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大学・研究所にある論文を検索できる 「Analysis of the molecular mechanisms that activate cell proliferation in Xenopus tropicalis tadpole tail regeneration」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Analysis of the molecular mechanisms that activate cell proliferation in Xenopus tropicalis tadpole tail regeneration

中村 誠 広島大学

2022.03.23

概要

ヒトを含む哺乳類は、傷害を受けてもほとんどの器官を再生することができない。しかし、両生類や魚類などの生物は、体の一部が失われても、元通りに修復する高い再生能力を有しており、この再生メカニズムを解明することは、将来的な再生医療の実現に向けた大きな足がかりになる。私が研究対象とするネッタイツメガエル幼生の尾は脊髄・脊索・筋肉などの多種多様な組織で構成されており、切断されても短期間で再生することができる。幼生尾を切断すると、活性酸素の放出や炎症反応などが起こるとともに、表皮細胞が切断面を覆うことで傷が塞がる。創傷治癒後、切断面付近には尾の再生に重要な未分化な細胞群である再生芽が形成される。そして、細胞分裂が活性化し、様々な組織が分化することで、ツメガエル幼生尾は再生する。今までに、ツメガエル幼生を細胞分裂阻害剤で処理すると尾の再生が著しく阻害されることが知られている。さらに、マウスの心臓では傷害を受けても細胞分裂が十分に起こらないことや、細胞分裂制御因子を強制発現させることでマウス心臓再生が促進された報告がある。従って、再生過程における細胞分裂の活性化は再生にとって非常に重要であると考えられる。しかしながら、傷害後に細胞分裂を活性化する分子機構は未だ完全に理解されていない。

 以前に、所属研究室はツメガエル発生過程においてJunB転写因子が尾の形成・伸長に関与することを明らかにしている。ツメガエル幼生尾の再生は一度失った尾を再び形成する現象であることから、再生時にもJunBは尾の再生・伸長を促進すると考えた。初めに、ツメガエル幼生尾の再生過程におけるJunBの発現様式を明らかにするために、whole-mount in situ hybridization(WISH)法を用いた発現解析を行った。その結果、切断後1時間以内にjunbの発現が強く誘導され、その後、再生過程全体を通して再生組織に広く発現が維持されることが分かった。次に、再生時におけるJunBの機能を調べるために、CRISPR-Cas9法を用いたjunb遺伝子の機能阻害(knock-out, KO)実験を行った。junb遺伝子座に設計した3つのsgRNAをそれぞれ受精卵に顕微注入し、F0junbKO胚において再生への影響を解析したところ、コントロールのtyrosinase KO胚に比べて著しく再生が遅延していた。遺伝子破壊効率を上昇させるために、junbに対するsgRNAを2つ同時に顕微注入したところ、単独のsgRNAに比べて、より顕著に再生が阻害された。また、Genotypingの結果、2つのsgRNAを顕微注入したF0 junb KO個体において、非常に高い効率でjunb遺伝子座に変異が導入されていた。さらに、F0 junb KO個体における再生遅延はjunb mRNAの注入によって回復したことから、junb遺伝子の不活性化により再生が阻害されることが分かった。一方で、F0junbKO個体では、細胞ごとに異なる変異が導入されているため、全ての細胞においてJunBの機能が阻害されていない可能性がある。従って、JunBの必要性をより明確に示すためには、全細胞がJunBの機能欠失変異を持つNull個体を用いた解析が必要である。しかしながら、ネッタイツメガエルは世代交代に約8ヶ月を要するため、F2null個体作製には非常に時間がかかる。そこで、F0 junb KO個体を掛け合わせ、両アレルに変異を持つcompound heterozygous F1 junb mutantを作製することで、従来のF2世代を得るよりも半分の期間でNull個体を用いた解析を可能にした。その結果、F0世代のjunb KO胚と同様に、F1 junb mutantにおいても再生が著しく阻害されており、JunBが再生に必要であることが強く示唆された。次に、再生に重要な細胞分裂と組織分化におけるJunBの機能を解析したところ、junb KO胚において、尾ヒレを除いた再生組織領域において分裂中の細胞数が著しく減少するとともに、脊髄・脊索・筋肉のマーカー遺伝子の発現領域が縮小することが分かった。従って、JunBは再生時の細胞分裂および組織分化を活性化することで再生を促進する非常に重要な因子であると考えられる。最後に、切断に応答してjunb遺伝子が発現誘導される分子機構の解明を目指した。過去に、TGF-βシグナルはツメガエル幼生尾の再生に必須であることが知られており、その下流因子であるSmad2/3転写因子は幼生尾の切断後1時間以内に活性化することがわかっている。そこで、TGF-βシグナルがjunbの発現を制御すると推測し、TGF-β受容体の阻害剤で処理した再生胚でjunbの発現を解析したところ、切断後1、2、6時間においてjunbの発現が著しく低下することが明らかになった。これらの解析から、TGF-βシグナルにより誘導されたJunB転写因子が細胞分裂と組織分化の活性化を介して再生を促進することが分かった。

 次に、TGF-βシグナルが切断後に活性化される機構を解析した。ツメガエルに加えて、ゼブラフィッシュやアホロートルなど多くの再生可能な生物において、TGF-βシグナルが組織再生時の細胞分裂活性化に必要であることが報告されている。しかし、これらの論文では、TGF-β受容体を阻害する薬剤を用いているため、そのリガンドの必要性は示されていない。そこで、尾の切断直後から働くTGF-βリガンドを絞り込むために、既存のRNA-seqデータを用いて切断前および直後に発現するTGF-βリガンドを調べたところ、tgfb1が最も高い発現を示すことが分かった。tgfb1の発現様式をWISH法により解析した結果、tgfb1は切断前から幼生尾に発現し、切断後も再生組織に発現が維持されていたことから、TGF-β1が切断に応答して再生を促進するTGF-βリガンドであると考えた。Junb KO実験と同様に複数のsgRNAを用いてtgfb1のKO実験を行うと、非常に高い効率でtgfb1遺伝子座に変異が導入されていたとともに、tgfb1 KO胚において再生が著しく遅延していた。また、tgfb1 KO胚の再生している幼生尾では、細胞分裂および組織分化が著しく阻害されていることが分かった。さらに、切断後にTGF-βシグナルを活性化するリガンドがTGF-β1であることを証明するために、TGF-βシグナル下流因子であるリン酸化Smad2/3の発現を解析した。その結果、切断後6時間において、tgfb1 KOによりリン酸化Smad2/3の発現が低下していた。従って、TGF-β1は切断前から発現し、切断に応答してTGF-βシグナルを活性化させることで再生を促進することが明らかになった。

 以上の解析から、ネッタイツメガエル幼生尾の再生過程において、切断後にTGF-β1がSmad2/3を活性化し、そのTGF-βシグナルによってjunbの発現が誘導される。そして、JunBは細胞分裂および組織分化を制御することで尾の再生を促進することが解明された。総じて、TGF-β1は切断に応答して再生を開始させ、TGF-βシグナルにより活性化されたJunBは傷害後に細胞分裂の活性化へと導く仲介因子として働くことが考えられる。