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生育モデルとリモートセンシングを統合したダイズの倒伏予測技術の開発

今野, 智寛 東北大学

2023.09.25

概要

論文内容要旨

生育モデルとリモートセンシングを
統合したダイズの倒伏予測技術の開発

東北大学大学院農学研究科
資源生物科学専攻
今野智寛

指導教員

本間

香貴

教授

第1章

序論

日本の過去 10 年(2012 年~2021 年)のダイズ平均単収は 163g m-2 であり,世界平均の
269g m-2 と比較して低い現状にある(農林水産省 2023,FAO 2023)
.水田転換畑での作付
けが 80%を超える日本においては湿害が主な低収要因として挙げられる(杉本ら 1988,
今野ら 2021)
.一方で,湿害対策だけでは克服できない低収要因も存在する.その一つが
倒伏による減収であり,既往研究では倒伏による減収程度は 9~34%と報告されている
(Cooper 1971,Woods and Swearingin 1977,齋藤ら 2012)
.倒伏の対策としては,耐倒伏
性品種の育成(菊池ら 2011,加藤ら 2014)がある.しかし,ダイズの食文化が根付く日
本では在来品種の需要も多く,品種改良に依らない対策も求められている.そのひとつに
過剰生育の場合に主茎を剪定する摘芯技術があるが(林ら 2008)
,摘芯を実施しても無摘
芯区との倒伏程度に差が無い場合は,摘芯区で減収した結果も報告されている(垣内
2021)
.これらの既往研究の結果から,倒伏前に生育を評価し摘芯の実施判断をすること
が重要と考えられる.ダイズの倒伏については,主茎長や風速の影響を受けることが知ら
れている(Baker ら 2014,Raza ら 2020)
.風速の予測は難しいものの,主茎長が予測でき
れば将来的な倒伏の危険性を評価することができ,その上で摘芯の実施判断をすれば倒伏
防止と増収の両立が可能と考えられる.
一方で,生産現場においては,同一圃場内での生育差が生じる可能性が高い(多喜・鯨
2009,森下・石塚 2021)
.そのため,主茎長を指標とした倒伏予測については,面的に
主茎長を計測・予測することが理想的である.面的な生育診断手法としてはリモートセ
ンシングの活用が期待できる.しかし,ダイズを対象としたリモートセンシング技術は
発展段階であり,生産支援に繋がる確立された植生指数はまだ無いのが現状である.ま
た,本研究で計測対象とする主茎長との関係を示したものは見当たらない.
そこで,本研究では,主茎伸長モデルによる主茎伸長の予測と UAV リモートセンシン
グによる面的な主茎長推定を組み合わせることにより,ダイズにおける面的な倒伏予測法
を確立することを目的とした.

第2章

ダイズ倒伏における主茎伸長と風速の影響評価

本章では,将来的な倒伏予測法の確立のために,倒伏に対する主茎伸長と風速の影響を
倒伏時期別(莢伸長期(R3)に倒伏した早期倒伏と子実肥大期(R6)に倒伏した晩期倒
伏)に解析し各因子の影響度を明らかにすることで,倒伏予測のための倒伏角度モデルを
作成することを目的とした.
「早期倒伏」は第 6 葉期(V6)の主茎長が低く,開花期(R1)~R3 の主茎伸長量が大
きい主茎伸長パターンであったのに対し,「晩期倒伏」は「倒伏なし」と比較して V6 の主
茎長が低くて V6~R1 の主茎伸長量が大きく,R1~成熟期(R8)までの主茎長は高く推移
するという主茎伸長パターンであった.また,「晩期倒伏」の倒伏角度と V6~R1 の主茎伸
長量との間には正の関係(R2=0.70)があり,V6~R1 の主茎伸長量で倒伏角度を概ね説明
できることが示された(図 2-1)
.さらに,この単回帰分析に R1 以降の主茎長を説明変数

に加えた重回帰分析の結果,R6 の主茎長も倒伏角度に対して有意な正の影響を及ぼしてい
ることが明らかとなった(表 2-1)

以上より,倒伏に及ぼす主茎伸長の因子として本章で特定されたのは V6~R1 での主茎
伸長量と R6 の主茎長であることから(晩期倒伏の場合)
,この因子を予測できれば,晩期
倒伏の倒伏角度の予測が可能であり摘芯の実施判断に貢献できることが示された.よっ
て,今後は倒伏に関わる因子を予測する手法の確立が課題と考えられた.

