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大学・研究所にある論文を検索できる 「ゼブラフィッシュを用いた生体膜リン脂質脂肪酸リモデリング酵素の機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ゼブラフィッシュを用いた生体膜リン脂質脂肪酸リモデリング酵素の機能解析

柴田 剛明 東北大学

2022.03.25

概要

【背景・⽬的】
細胞膜の主成分であるグリセロリン脂質(以下、リン脂質)は、グリセロール⾻格の sn-1 位と sn-2 位に脂肪酸(アシル基)が、sn-3 位にリン酸基と極性基から成る極性頭 部が結合した構造を持つ。極性基と脂肪酸の組み合わせにより、⽣体内には 1,000 種類 以上のリン脂質分⼦種が存在し、その⼀部は特定の細胞やオルガネラに偏在し固有の機 能を持つことが明らかになっている。このような多様なリン脂質分⼦種の機能を解明す るためには、それぞれのリン脂質分⼦種の産⽣に関わる酵素群を明らかにする必要があ る。それら酵素群の中で私は、リゾリン脂質アシル基転移酵素(Lysophospholipid acyltransferase; LPLAT)に着⽬した。LPLAT はリゾリン脂質に脂肪酸を導⼊してリン 脂質を合成する活性を有するリン脂質産⽣の最終段階の酵素であり、ヒトゲノムには 14 種類の LPLAT 遺伝⼦(LPLAT1-14)が存在することがわかっている。
これまでに遺伝⼦ノックアウト(KO ) マウスを中⼼とした解析から、 LPLAT12/LPCAT3 が C20:4(アラキドン酸)含有リン脂質の産⽣を通じて⼩腸におけ る正常な中性脂質輸送に、LPLAT3/AGPAT3 が C22:6(DHA)含有リン脂質の産⽣を 通じて正常な網膜の層構造の形成や精⼦形成に寄与することが明らかにされた。しかし、 14 種類の LPLAT の多くは、基質特異性などの⽣化学的機能や個体レベルでの機能が 未解明である。⼀般に、マウスを⽤いた⽣理機能解析は遺伝⼦多重⽋損体作出が容易で はない、発⽣期の解析の難易度が⾼いなどの⽋点がある。よって、哺乳類と類似の脂質 組成や LPLAT 保存性を有するモデル⽣物を導⼊することで LPLAT 研究が加速できる と考えられる。
本研究ではまず、マウスに次ぐ新たなモデル⽣物を検討した。哺乳類とのリン脂質分 ⼦種組成の類似性、LPLAT の保存性を指標に幅広いモデル⽣物を探索した結果、ゼブ ラフィッシュが LPLAT とリン脂質分⼦種を解明するためのモデル⽣物として有⽤であ ることを⾒出した。本研究ではさらに、当研究室において培養細胞やマウス個体レベル でリン脂質の sn-1 位に C18:0(ステアリン酸)を導⼊する LPLAT として⾒出された LPLAT7/LPGAT1 に着⽬し、CRISPR/Cas9 法を⽤いて lpgat1 KO ゼブラフィッシュ を作製しその⽣理機能解析を実施した。

