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大学・研究所にある論文を検索できる 「アクチンによる20Sプロテアソームと26Sプロテアソームの量的制御機構の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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アクチンによる20Sプロテアソームと26Sプロテアソームの量的制御機構の解析

池浦, 隆真 東京大学 DOI:10.15083/0002007102

2023.03.24

概要





















池浦

隆真

本論文は、プロテアソームを制御する新規分子機構とその意義の解明を目的としたものであ
る。出芽酵母を利用した独自の遺伝学的スクリーニング系を用い、真核生物の生存に必須な構造
体であるアクチン細胞骨格の変異がプロテアソームの機能異常を引き起こすことを明らかにし、
酵素活性測定等の生化学解析や、栄養環境がプロテアソーム機能に及ぼすエピスタティック効
果などの遺伝学的な解析を通じて、プロテアソームサブユニットの一つ Rpt3 への N 末端アセチ
ル化を介し、細胞内のグルコース濃度によってプロテアソームが量的に制御されている可能性
を見出すに至った。
プロテアソームは真核生物に高度に保存されたタンパク質分解酵素複合体であり、タンパク
質分解活性を持つ 20S core particle (CP) と、その調節因子である 19S regulatory particle (RP) によ
って構成されている。26S プロテアソームは、CP の両端または片側に RP が会合したものを指
す。RP は base (基底部) と lid (蓋部) に大別され、base は AAA+ (ATP associated with diverse cellular
activities) 型 ATPase である 6 種類のサブユニット Rpt1–Rpt6 と、ATP 活性を持たない Rpn1, Rpn2、
2 種類のユビキチンレセプタータンパク質である Rpn10, Rpn13 からなり、標的タンパク質の CP
内への輸送を担っている。Lid は Rpn3, Rpn5-Rpn9, Rpn11, Rpn12, Rpn15/Sem1 から構成されてお
り、標的タンパク質のポリユビキチン鎖除去などを担っている。一方、細胞内には RP が会合し
ていない CP 単独の複合体も存在し、これを 20S プロテアソームと呼ぶ。26 プロテアソームや
20S プロテアソームの機能は、発現量や分子集合など様々なレベルで調節されているが、その全
容は不明である。そこで本研究では、プロテアソームの機能制御に関わる新規遺伝子の取得を通
じ、新たなプロテアソーム制御メカニズムの解明を目指した。
出芽酵母ミトコンドリアリボソームサブユニット mrpl35 欠損株の増殖遅延は、26S プロテア
ソーム活性を低下させることで回復できる。本研究ではこの事実を利用して、mrpl35 欠損株の
自然復帰変異体から新規プロテアソーム関連遺伝子を取得するスクリーニングを実施し、得ら
れた変異体の解析を通じ、細胞骨格形成タンパク質アクチンの変異が 26S プロテアソームの量
を減少させ、20S プロテアソームの量を増加させることを発見した。
出芽酵母では栄養が豊富に存在する対数増殖期には 26S プロテアソームが優位であるが、栄
養枯渇により増殖が停止した静止期には 26S プロテアソームが減少し、20S プロテアソームが増
加するとの報告があった。そのため、アクチン変異によるプロテアソームの量比異常に、このよ
うな増殖相の相違をもたらす栄養条件が関連するかを解析した。出芽酵母の増殖を制御する栄
養因子には、窒素源 (アミノ酸) と炭素源 (グルコース) の量が挙げられる。そこで、培養液中
の窒素源や炭素源の濃度を高めることで、アクチン変異体における 26S プロテアソームと 20S
プロテアソームとの量比変化が解消されるかどうか、グリセロール密度勾配遠心によって検証
した。その結果、一般的な増殖培地に対して、アミノ酸を過剰に添加してもアクチン変異体にお
けるプロテアソームの量比は変化しなかったが、グルコースを終濃度 12%添加すると、26S プロ
テアソーム活性が野生型と同程度まで回復し、20S プロテアソームの活性も大きく減少すること
が判明した。その一方、アクチン変異体におけるアクチン細胞骨格の異常は、グルコース添加で
は解消されなかった。これらの結果から、アクチン変異体における 26S プロテアソームと 20S プ
ロテアソームとの量比異常の原因は、細胞内のグルコース枯渇であると推測され、プロテアソー
ムの形成は、グルコース濃度に応じて量的に制御されていることが示唆された。

