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大学・研究所にある論文を検索できる 「農家圃場における現地計測データに基づいたダイズ生産性評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

農家圃場における現地計測データに基づいたダイズ生産性評価

山本, 修平 東北大学

2023.03.24

概要

論文内容要旨

農家圃場における
現地計測データに基づいた
ダイズ生産性評価

東北大学大学院農学研究科
資源生物科学専攻
山本修平

指導教員
本間 香貴 教授

日本のダイズ収量は低い状況が続いており,安定多収化を実現することが求められている.低
収量の理由として,天候不順,土壌水分の過不足,病気,害虫などの様々な収量制限要因が存在
し,収量の年次変動や圃場内変動を引き起こしていることが挙げられる.こうした収量制限要因を
軽減したり,除去したりするための研究開発が行われ,新しい栽培管理技術も登場しているものの,
農家圃場に存在する収量制限要因と収量との関係性の評価が不十分であるため,技術の効果的
な適用が妨げられてきた.
近年,農家が栽培管理している最中であっても,作業を制止したり植物体を破壊したりせずに圃
場内における多地点,経時的な計測を可能とする非破壊計測機器が登場してきた.さらに,計測し
た多くのデータの解析を行うための数値モデル,高性能なソフトやアプリケーションも充実している.
こうしたデータ計測方法,解析環境を利用することで,収量制限要因を数値的に推定できる可能
性がある.
そこで,本研究では,宮城県仙台市沿岸部に位置する農家圃場を対象に,データ計測に基づ
いて収量制限要因と収量との関係を明らかにすることを目的とした.収量制限要因は着眼,分類に
よって無数に想定可能であるが,本研究では最も主要で対策の重要性や有効性が高いと考えら
れる LAI(Leaf Area Index: 葉面積指数)動態,黒根腐病,土壌水分変動を想定した.
LAI は,ダイズ生育の良否を判定する際に最もよく用いられる生育指標のひとつであり,その増
加や停滞,落葉の速度や時期などの変動によって収量に影響を与える.しかし,生育期間中を通
した LAI の推移(LAI 動態)と収量との関係を解析した事例はほとんどない.そこで,2017 年から
2020 年にプラントキャノピーアナライザーを用いて計測した LAI に対して,指数関数と冪関数を組
み合わせた成長関数:
L = a exp (b T) (1 – T / c) d
(L は LAI,T は基準温度 8 °C を日平均気温から差し引いて播種日から積算した有効積算温度,
a,b,c,d は当てはめのための係数)
を当てはめ,推定された LAI 動態と収量との関係性を評価した.成長関数は計測値によく適合し

ており,決定係数 R2 = 0.82 ~ 0.90,二乗平均平方根誤差 RMSE = 0.54 ~ 0.69 であった.こうして推
定された LAI 動態を関数解析することにより,動態を代表する 7 個の LAI 特徴量を数値化した(第
1 図).

第 1 図.LAI 計測値への成長関数の当てはめと関数解析および LAI 特徴量の推定.図中の数字
は,①LAI 最大値のときの積算温度,②LAI 最大値,③最大増加速度のときの積算温度,④最大
増加速度,⑤最大増加速度のときの LAI,⑥LAI 最大値 / 2 のときの積算温度,⑦LAI 最大値 /
2 のときの減少速度を表す.

2017 年から 2020 年までの収量の平均値と標準偏差はそれぞれ 162.0 ± 40.9 g m-2,136.1 ± 34.8
g m-2,254.7 ± 38.4 g m-2,256.0 ± 58.7 g m-2 となり,年次間および圃場内で変動した.LAI 特徴量
を用いた解析を行った結果,年次間では LAI 最大値が大きくなるほど収量が低下する,また LAI
最大値のときの積算温度が大きいほど収量が増加するという傾向があり,前者からは過繁茂による
減収,後者からは受光日射量増加による増収が示唆された(第 2 図).

第 2 図.LAI 最大値および LAI 最大値のときの積算温度と収量との関係.エラーバーは標準偏
差を表す.

LAI 特徴量のひとつである LAI 最大値と収量との間には,2017 年と 2020 年で相関係数がそれぞ
れ r = 0.41,0.40 の正の相関関係があり,年次によっては収量の圃場内変動の評価に使用可能で
あることが示唆された.ただし,本研究で提案した成長関数は,LAI が生育中期に大きく増減せず
停滞するような場合を描くことができず,LAI がほぼ一定の値で数日間推移した場合の影響は評
価しきれなかった.また,LAI 特徴量だけでは収量の圃場内変動の評価は不十分であり,他の収
量制限要因の考慮が必要であることが示唆された.
近年特に問題視されている収量制限要因として,ダイズ黒根腐病が挙げられる.罹患したダイズ
は 8 月中下旬から葉色や葉面積の早期低下を引き起こして収量や品質を低下させるほか,枯死に
至った場合は収穫不可能となる.1968 年に発見された比較的新しい病害であり,発生地域も拡大
してきたが,発生助長要因は明らかになっていない.農家圃場における黒根腐病害を扱った研究
は非常に少数であることから,黒根腐病害の発生を観測した 2018 年と 2020 年に,地上計測した
黒根腐病枯死率と収量との関係性の評価に加え,UAV(Unmanned Aerial Vehicle: 通称ドローン)
を用いたリモートセンシングによる圃場全体の病害発生有無の推定方法を検討した.両年とも 10
月 3 日に畝上 2 m の範囲内を対象に目視計測した枯死率と収量との間に負の相関関係があり,
黒根腐病による減収が示唆された(第 3 図).回帰直線からは,2018 年と 2020 年で,黒根腐病害
によって収量がそれぞれ平均的に 17.5 %,12.5 %低下したことが推定された.

