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大学・研究所にある論文を検索できる 「痒みに関与する新規酸化リン脂質受容体の同定と機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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痒みに関与する新規酸化リン脂質受容体の同定と機能解析

岸 貴之 東北大学

2020.03.25

概要

痒みは主に皮膚表層に生じる、掻きたくなるような衝動を起こさせる不快な感覚と定義される(1)。生体は、痒みを知覚することで、寄生⾍や刺激物の侵⼊に対する除去行動を取ることができる。⼀方で、制御できない痒みは耐え難い苦痛を伴う。実際に、痒みは様々な皮膚疾患(アトピー性皮膚炎、乾癬、接触性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性疾患など)の主要な症状であり、患者の生活の質に重⼤な影響を与えている(2)。さらに、痒みによる掻き行動は皮膚刺激による皮膚炎症の悪化に伴い、内因性の起掻因子の増加を介したさらなる痒みの増強という悪循環が起こる(1, 3)。従って、慢性掻痒性皮膚疾患の治療には炎症抑制に加えて、痒みを阻害するアプローチが有効である。

後根神経節(DRG: dorsal root ganglion)に細胞体を有する求心性感覚神経(以 下、DRG 神経)の活性化は、痒みの誘導に必須である(4)。皮膚を感覚⽀配する DRG 神経は脊髄後⾓に投射し、皮膚において生じた痒み刺激を中枢に伝達する。痒み刺激は、DRG 神経上の特異的な受容体を活性化することで、DRG 神経の 発⽕を誘導する。最も代表的な起掻因子としてヒスタミンが挙げられる(1, 5)。ヒスタミンは特定の DRG 神経に発現する、特異的な G タンパク質共役型受容体(GPCR)を介して痒みを誘導する(Fig. 1)。抗ヒスタミン薬(ヒスタミン受容体拮抗薬)はヒトにおいて、ヒスタミン依存的な痒みを抑制することが知られており、痒みに対する第⼀選択薬として用いられている。しかし、ほとんどの慢性掻痒性皮膚疾患は、抗ヒスタミン薬では奏功しない(6)。また、ヒスタミン非依存的な痒み機構の全容は不明である。従って、新たなヒスタミン非依存的な痒み機構を解明すること、さらに、その機構が関与する慢性掻痒性皮膚疾患を同定することは、新規痒み発症機序の解明、治療薬の開発に重要である。

ヒスタミンはマスト細胞と呼ばれる免疫細胞が脱顆粒することにより産生される。マスト細胞はヒスタミン以外にも、セロトニン、トリプターゼなどの起掻因子を放出する、痒みの主要な原因細胞である(7)。すなわち、マスト細胞の脱顆粒を抑制することは、抗ヒスタミン薬よりも幅広く痒みを抑制することができる。そこで、私はまず、マスト細胞の新たな脱顆粒機構を明らかにすることを目指し、新規痒み治療薬の開発を試みた。

