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大学・研究所にある論文を検索できる 「周期性嘔吐症候群患者が抱える不安とQuality of Lifeの関係およびその関連要因に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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周期性嘔吐症候群患者が抱える不安とQuality of Lifeの関係およびその関連要因に関する研究

江本, 駿 東京大学 DOI:10.15083/0002002494

2021.10.15

概要

背景
 周期性嘔吐症候群は、反復性の自然軽快する嘔吐エピソード・定期的な発作の発症・発作のない時期の正常状態の3つを特徴とする希少・難治性の機能性消化器疾患である。患者は嘔吐症状などが起こる発作期と、正常な間欠期の2つの期間を長期に渡って繰り返し経験するが、原因は特定されておらず、治療も対処療法が中心となる。間欠期では次の発作を誘発するトリガーの存在が指摘されており、心理的なストレスは発作のトリガーとして最も大きなものである。中でも、発作に対する不安はそれ自体がストレスとなって次の発作を誘引する可能性が示唆されている。また、先行研究では児童期・思春期の周期性嘔吐症候群の患者は、同年代の健康な児や他の機能性消化器疾患の児と比べてHRQOL(Health Related Quality of Life)の低いことが指摘されているほか、不安の強さがHRQOLの低下に大きく寄与している可能性が示唆されている。不安は次の発作のトリガーになると考えられることから不安軽減に向けたケアも重要である一方、根治療法のない中では次の発作が起こる可能性が高いことから不安の解消も困難であると考えられるため、不安があってもHRQOLに与える影響を緩衝するような方策が必要である。本研究では、不安の内容と不安が増悪する時期を同定し、不安とHRQOLに関連する要因を探索することで、適切な時期に効果的な支援ができるよう示唆を得ることを目指す。

目的と意義
 本論文の目的は、①周期性嘔吐症候群患者が1エピソード中に感じる発作に関する不安の内容・程度・時期による変遷を記述すること、②児童期・思春期の周期性嘔吐症候群患者のHRQOLの実態を明らかにすること、および③不安とHRQOLに関連する要因を同定し、その要因がどのように影響するか明らかにすることの3点とした。①に対して研究1、②③に対して研究2を実施し、①から③を明らかにすることによって周期性嘔吐症患者のHRQOLを維持・向上させるための具体的な示唆を得ることができるほか、間欠期において最も不安が増強している時期に合わせた適切な支援について示唆を得ることができると考えた。

研究1
 研究1は、周期性嘔吐症候群患者の周期内での経験を記述することで、患者が抱く不安の内容・程度・時期による変遷、および不安とHRQOLに関連しうる要因を推定することを目的に実施した。8歳以上の周期性嘔吐症候群・類縁疾患と診断されている患者または寛解している患者とその保護者を対象として、周期性嘔吐症候群の患者会および機縁法にて参加者を募り、半構造化面接によるインタビュー調査を実施した。発症時からの症状や治療の経験、典型的な発作の1エピソード中の不安の内容、時期による程度の変化、不安軽減の方法を尋ねた。インタビューは録音し、逐語録を作成したあと、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。
 13名の参加者(男性5名、女性8名)にインタビューを実施した。インタビューの結果、患者は発作自体に恐怖感情を持っており、中でも特に嘔吐症状、腹痛・偏頭痛による痛みの症状、嗜眠症状に恐怖を感じていた。この、恐怖対象である発作発生の予期と、発作による日常生活への影響を案じて不安が惹起していた。発作の時期・内容について、過去の経験からある程度の予測枠組みを形成し、発作開始の確率を計算することで対処しようとする中で、不安は「患者が過去の経験からそろそろ次の発作が来ると予想している時期」として定義した発作予想期に高まっていた。また、医療者に言われていたり、自身で認識している発作のトリガーを回避する、発作予想期内での予定を調整するといった対処行動により不安を軽減していたことから、高いコーピング能力が不安のHRQOLへの影響を緩衝すると考えられた。また、小児の患者の場合は家族がトリガーの回避や療養環境の整備、突発的な発作時の対応などのサポートを行っていることが語られたため、良好な家族機能が不安のHRQOLへの影響を緩衝すると考えられた。さらに、患者が神経症傾向にある場合には、発作のトリガーや予兆症状に過敏に反応し、日常生活において行動制限をする様子が語られており、患者の神経症傾向が強い場合にはが不安のHRQOLへの影響が増大する可能性が示唆された。