続いてグルコース濃度に応じて 26S プロテアソーム/20S プロテアソーム比の制御を担う具体
的な分子機構を探索した。ここで着目したのは N アセチル化修飾である。N アセチル化は、細
胞内のグルコース量に応じて産生されるアセチル CoA の多寡に比例してその反応が変動するこ
とが報告されており、認識する N 末端アミノ酸のコンセンサス配列の相違によって、出芽酵母
には Nat A, Nat B, Nat C の三種類のサブタイプが存在する。その中でも Nat B はアクチン変異体
との遺伝学的相互作用が報告されている他、グルコース飢餓時に細胞質に形成されるプロテア
ソームの顆粒構造の形成にも必須であることが知られていたことから、最もアクチンの変異に
よるプロテアソームの量比異常に関連が深いと推察された。そこで Nat B の触媒サブユニット
Nat3 の欠損株、アクチン変異体、及び野生型株におけるプロテアソーム活性を native-PAGE 後の
ゲル内活性染色により測定したところ、nat3 欠損株においても、アクチン変異体同様 26S プロ
テアソームの減少と 20S プロテアソームの増加が見られた。このことから、アクチン変異体で
の 26S プロテアソーム/20S プロテアソーム比異常の原因は、アクチンの変異で細胞内のグルコ
ースが枯渇し、Nat B の機能が減弱したことであったと推測された。すなわち Nat B は、細胞内
のグルコース濃度に応じて 26S プロテアソームと 20S プロテアソームの量比制御を担う分子で
あることが示唆された。
Nat B がアセチル基を付加するのは N 末端が Met-Glu-で始まるタンパク質であるが、プロテア
ソームサブユニットの中でこのコンセンサス配列を持つものに、RP の base に属する ATPase サ
ブユニット Rpt3 があった。そこで、Nat B による Rpt3 へのアセチル化が 26S プロテアソームと
20S プロテアソームの量比制御に重要なのかを検証した。Nat B のコンセンサス配列である MetGlu-のグルタミン酸残基をプロリンに置換することによって Nat B によるアセチル化が阻害され
ることが知られていたため、点変異導入法によって Rpt3 の 2 番目のアミノ酸をプロリンに置換
した変異体 (rpt3 E2P) を作製してプロテアソーム活性を測定した結果、rpt3 M2P 株において、
nat 3 欠損株同様、26S プロテアソームの減少と 20S プロテアソームの増加が見られた。
より詳細にこの表現型を理解するため、Rpt3 と結合する RP の形成シャペロン Rpn14 に対して
免疫沈降を実施した結果、nat3 欠損株や rpt3 E2P 変異体などの Nat B 関連変異体では、lid のサ
ブユニット Rpn11 や、RP 形成の最後に組み込まれるサブユニット Rpn10 と、Rpn14 を含む base
複合体との結合が、野生型に比して減弱していることが判明した。RP 形成の終盤においては、
base と lid、及び Rpn10 が会合することが知られるが、Nat B 変異体においては、この過程が働
かず、26S プロテアソームの減少と 20S プロテアソームの増加が生じていたことが示唆される。
すなわち Nat B 変異体では Rpt3 への N アセチル化が不全に陥り、RP の形成が阻害された結果、
相対的に 26S プロテアソームが減少し、20S プロテアソームが増加したものと考えられる。つま
り Nat B は Rpt3 の N 末端アセチル化を通じ、RP の形成終盤に寄与することが示唆された。
以上の研究から、池浦隆真は以下の成果を示した。まず細胞骨格形成タンパク質アクチンの変
異で 26S プロテアソームが減少し、20S プロテアソームが増加することを見出した。そしてアク
チン変異体でのプロテアソーム量比の異常を抑圧する条件の探索を通じ、プロテアソームの量
比がグルコース濃度に応じて制御されていることを明らかにした。さらに、グルコース下流で
26S プロテアソーム/20S プロテアソーム比を制御する機構を探索した結果、その主要因として N
アセチル化酵素である Nat B が寄与することを示した。Nat B は、プロテアソームの base サブユ
ニット Rpt3 の N アセチル化を通じ、base, lid, Rpn10 の三者を安定的に会合させる機能を持つと
思われる。本研究は、Rpt3 の N アセチル化を介し、グルコース環境に応じてプロテアソームの
形成が量的に制御されていることを示唆しており、新規のプロテアソーム制御機構を示すもの
である。プロテアソームは多数の翻訳後修飾を受けることが報告されている一方、その意味まで
判明しているものは極めて少なく、本論文の主旨はプロテアソームへの翻訳後修飾の役割を新
たに明確にした点でも意義深い。
よって本論文は博士(薬科学)の学位請求論文として合格と認められる。

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