第 3 図.黒根腐病害による枯死率と収量との関係.点の色は目視計測を行った 2 m 範囲内に含ま
れる第 4 図中の 1 m メッシュの病害発生有無と対応している.
UAV にはマルチスペクトルセンサーを搭載しており,可視~近赤外光域の反射率画像を取得した.

教師あり分類方法のひとつであるランダムフォレスト分類を用いて,圃場全体を対象に黒根腐病害
発生有無を 1 m メッシュ状に推定すると,8 月下旬から 9 月中旬にかけて,時期が進むにつれて
圃場内の病害が拡大する様子を可視化することができた(第 4 図).

第 4 図.UAV 画像と教師あり分類によって可視化された黒根腐病害の拡大.赤色のメッシュが病
害発生有,白色のメッシュが病害発生無を表す.

両年とも,9 月中旬に病害発生有に分類された場所と 10 月 3 日に枯死率が高かった場所が一致
する傾向があり(第 3 図),UAV リモートセンシングと教師あり分類の併用により黒根腐病害による
減収地点や減収程度の推定が可能であることが示唆された.黒根腐病はその特徴的な葉色,葉
面積の減衰や症状の発生時期から他の病虫害と区別がしやすいため,UAV による画像取得と教
師あり分類の併用は有効な推定方法であると考えられる.運用も容易であるため,広域での腐病
害の発生状況の把握へと展開可能であると考えられた.また,両年で病害の拡大パターンが異な
ったことから,発生助長要因も異なったことが示唆されたが,黒根腐病は 2 次感染の可能性が低い
こともあり,具体的な特定にまでは至らなかった.
黒根腐病害は土壌水分が過剰な場合に発生しやすいことが報告されているが,農家圃場のよう

に土壌水分が時々刻々と変動する場合に,黒根腐病害による減収と土壌水分変動による減収を
区別して評価した事例は見当たらない.そこで,2017 年から 2022 年に計測した土壌体積含水率と
水収支モデルを利用することで,土壌水分変動を駆動する土壌特性を推定し,収量および黒根腐
病害との関係を評価した.通常,水収支モデルは降水量,潅水量,蒸発散量,浸透流出量の足し
引きから有効土壌水分含量や土壌体積含水率を推定することに用いられるが,本研究では TDR
土壌水分計を用いて計測した土壌体積含水率に水収支モデルを当てはめて逆解析を行い,モデ
ルパラメータである a(浸透流出のしやすさ),AWHC(有効土壌水分の保持能力),Sd(有効土層
の厚さ)を圃場内の場所ごとに固有の土壌特性として推定した(第 5 図).

第 5 図.土壌体積含水率計測値への水収支モデルの当てはめと土壌特性の推定.

計測値に対して水収支モデルの出力値はよく適合しており,R2 = 0.53 ~ 0.89,RMSE = 0.31 ~ 0.11
であった.したがって,推定されたモデルパラメータは,土壌特性として妥当な値であると判断でき,
収量との関係を解析した(第 6 図).

第 6 図.収量と土壌特性との関係.

2017 年,2021 年,2022 年は各土壌特性のうち,Sd,a,Sd とそれぞれ正の相関関係があり,2019
年には相関はなかったが,AWHC が小さくなった場所で減収する傾向があった.本研究で数値的
に推定した土壌特性は,実際の土壌の組成や物理性などと関係していると考えられ,排水性改善
技術の有効利用に役立つ情報となる可能性が示唆された.一方,2018 年と 2020 年はいずれの土
壌特性も収量との関係は認められず,この 2 年は黒根腐病害が発生した年次であったことから,土
壌特性およびモデル出力値である日々の土壌体積含水率と枯死率との関係を解析したところ,い
ずれも明瞭な関係は認められなかった.以上から,農家圃場においては黒根腐病害の発生助長と
土壌水分変動が必ずしも関係するわけではないことが示唆されたが,土壌水分変動の幅や一定

値を超える頻度,他の土壌の理化学性や黒根腐病菌密度を含めた更なる検討が必要であると考
えられた.
以上のように,農家圃場において計測したデータに基づき,複数の解析手法を用いることで,主
要な収量制限要因として LAI,黒根腐病害,および土壌水分変動と収量との関係性を評価した.
本研究で行った評価は今後,技術適用による収量改善を行っていくための有益な情報として活用
可能であると考えられる.一方,農家圃場において普遍性のある収量制限要因を絞り込んで特定
することは難しく,包括的なデータ取得と解析の必要性が示唆された.本研究で得られた成果を作
物生育シミュレーションモデルの性能向上や,リモートセンシングを用いた省力的な情報取得との
融合へと展開していくことで,新たな営農支援技術の開発や農家自身で行う栽培管理の最適化へ
貢献することが期待される.

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