当研究室では、Lysophosphatidylserine (LysoPS)という、極性頭部にセリン残基を有するリゾリン脂質に着目している。LysoPS は神経細胞の突起伸長などの多様な薬理作用に加え、マスト細胞の脱顆粒を促進することが示されている(Fig. 2)(8, 9)。マスト細胞の脱顆粒促進作用は他のリゾリン脂質や、LysoPSの極性頭部のセリン残基を天然型の L-セリンから D-セリンに置換した非天然型の LysoPS では認められないことから、マスト細胞上には LysoPS の構造を厳密に認識する LysoPS 特異的受容体(LPSX)の存在が想定される(10)。これまでに、LysoPS 受容体として、LPS1/GPR34、LPS2/P2Y10、LPS2L/A630033H20Rik(ヒトの LPS2L 相当遺伝子は偽遺伝子)、LPS3/GPR174 が同定されている(11, 12)。当研究室では、東京⼤学薬学系研究科⼤和⽥智彦教授との共同研究により、 LysoPS の構造類似体(LysoPS アナログ)約 300 種類を保有しており、その中からLPS1、LPS2/2L、LPS3 各受容体特異的アゴニストを見出している(10, 13, 14)。私はこれらのマスト細胞脱顆粒作用を検証したが、LPS1、LPS2/2L、LPS3 各受容体特異的アゴニストはマスト細胞脱顆粒を誘導しなかった。従って、マスト細胞上には、既知の LysoPS 受容体以外の LysoPS 受容体(LPSX)の存在が強く示唆された(Fig. 3)。そこで、私は LPSX の同定を目的とし、LPSX 同定に向けたツールを作製した。当研究室の巻出久美子元助教らは、LysoPS アナログの中で、極性頭部にスレオニン残基を有する Lysophosphatidylthreonine (LysoPT)が in vitro、in vivo において LysoPS の約 10 倍強力にマスト細胞脱顆粒を誘導することを見出していた(10)。私は、LysoPT を上回る LPSX 活性を有するアゴニストの創製を目指し、上記 300 種類の LysoPS アナログのマスト細胞脱顆粒を評価し、構造活性相関を検討した。その結果予測された活性モジュールを有機合成により導⼊することで、LysoPS よりも約 100 倍強力なマスト細胞脱顆粒活性を有する LPSX 特異的アゴニスト(2-deoxy-1-C3-ph-p-O-C11-LysoPT)を創製した(Fig. 4)(15)。さらに、LysoPS を皮下投与したマウスでは顕著な痒み行動が認められ、2-deoxy-1-C3-ph-p-O-C11-LysoPT を投与したマウスではより強力な痒み行動が認められた(Fig. 5)。従って、LPSX アゴニストは新規マスト細胞脱顆粒機構、およびそれに伴う痒みの解析ツールとなりうると示唆された。

⼀方で、マスト細胞を介さない痒み機構も知られている。マスト細胞以外の起掻因子の産生細胞として、表皮細胞(ケラチノサイト)が報告されている。表皮細胞からは、神経成長因子(NGF)やエンドセリン-1(ET-1)が産生され、DRG神経上の受容体に作用することで痒みが惹起される(4)。ところで、リノール酸(炭素数 18、二重結合数 2、18:2)は表皮において最も豊富に存在する多価不飽和脂肪酸(PUFA: poly unsaturated fatty acid)である(16)。リノール酸はアラキドン酸(20:4)やドコサヘキサエン酸(22:6)などの他の PUFA と同様に、ラジカル反応や酵素反応により、多様な酸化リノール酸分子種に代謝される(Fig. 6)(17)。興味深いことに、複数の酸化リノール酸分子種はヒト、および齧⻭類において、皮膚炎病態部で増加すること、マウスにおいて痒みを誘導することが報告されている(18)。しかし、酸化リノール酸による痒みの誘導メカニズムは明らかにされていない。生体において、リノール酸はアシルセラミドやリン脂質に取り込まれた形で存在する。実際に、表皮において、リノール酸はセラミドに導⼊され、アシルセラミドとして皮膚バリア機構にはたらく(19)。また、酸化リノール酸もリノール酸と同様に、表皮のリン脂質に取り込まれることが知られている (20)。しかし、酸化リノール酸含有リン脂質の痒みにおける機能は分かっていない。

私は本研究において、酸化リノール酸により誘導される痒み作用の⼀部が酸化リノール酸含有リン脂質を介していると仮定し、研究に着手した(Fig. 7)。ところが、予想に反し、特定の酸化リノール酸含有リン脂質は酸化リノール酸とは異なる作用機構で、酸化リノール酸よりも強力な痒みを誘導した。また、本研究では、同標的分子の生化学的な性質の検討、並びに慢性掻痒性皮膚疾患における機能解析を行い、新規ヒスタミン非依存的な痒み機構の解明に迫った。

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