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大学・研究所にある論文を検索できる 「Geometry of configuration space in Markov chain Monte Carlo methods and the worldvolume approach to the tempered Lefschetz thimble method」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Geometry of configuration space in Markov chain Monte Carlo methods and the worldvolume approach to the tempered Lefschetz thimble method

Matsumoto, Nobuyuki 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23003

2021.03.23

概要

マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)は、量子色力学(QCD)の格子計算をはじめ、理論物理学・数値物理学において必要不可欠な道具となっている。本博士論文は、新たな手法の開発によって理論・数値物理学におけるMCMC法の有効性を一層高めることを目的とし、次の2つの方向で重要な研究成果を得ている。1つ目は、MCMCアルゴリズムにおける「配位間の距離」の概念を初めて導入し、配位空間を幾何学的に扱うことの有効性を示したことである。2つ目は、符号問題を解決する汎用的手法として「焼き戻しレフシェッツ・シンブル法」を大きく進展させたことである。

第1の方向の研究では、「配位間の距離」を、確率過程における「配位間の遷移の難しさ」を定量化するものとして導入した。これにより、確率過程を配位空間の幾何学的性質として理解することが可能となり、さらに、アルゴリズム中のパラメーターのチューニングが幾何学的に行えるようになる。本論文では例として、平衡分布が著しくマルチモーダルな場合について調べ、焼き戻し法(simulated tempering method)により拡大した配位空間が漸近的ユークリッド反ド・ジッター(AdS)空間になることを示した。さらに、遷移がスムーズになるような焼き戻しパラメーターの最適な関数形が、遷移方向への計量を平坦とする要請から簡単に決定できることを議論し、実際にこれが「配位間の距離」を最小化するものになっていることを示した。

本論文ではさらに、この距離の導入が「量子重力理論の定式化に向けた新しい枠組み」となりうることを論じている。実際、量子論の起源がランダムネスにあると考えると、配位空間を実際の時空と同定することで、確率過程における配位空間への幾何の導入を「量子論的に時空が発現する新しいメカニズム」とみなすことができる。論文では、U(N)行列模型を具体例として扱い、行列の固有値を時空の座標とみなして、 1固有値に対する有効的な確率過程を考えた。このときの「配位間の距離」は「古典解に凝縮した他の固有値の中で1固有値が確率的に遷移する難しさ」を測るものとなっていて、これは弦理論的には「古典的な背景幾何をD-インスタントンでプローブすること」に対応している。論文ではさらに、焼き戻し法により’t Hooft結合定数もランダム変数とみなして配位空間を拡大すると、ラージN極限で、Gross-Witten-Wadi a相転移点をホライズンとするユークリッドAdS2の幾何が現れることを示している。

第2の方向の研究で発展させた「焼き戻しレフシェッツ・シンブル法」(TLT法)とは、符号問題を解消するアルゴリズムとして福間-梅田(2017)により提案されたものである。符号問題とは、複素数値の作用を持つ系に対してMCMC法を素朴に適用したときに生じる数値的困難であるが、これに対してTLT法では、積分面をレフシェッツ・シンブル近傍に変形して符号問題を解消する際に、「フロー時間による並列焼き戻し」を行うことで、符号問題とエルゴード性の問題を同時に解決する。本論文ではこのTLT法を次の3つの点で大きく進展させた。

1つ目の進展は、コーシーの定理に基づくTLT法の特性を用いて「正確な推定を行うためのアルゴリズム」を提案したことである。この方法により「系が平衡に達していること」と「サンプルサイズが十分であるか」のセルフチェックとともに、より信頼できる推定を行うことが可能となった。このアルゴリズムが有効であることは、実際に(ハーフフィリングから外れた)ハバード模型の量子モンテカルロ計算に適用し、少数自由度ではあるが、厳密値が正しく再現されることで確認した。

2つ目の進展は、変形後の積分面上の遷移アルゴリズムとして、ハイブリッド・モンテカルロ法(HMC法)を実装することに成功したことである。レフシェッツ・シンブル法におけるHMC法の使用はこれまでも考えられてきたが、ここでの成果は、TLT法における並列焼き戻しと整合するようにHMC法をTLT法に実装したことにある。とくに、フェルミオン行列式の零点により積分面が境界を持つ場合について、分子動力学の遷移の詳細釣り合いが保たれるような処方箋を提案したことが重要な点である。このアルゴリズムが正しく機能することは少数自由度のハバード模型で確認し、メトロポリス法と比較して自己相関時間が大きく削減されることを示した。

3つ目の進展は「世界体積の方法」の提案である。従来の方法では、焼き戻しの遷移のアクセプタンスを確保するために、自由度を増やすにつれて配位空間のコピー (レプリカ)の数を増やす必要があった。これに対して世界体積の方法では、フロー時間も連続的な力学変数の1つとして扱い、分子動力学のプロセスの中で自動的に変化させる。したがってこの方法では、従来存在したレプリカを用意するコストを省きながら、符号問題とエルゴード性の問題を同時に解決できる。さらにこの方法では、配位の生成時にヤコビ行列を計算する必要がなく、演算子の値を評価する際にその行列式の位相を評価するだけでよい。本論文ではこのアルゴリズムを有限密度QCDのトイ・モデルである「カイラルランダム行列模型」(Stephanov模型)に適用し、大自由度での計算が今までより容易にできることを示した。