第3章

ダイズにおける主茎伸長および葉齢モデルの作成

本章では,既報の主茎節数モデル(Nakano ら 2020)を応用して,倒伏予測に必要な変
数を求めるモデル(主茎伸長モデルと葉齢モデル)を作成することを目的とした.
V6~R1 の主茎伸長のモデル化では気温と日照時間を考慮した.日照時間をモデルに組
み込むことで,気温のみの場合のモデルと比較し,R2 が高く,RMSE は低くなり主茎長と
の当てはまりが良くなった(式 3-1)
(図 3-1).また,ピークの主茎長は R1 の主茎長から
推定できることを示した(式 3-2)
(図 3-2)
.さらに,主茎伸長モデル(式 3-1)と(式 32)の合成モデルにおける,年次または地域が異なるテストデータを用いた精度検証では
RMSE が 5.3 となり,生育期間中の気象条件が異なる中でも概ね精度良く推定できること
が明らかとなった(図 3-3)
.葉齢のモデル化については,主茎節数モデルから 2.5 を差し
引いたモデル(式 3-3)とすることで,RMSE が 0.5 の精度で推定できた(図 3-4,3-5)


𝑐

𝑀𝑆𝐿𝑖 = 1+𝑒𝑥𝑝{−𝑎

𝑛
2 ×(∑𝑖=1 𝑓(𝑇𝑖 ,𝐷𝑖 )−𝑏)}

(式 3-2)

𝑀𝑆𝐿𝑝𝑒𝑎𝑘 = 𝑎3 × 𝑀𝑆𝐿𝑅1 + 𝑏2
𝐿𝑁 =

𝑐2
1+𝑒𝑥𝑝{−𝑎4 ×(∑𝑛
𝑖=1 𝑓(𝑇𝑖 )−𝑏3 )}

(式 3-1)

− 2.5

(式 3-3)

第4章 ダイズにおける植被率を考慮した土壌調整植生指数による主茎長推定
法の作成
本章では,UAV リモートセンシングを活用した植被率を考慮した土壌調整植生指数
(SAVIvc)
(式 4-1)を提案し,面的な主茎長推定法を作成することを目的とした.
既報の植生指数(NDVI,SAVI,MSAVI)と SAVIvc において主茎長との関係を解析した
結果,R2 が最も高かった植生指数は本研究で提案した SAVIvc(R2=0.78,p<0.001)だった
(表 4-1)
.次いで,NDVI(R2=0.69,p<0.001)
,SAVI(R2=0.62,p<0.001)
,MSAVI
(R2=0.60,p<0.001)の順で高かった.SAVIvc と NDVI での回帰式の傾きを比較すると,
SAVIvc が 69.5,NDVI が 120.7 であり,SAVIvc の方が小さかった.また,その標準誤差は
SAVIvc が 5.1,NDVI が 11.1,95%信頼区間は SAVIvc が 59.2~79.9,NDVI が 98.4~143.0 だ
った.以上より,主茎長の推定精度は SAVIvc が最も高いことが示された.