【⽅法・結果】
(1) LPLAT の機能解析に適した新たなモデル⽣物の探索マウスに次ぐ新たなモデル⽣物を考察するにあたり、代表的なモデル⽣物(マウス、 ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、線⾍、酵⺟、⼤腸菌)について、LC-MS/MSを⽤いたリン脂質分⼦種組成解析と、LPLAT分⼦の保存性の解析を⾏なった。ショウジョウバエ、線⾍、酵⺟、⼤腸菌のリン脂質分⼦種組成は哺乳類と⼤きく異なっていた。⼀⽅で、ゼブラフィッシュのリン脂質分⼦種組成は哺乳類と⾼い相関性を⽰した。また、ゼブラフィッシュではC22:6(DHA)含有リン脂質が哺乳類より特に豊富であることもわかった。
NCBIデータベースに登録されているヒトLPLATのホモログを抽出、ヒトLPLATの相同配列をBLASTで検索、⽂献調査から、各モデル⽣物に保存されている LPLAT 分⼦をリストアップした。すると、ゼブラフィッ シュでは 14 種類中 13 種類の LPLAT が保存されているのに対してショウジョウバエ 以下では多くの LPLAT は保存されていなかった(Fig. 1)。また、主要な LPLAT 分⼦ (LPLAT3/AGPAT3、LPLAT8/LPCAT1、LPLAT12/LPCAT3)についてヒトとゼブラ フィッシュオルソログ間での酵素活性を⽐較するとほぼ同等の in vitro 酵素活性パター ン( 基 質 選 択 性 )を⽰した。興味深いことに、ヒト LPLAT12 が強い C20:4 導⼊活性を 有したのに対し、ゼブラフィッシュ LPLAT12 はそれに加えて C22:6 を導⼊する活性も 有していた。以上の結果から、ゼブラフィッシュは LPLAT が哺乳類との間で⾼度に保 存されていると共に、リン脂質組成も他のモデル⽣物に⽐べ哺乳類と相同であるため、 LPLAT 研究のモデル⽣物として有⽤であると結論づけた。
(2) ゼブラフィッシュを⽤いた LPLAT7/LPGAT1の機能解析
次にゼブラフィッシュを⽤いた LPLAT の機能解析を⾏った。CRISPR/Cas9 法でさ まざまなゼブラフィッシュ LPLAT ⽋損個体を作製している過程で、lpgat1 ヘテロ⽋損 個体の雄の⽣殖異常、ホ モ ⽋損個体がほとんど得られない、という⼆つの表現型を⾒出したまま致死となってお り、未受精卵であるこ とが疑われた(Fig. 3)。 そこでヘテロ⽋損個体 の精⼦を調べると、野 ⽣型に⽐べて運動精⼦ 数が少なく、⾛査型電 ⼦顕微鏡解析の結果、4 割の精⼦の形態に異常 があることがわかった (Fig. 4)。また、lpgat1 ホモ⽋損 個体を作出するため、 ヘテロ⽋損個体同⼠の交配を⾏なった。すると、ホモ⽋損個体の出現割合はメンデル則から予想される割合よ り少なく、また、時間経過と共に段階的に致死となり、成⿂まで⽣存することが出来な かった。交配後 2 週間後に存在するホモ⽋損個体はわずか、5%以下と極めて少なく、 ホモ⽋損個体の致死性の詳細を解析することは困難であった。そこで、らリン脂質を回収して分析すると、PC、PE、PS、次にゼブラフィッシュを⽤いた LPLAT の機能解析を⾏った。CRISPR/Cas9 法でさ まざまなゼブラフィッシュ LPLAT ⽋損個体を作製している過程で、lpgat1 ヘテロ⽋損 個体の雄の⽣殖異常、ホ モ ⽋損個体がほとんど得られない、という⼆つの表現型を⾒出したまま致死となってお り、未受精卵であるこ とが疑われた(Fig. 3)。 そこでヘテロ⽋損個体 の精⼦を調べると、野 ⽣型に⽐べて運動精⼦ 数が少なく、⾛査型電 ⼦顕微鏡解析の結果、4 割の精⼦の形態に異常 があることがわかった (Fig. 4)。また、lpgat1 ホモ⽋損 個体を作出するため、 ヘテロ⽋損個体同⼠の交配を⾏なった。すると、ホモ⽋損個体の出現割合はメンデル則から予想される割合よ り少なく、また、時間経過と共に段階的に致死となり、成⿂まで⽣存することが出来な かった。交配後 2 週間後に存在するホモ⽋損個体はわずか、5%以下と極めて少なく、 ホモ⽋損個体の致死性の詳細を解析することは困難であった。そこで、らリン脂質を回収して分析すると、PC、PE、PS、えられるリン脂質分⼦種(C36:1、C38:4、C40:6C40:5)が 顕著に減少していた(Fig. 6)。また、ヘテロ⽋損個体から回収した精⼦についてリン脂質組 成解析を⾏うと、C18:0 含有 PE 分⼦種(C38:4、C40:6、C40:5)が減少していた(Fig. 7)。

【考察・今後の展望】
本研究ではまず、⽣体内に存在する多様なリン脂質分⼦種、多種類の LPLAT 分⼦の機能を解明する上でゼブラフィッシュは有⽤なモデル⽣物であることを⽰した。また、実際、LPLAT 分⼦の⼀つであるLplat7/Lpgat1 が胚発⽣過程や精⼦の形成に極めて重要な役割を持つことを明らかにした。また、 Lpgat1 ⽋損個体では C18:0 含有リン脂質が顕著に減少していることから、本酵素が C18:0 含有リン脂質産⽣に関与することが強く⽰唆された。興味深いことに、ヒトの不妊男性の精液中では、lpgat1 ヘテロ⽋損ゼブラフィッシュの精⼦と同様に、C18:0 含有 PE が顕著に減少することが報告されており、lpgat1 ヘテロ⽋損ゼブラフィッシュはヒト不妊症のモデルとなるかもしれない。
lpgat1 ホモ⽋損個体は成体まで成⻑せず、また、lpgat1 発現抑制胚も顕著な発⽣異常を⽰したことから、Lpgat1 とその産物が発⽣とその後の成⻑に必須な役割を持つことが明らかとなった。lpgat1 の発現抑制により発⽣段階に異常が⽣じるメカニズムは現時点では不明であるが、当研究室の解析により LPGAT1 KO 培養細胞は増殖遅延を⽰すことが⾒出されており、Lpgat1 とその産物が通常の細胞増殖に影響を与えている可能性がある。
⼀般に⿂類では DHA などのオメガ3脂肪酸含有リン脂質が豊富である。哺乳類のオルソログとは異なり、ゼブラフィッシュ Lplat12/Lpcat3 は強い DHA 導⼊活性を有しており、このことがゼブラフィッシュでの DHA 含有分⼦種が多いことの⼀因であるかもしれない。今後、ゼブラフィッシュをモデル⽣物とした LPLAT 分⼦、リン脂質分⼦種の意義解明が加速することが期待される。

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