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大学・研究所にある論文を検索できる 「Evolution of Low- and Intermediate-mass Stars with Physics beyond the Standard Model」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Evolution of Low- and Intermediate-mass Stars with Physics beyond the Standard Model

森, 寛治 東京大学 DOI:10.15083/0002006679

2023.03.24

概要

論文審査の結果の要旨
氏名

森 寛治

素粒子標準模型において質量が 0 とされていたニュートリノの振動が実験的に確認さ
れ、ニュートリノには質量があることが実証された。ニュートリノに質量がある場合、ニ
ュートリノが磁気モーメントを持つことが予言されている。ニュートリノが磁気モーメ
ントを持つと新たなニュートリノ生成反応が加わることになり、ニュートリノによるエ
ネルギー損失が増大し、恒星の進化に影響を与えることとなる。本論文では、このニュー
トリノの磁気モーメントに加え、余剰次元を考慮した場合の重力子の影響も含めた、素粒
子標準模型を超えた物理が恒星の進化へ与える影響が調査されている。
本論文は 4 章からなる。第1章はイントロダクションであり、第2章と第3章に本論
文の結果が掲載されている。第4章に、本博士論文全体のまとめが掲載されている。以下
に、第 1 章から第3章までの具体的な内容をまとめる。
第 1 章では、宇宙物理学が基礎物理の実験場として果たす役割を概観した上で、本論
文で検討する素粒子標準模型を超える効果が紹介されている。まず 1 つ目の効果として、
質量が 0 でないニュートリノでは磁気モーメントも 0 でなくなることが説明され、磁気
モーメントの大きさとニュートリノ生成は理論模型に依存して不定性が大きいことが論
じられている。もう一つの効果として、重力が他の 3 つの力に比べて非常に弱いことを
説明するために導入された余剰次元の影響が紹介されている。大きな余剰次元が存在す
る場合、重力子の生成が新たな恒星からのエネルギー損失として働き、上述したニュート
リノの磁気モーメントと同様に恒星進化に影響を与えることが指摘されている。
第2章では、これらの効果が太陽質量の 7-10 倍程度の中質量星の進化に与える影響が
調べられている。一般に恒星では、進化の後期段階で半径が膨張するとともに表面温度が
下がり赤色巨星へと進化するが、これらの中質量星ではその後半径が収縮し表面温度が
上昇する「青いループ」と呼ばれる期間を経験する。宇宙の標準光源としても重要なセフ
ァイド変光星はこの青いループ期にある恒星の一種である。青いループ期の恒星では、中
心のヘリウムコアでの核融合反応によるコアの膨張に呼応して外層が収縮し、これが表
面温度の上昇の原因であると考えられている。対して余分なエネルギー損失があるとコ
アが十分膨張できず、逆に外層は大きいままのため、青いループ期を経ることはないと指
摘されている。
このことを踏まえ、ニュートリノが磁気モーメントを持つ場合と大きな余剰次元に起
因する重力子が影響する場合のそれぞれの効果を恒星進化コードに導入し、青いループ
期への影響を定量的に調査している。観測によりセファイド変光星が多数見つかってい
ることから青いループ期の存在は明らかであり、青いループ期が消失しないことが観測
からの制約となる。その結果、ニュートリノの磁気モーメントに関しては、その値が(4 –
1

20)×10-11μB を超えることが禁止されるという制限を得た。なおここで、μB はボーア磁
子である。また余剰次元の大きさから決まるエネルギースケール M S が 2–5TeV 以上で
あるという条件が求められた。これらの制限は、これまでに他の実験や天体から得られて
いる条件よりは緩いものであるが、中質量星の進化から独立に求めたものでありその意
義は大きい。
第3章では、ニュートリノの磁気モーメントの効果に限定して、太陽質量程度以下の小
質量星の表面のリチウム組成に対する影響が調査されている。小質量星は主系列星から
赤色巨星への進化にともない、表面対流層がより深部へと拡大していく。リチウムは高温
な恒星内部では壊れてしまうため、表面対流層拡大による希釈により赤色巨星に進化す
る段階で表面のリチウム組成は減少することが知られているが、観測によると赤色巨星
段階中期以降では理論予測よりもさらに減少することが分かってきている。この理論と
観測の不整合を解消する機構として、水素燃焼殻における平均分子量の逆転に起因する
と考えられる熱塩混合が提唱されている。この物質混合によりリチウム組成の減少は説
明できる可能性があるが、赤色巨星以後の水平分枝星では、理論計算から得られる値を大
きく上回るリチウムの表面組成量が観測され、新たな問題となっている。連星系を成す場
合の潮汐力による混合や、赤色巨星段階の最後に起きるヘリウムフラッシュによる混合
などの複数の機構がこれまで考えられてきているが、決定打となるものはない。
この現状に対して本論文では、熱塩混合によって水素燃焼殻上部で生成されたベリリ
ウム 7 の汲み上げとベータ崩壊によるリチウム 7 生成の効果(いわゆるキャメロン−ファ
ウラー機構)を効率的に引き出す機構として、ニュートリノの磁気モーメントの影響が調
査されている。ニュートリノの磁気モーメントのために、より多くのエネルギーがニュー
トリノにより抜けていくと、ヘリウム中心核の点火が遅れるためにその質量は大きくな
る。ヘリウム中心核の成長に伴って外層は低密度になるため、物質の拡散的な混合の効率
が向上し、深部で生成されたベリリウム 7 のより多くが熱塩循環により上層へと運ばれ、
表面リチウム組成を上昇させる。恒星内部構造の進化計算により、ニュートリノ磁気モー
メントの値が(2 – 5)×10-12μB 程度あれば内部での物質混合が促進され、理論と観測の不
一致を解消できることが示されている。なお、最近の研究からは、球状星団内の赤色巨星
の光度に基づきニュートリノの磁気モーメントの上限値として 1.2×10-12μB という制限
が得られているものの、現状では不定性が大きい。仮にこの制限値が確定的となった場合
には、ニュートリノの磁気モーメントだけではリチウム 7 過剰を説明できないが、アク
シオンの影響など他の機構と合わせることで理論と観測の不一致を解消する可能性が依
然残っていると論じられている。
なお、本論文第2章は、Baha A. Balantekin 氏・梶野敏貴氏・Michael A. Famiano 氏
と、第3章は日下部元彦氏・Baha A. Balantekin 氏・梶野敏貴氏・Michael A. Famiano
氏との共同研究であるが、いずれも論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったも
ので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。
この研究は、標準理論を超えた素粒子理論模型が恒星進化に与える影響を精査し、素粒
子模型に対しても独自の制限を付けたという点で意義があり、博士(理学)の学位を授与
できると認める。

2

参考文献

Yang, S.-Q., Zhan, B.-F., Wang, Q.-L., et al. 2012, Physical Review Letters, 108, 081101

Zaidi, M. H. 1965, Nuovo Cimento A Serie, 40, 502

Zyla, P. A., et al. 2020, Progress of Theoretical and Experimental Physics, 2020, 083C01

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