SAVIvc={(NIR − Red)⁄(NIR + Red + Lvc )} × (1 + Lvc )

(式 4-1)

第5章 主茎伸長モデルと植被率を考慮した土壌調整植生指数を組み合わせた
面的なダイズ倒伏予測法の作成
本章では,第 2~4 章において作成した倒伏角度モデル,主茎伸長モデル,葉齢モデル,
植被率を考慮した土壌調整植生指数(SAVIvc)による主茎長推定法を組み合わせて,ダイズ
における面的な倒伏予測法を確立することを目的とした.
主茎伸長モデル(式 3-1)

(式 3-2)の合成モデルと SAVIvc(式 4-1)による面的な主茎長
推定による面的な倒伏予測では,RMSE=8.8 の精度で成熟期の倒伏角度を予測した(図 5-1)

この結果は,倒伏角度モデル(式 5-1)
,主茎伸長モデル(式 3-3),
(式 3-4)
,葉齢モデル(式
3-5)
,SAVIvc(式 4-4)による主茎長推定が大きな誤差なく予測・推定できていたものと推
察する.風速が大きい条件では,予測結果よりも実際の倒伏角度が大きくなったが,強風の
影響を受けなかった年次,地域,圃場においては精度良く倒伏角度を予測できており,主茎
伸長モデルと植被率を考慮した土壌調整植生指数(SAVIvc)を組み合わせることにより,面
的にダイズの倒伏を予測できる可能性が示された.

𝐿𝑜𝑔𝑖𝑡𝜃𝐿 = 0.04𝑀𝐸 + 0.03𝑀𝐿 − 4.77

第6章

(式 5-1)

総括

本研究では,既往研究を基に新たな倒伏角度モデル,主茎伸長モデル,葉齢モデル,主茎
長推定を目的とした UAV リモートセンシングでの植生指数(SAVIvc)を作成してそれらを
統合することにより,ダイズにおける面的な倒伏予測法を示した.既往研究ではダイズにお
ける生育モデルとリモートセンシングを統合した倒伏予測に関する報告は見当たらない.
本倒伏予測法を活用した対策によって,今後のダイズ生産における収量品質の向上に貢献
できるものと考える.
一方で,倒伏角度が主茎伸長量によって予測可能であることが明らかとなったが,風速
の影響も考慮しなければいけないことが示された.しかし,将来的な風速の予測は困難で
あることから,風速が大きい地域では在来品種のみならず,耐倒伏性品種によるリスク分
散も検討する必要があると考える.また,本倒伏予測法は,
「ミヤギシロメ」のみを調査
対象としたものであり,他品種での適用性については今後検証する必要がある.しかし,
Kumagai et al(2021)の報告では,倒伏しやすい「オクシロメ」は他品種に比べて開花盛
期(R2)と子実肥大期始期(R5)の主茎長が長く葉面積指数(LAI)が大きかったとして
おり,本研究で倒伏に対する影響度が高かった主茎長の生育ステージと概ね一致してい
る.よって,本倒伏予測法を他品種へ応用できる可能性はあるものと考えられる.

0.8

coefficient of determination (R2)

***

0.7

Early lodging

0.6

Late lodging

0.5
0.4

***

0.3
0.2

*

0.1
0
V6~R1

図 2-1

R1~R3
R3~R6
Between growth stages

R6~R8

生育ステージ間の主茎伸長量と倒伏角度の間の決定係数(R2)

***,*は 0.1%,5%水準で有意であること,未表記は有意でないことを示す.

表 2-1 「晩期倒伏」における倒伏角度の重回帰分析結果(2)

Explanatory variable Standard β
Multiple
regression
model

Main stem
length
stage

Main stem
elongation
V6~R1

Main stem
length

VIF
Main stem
elongation

Main stem
length

coefficient of
determination

Model formula

2

(R )

V6~R1
0.70 ***

Logitθ L =0.05M E -2.71

3.47

0.70 ***

Logitθ L =0.06M E -0.003M L -2.57

2.69

2.69

0.74 ***

Logitθ L =0.04M E +0.019M L -3.98

0.35 *

2.02

2.02

0.77 ***

Logitθ L =0.04M E +0.030M L -4.77

-0.02 ns

4.45

4.45

0.70 ***

Logitθ L =0.06M E -0.001M L -2.65

Model 1'

-

0.84 ***

-

Model 2'

R1

0.87 ***

-0.03 ns

3.47

Model 3'

R3

0.61 **

0.29 ns

Model 4'

R6

0.59 **

Model 5'