研究2
 研究2では、児童・思春期の周期性嘔吐症候群患者のHRQOLの実態を明らかにすること、および先行研究と研究1の結果を受けて患者のコーピング能力、家族機能、および患者の神経症傾向の、発作予想期内における不安およびHRQOLへの影響を明らかすることを目的に質問紙調査を実施した。対象者は8歳から18歳までの周期性嘔吐症候群・類縁疾患の患者と保護者とし、日本およびアメリカの患者会または機縁法で郵送法またはWEB調査法により回答を求めた。患者が認識している発作予想期の時点で、患者にHRQOL(PedsQL Generic Core Scales)、不安(STAI-C)、コーピング能力(A-COPE)、家族機能(Family APGAR)、神経症傾向(NEO-FFI Neuroticism)、発作時の痛み(NRS)を尋ね、保護者に子どものHRQOL(PedsQL Generic Core Scales)の代理評価、および患者と保護者の基本属性を尋ねた。分析では各項目の記述統計量を算出したのち、日米のHRQOLの開発尺度得点との比較と親子間の得点の比較を行った。HRQOLとの関連を明らかにするために、患者が評価したPedsQL合計点数を従属変数とし、不安とコーピング能力・家族機能・神経質傾向それぞれの交互作用項を含めた階層的重回帰分析を実施した。
 結果、日米合わせて54組が質問紙に回答した。平均年齢は全体で12.8歳、発症時平均4.7歳、診断時平均6.6歳であった。年あたり平均10.6回の発作があり、1回の発作は平均2.5日であった。PedsQL合計得点は平均72.4点、STAI-C状況不安得点は平均42.2点であった。PedsQL得点の開発論文データとの比較の結果、患者本人評価では合計得点・下位尺度得点すべてで本調査が有意に下回っており、特に学校でのQOL得点では大きな差の効果量が見られた。親子間の比較では、社会的QOL得点で有意に保護者が子どもの得点を低く評価した。階層的重回帰分析の結果、不安の強さはHRQOLの低下に有意に寄与し、コーピング能力の高さはHRQOLの増加に有意に寄与した。また、不安と家族機能の交互作用は有意にHRQOLの増加に関連し、不安と神経質傾向の交互作用は有意にHRQOLの低下に関連した。一方、不安とコーピングの交互作用に有意な関連はなかった。

考察
 HRQOL得点は一般集団より総じて低かったが、特に学校でのQOL得点は大きく下回った。ゆらぎのある発作周期に合わせて学校を休んで療養しなければならない周期性嘔吐症候群の患者では、患者の学校生活の質に大きな影響を与えている可能性がある。状況不安得点は、調査時期を限定しなかった先行研究よりも得点が高く、発作予想期内に患者の不安が特に高いことが本調査により示された。
 HRQOLに関連する要因として、不安とコーピング能力が示された。周期性嘔吐症候群の患者では、発作予想期においては日毎に次の発作の予測が短期的になり、日常生活への心配も具体的になると考えられ、不安の強さがHRQOLの低下に影響したと考えられる。周期性嘔吐症候群の患者では、長年の発作への試行錯誤により医療者の助言や文献による対処法略を超えた、自身のトリガーや症状・状況に合ったコーピングが実践できている可能性があると考えられたほか、保護者を通じて療養生活上の情報を取り入れ戦略的なコーピングができていた可能性があり、高いコーピング能力はHRQOLの上昇に寄与したと考えられる。また、良好な家族機能は不安がHRQOLに与える影響を緩衝した。家族機能が高い場合には保護者が適切な情報を得て、間欠期の体調管理や発作期の子どものニーズに沿って、症状に適切に対処できていた可能性がある。一方で、家族機能が低い場合には発作の回数や不安に影響し、患者のHRQOLも低下する可能性が示唆された。最後に、患者の神経症傾向の強さが、不安のHRQOLに与える影響を増大させた。神経症傾向の強さは、身体の違和感や痛みの過大評価、不安への敏感さ、外部からのストレスに対処の困難につながると言われている。周期性嘔吐症候群の患者では、発作予想期内において神経症傾向の患者は常に症状の到来に選択的に集中し、反芻的に繰り返すことにより次の発作の到来をより不安に捉えたり、身体の不調に敏感になって不安が増悪した結果、HRQOLが低下したものと考えられる。
 臨床への示唆として、発作の軽減に加え、いつ起こるかわからない発作に備えた環境整備が重要である。また、発作予想期の存在と発作予想期に不安が高まることを医療者や学校の教諭および家族に伝える必要がある。その上で、医療者は患者・家族に予測枠組みを尋ね、不安の時期をアセスメントすることで、より効果的な治療や不安を軽減するケアが提供できる可能性がある。また、学校への疾患の説明や対応の協議・連携を促すことが重要であると考えられる。トリガーを認知し、そのトリガーへの対処や日常のストレスへの適切な対処を身につけることはHRQOLを向上させる上で有効と考えられるほか、家族が子どもの不安やニーズに寄り添えるよう促すことや家族への適切な情報提供もHRQOL上昇に寄与すると考えられる。神経症傾向は不安のHRQOLに与える影響を増悪させることから、患者のパーソナリティを把握し、適切な助言やケアを提供するべきである。
 日米の文化差の考慮が十分でないことや患者会からの対象者リクルートが大半であったこと、調査期間が短かったこと、横断調査であることなど限界はあるものの、患者数が少なく研究体制の確立が追いついていない希少・難治性疾患である周期性嘔吐症候群において、患者・家族の実態や社会心理学的なデータを収集したことは意義のあることだと考える。今後は研究体制の確立と同時に因果関係をより明確にできる研究デザインを組むことが必要と考えられる。

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