的に検証することである。

本研究のデザイン
 本研究は、多施設共同の前向き観察研究である。特別養護老人ホームに入居していた認知症をもつ人の家族介護者を対象として、全2回の質問紙調査を行った。
 本研究は東京大学大学院医学系研究科・医学部および各施設の倫理委員会の承認を得た。

方法
1.研究協力者
 特別養護老人ホームに入居していた認知症をもつ人を亡くした家族介護者とした。家族介護者とは、特別養護老人ホームに入居していた認知症をもつ人が当該施設を退居した日から6ヵ月未満、かつ当該施設において緊急時第一連絡先に登録されていた者(血縁・同居関係を問わない)と定義した。除外基準は、特別養護老人ホームを退居した認知症をもつ人が存命、または存命かどうか不明である場合とした。

2.データ収集
 本研究では、IDを付与した質問紙調査を2回に分けて実施した。1回目は、研究協力施設50件における包含基準を満たす研究協力者202名に対し、研究協力施設より質問紙と説明文書が郵送された。全ての研究協力者に対し、書面にて研究説明を行い、質問紙に設けた同意チェックボックスへの印をもって同意とみなした。2回目は、入居者の死亡6か月後(180日後)に研究者から研究協力者へ質問紙が郵送された。

3.調査内容
 1回目の質問紙において、家族内の意見の相違はFamily Conflict Scalesを用い、家族介護者と認知症をもつ人の社会的背景・属性について調査した。2回目の質問紙において、複雑性悲嘆はBrief Grief Questionnaire、人生の最終段階における医療・ケアに関する満足度はCare Evaluation Scale 2.0の特別養護老人ホーム版を用いた。

4.分析
 分析は、死亡場所が特別養護老人ホームである認知症をもつ人の家族介護者を対象とした。複雑性悲嘆あり群と複雑性悲嘆なし群における差を検証するため、間隔変数および順序変数はMann-WhitneyのU検定、名義変数は2変量のカイ2乗検定またはFisherの正確確率検定を用いた。今後の支援を具体的に検討するため、合計得点に加え、各下位尺度得点も含めて相関係数を算出した。

結果
 全2回の質問紙調査に対して、113名より返送があった(回収率55.9%)。分析の対象となった研究協力者59名において、認知症をもつ人の家族介護者の年齢は平均65.4歳(SD=9.1)、女性が36名(61.0%)、「配偶者」が8名(13.6%)、「実の息子または娘」が42名(71.2%)、入居前に同居介護の経験がある者は34名(57.6%)、同居介護の年数は平均7.8年(SD=7.1)であった。
 研究協力者59名のうち、Brief Grief Questionnaire 8点以上の複雑性悲嘆を呈している研究協力者は8名(9.5%)、5-7点の複雑性悲嘆の可能性がある研究協力者は15名(17.9%)、5点未満の複雑性悲嘆がない研究協力者は36名(42.9%)であった。
 複雑性悲嘆あり群は、複雑性悲嘆なし群に比べ、人生の最終段階における医療・ケアに関する満足度の「利用者への説明・意思決定」の満足度が低く(p=.025)、人生の最終段階における家族内の意見の相違が小さかった(p=.001)。

考察
 本研究は、特別養護老人ホームに入居していた認知症をもつ人の家族介護者を対象として、全2回の質問紙調査による前向き観察研究を行い、複雑性悲嘆の実態を明らかにした。加えて、人生の最終段階における医療・ケアに関する満足度の下位尺度「利用者への説明・意思決定」、人生の最終段階における家族内の意見の相違が、複雑性悲嘆に影響を与えている可能性を見出した。
 本研究の研究協力者のうち、複雑性悲嘆をもつ人の割合は9.5%であった。米国のナーシングホームに入居していた認知症をもつ人の遺族を対象とした先行研究においては、複雑性悲嘆の割合は20%であるが、日本国内における認知症をもつ人の家族や特別養護老人ホーム入居者の家族を対象にした悲嘆の調査は未だない。しかしながら、日本国内では、遺族の2.5-2.6%、緩和ケア病棟で死亡したがん患者の遺族の2.3-14.0%が複雑性悲嘆を呈していたと報告されている。以上のことから、特別養護老人ホームに入居している認知症をもつ人の家族介護者は、遺族全般に比べると複雑性悲嘆のリスクが比較的高く、緩和ケア病棟で死亡したがん患者の遺族と同様にハイリスクな集団であることに注意する必要がある。
 人生の最終段階における家族内の意見の相違と複雑性悲嘆の関連については、複雑性悲嘆あり群において、家族内の意見の相違が有意に小さかった。先行研究においては、死別後の家族介護者を対象として、人生の最終段階における家族内の意見の相違の大きいことと複雑性悲嘆との関連を報告しており、本研究の結果は先行研究と逆の関連が示された。先行研究と異なる結果が出た理由として、研究協力者集団・測定概念の違いによるもの、本調査の測定尺度の特徴によるもの、リクルートによるものの3つの可能性が考えられた。本研究では、以上3点の理由により、先行研究とは異なる結果が導かれた可能性があるため、人生の最終段階における家族内の意見の相違と複雑性悲嘆の関連については、さらなる詳細な検討が求められる。しかし、本研究の結果は、特別養護老人ホームに入居している認知症をもつ人の人生の最終段階において、家族内の意見の相違が大きい家族ばかりでなく、家族内の意見の相違が全くない・小さいと認識する家族介護者も支援の対象とする必要性が示唆された。家族内の話し合いがどのように行われているかを再確認する等して支援を講じることが、家族介護者の複雑性悲嘆の予防として有用である可能性が考えられる。
 人生の最終段階における医療・ケアに関する満足度と複雑性悲嘆の関連については、複雑性悲嘆あり群において、下位尺度「利用者への説明・意思決定」が有意に低かった。このことから、「利用者への説明・意思決定」の満足度を高めることは、複雑性悲嘆を予防する可能性が示唆された。家族介護者が、「利用者への説明・意思決定」に主観的に満足することは、本人の尊厳や利益を守ることができたと感じ、家族介護者の後悔や罪悪感を減らし、複雑性悲嘆につながることを予防すると考えられた。たとえ、認知症をもつ人の意思がわかりにくくとも、本人を中心とした話し合いができるように、本人の希望や利益を家族内で話し合うことを促す介入を行うことが、家族介護者の複雑性悲嘆の予防に有用である可能性があると考えられる。

結論
 特別養護老人ホームに入居している認知症をもつ人の家族介護者における複雑性悲嘆の割合は9.5%であった。
 人生の最終段階において、「利用者への説明・意思決定」の満足度を高めることは、複雑性悲嘆の予防に有用である可能性が示唆された。そのため、認知症をもつ人へ医療・ケアに関する説明を十分に行い、認知症をもつ人が意思決定に参加すること、本人の希望や利益を中心とした話し合いが家族内で行われるように支援することは、複雑性悲嘆の予防に有用であると考えた。また、家族内の意見の相違が大きい家族ばかりでなく、家族内の意見の相違が全くない・小さいと考えられる家族介護者にも、複雑性悲嘆を予防するための支援の必要性が示唆された。