R8

0.85 **

-

-

***,**,*は 0.1%,1%,5%水準で有意であること,ns は有意でないことを示す.LogitθL は倒伏角度の Logit 変換値,ME は主茎伸長量,ML は
主茎長を示す.VIF は独立変数間の多重共線性を検出するための指標であり,VIF>10 のとき多重共線性があるとされる(吉田 1987)


𝑀𝑆𝐿𝐷𝐴𝐸 =

𝑐
1 + 𝑒𝑥𝑝{−𝑎2 × (∑𝐷𝐴𝐸
𝑖=1 𝑓(𝑇𝑖 , 𝐷𝑖 ) − 𝑏)}

R2=0.94 (p<0.001)
RMSE=4.2

𝑀𝑆𝐿𝐷𝐴𝐸 =

𝑐
1 + 𝑒𝑥𝑝{−𝑎2 × (∑𝐷𝐴𝐸
𝑖=1 𝑓(𝑇𝑖 ) − 𝑏)}

R2=0.88 (p<0.001)
RMSE=5.7

図 3-1 気温・日照時間関数 f (Ti, Di)および気温関数 f (Ti)の積算値と主茎長の関係
上段が気温・日照時間関数 f (Ti, Di),下段が気温関数 f (Ti)を示す.

𝑀𝑆𝐿𝑝𝑒𝑎𝑘 = 𝑎3 × 𝑀𝑆𝐿𝑅1 + 𝑏2

R2=0.95 (p<0.001)

図 3-2 R1 の主茎長と主茎長ピークの関係

Osaki_5/25/2022
RMSE=2.6

Osaki_7/6/2022
RMSE=9.1

Kurihara_6/23/2022
RMSE=4.3

図 3-3 主茎伸長モデルの精度検証
DAE は出芽後日数を示す.上段は 2022/5/25 播種の大崎市,中段は
2022/7/6 播種の大崎市,下段は 2022/6/23 播種の栗原市を示す.

25

Measured Main stem node number
Main Stem number Model
Leaf number Model

20

20

R2=0.96 (p<0.001)

15

15

RMSE=0.9

10

10

5

Leaf number

Main stem node number(plant-1)

25

5
𝑐2
𝐿𝑁 =
− 2.5
1 + 𝑒𝑥𝑝{−𝑎4 × (∑𝐷𝐴𝐸
𝑖=1 𝑓(𝑇𝑖 ) − 𝑏3 )}

0

0
0

10

20
30
Σ f (Ti)

40

50

図 3-4 気温関数 f (Ti)の積算値と主茎節数の関係および仮定した葉齢モデル
プロットは実測した主茎節数,黒実線は主茎節数モデル,赤実線は主茎節数
モデルから 2.5 差し引いた葉齢モデルを示す.

RMSE=0.6

図 3-5 葉齢モデルの精度検証

表 4-1 各植生指数における主茎長の回帰式とパラメータ

Main Stem Length of the Regression Line
Slope
95% Confidence
Interval

2

R

SAVIvc 0.78 ***

Estimate ± SE

69.5 ± 5.1

Intercept

Lower
Limits

***

59.2

Upper
Limits

79.9

Estimate ± SE

95% Confidence
Interval
Lower
Limits

Formula

Upper
Limits

14.1 ± 2.4

***

9.2

19.0

y = 69.5x +14.1

143.0 −51.5 ± 9.0

***

−69.4

−33.5

y = 120.7x − 51.5

NDVI

0.69 *** 120.7 ± 11.1

***

98.4

SAVI

0.62 ***

78.6 ± 8.5

***

61.5

95.6

13.1 ± 3.6

***

5.8

20.4

y = 78.6x +13.1

MSAVI 0.60 ***

63.1 ± 7.1

***

48.9

77.3

20.3 ± 3.0

***

14.3

26.3

y = 63.1x +20.3

***は 0.1%水準で有意であることを示す.

RMSE=8.8

D

A

D

A

A

E

D
A

A, F

図 5-1 倒伏角度の予測値と実測値の関係
図中のプロット脇のアルファベットは Field ID を示す.

...

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