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大学・研究所にある論文を検索できる 「Analysis of Psychiatric disorder-related behaviors of Importin α deficient mice」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Analysis of Psychiatric disorder-related behaviors of Importin α deficient mice

櫻井, 航輝 大阪大学

2022.03.24

概要

Importin α (別名: Karyopherin α; Gene Symbol: KPNA)ファミリーは、細胞質に存在するカーゴタンパク質に含まれる古典的核移行シグナルを認識・結合し、Importin βと共役して核内への輸送を行う核輸送因子群である。ヒトで7種類、マウスで6種類が存在するImportin αの各サブタイプは、それぞれ異なるタンパク質を輸送対象とすることにより転写因子の核局在量を調節し、さまざまな生理現象を制御することが知られている。なかでもKPNA1 (Mouse Importin α1)やKPNA2(Mouse Importin α2)はES細胞において多能性維持因子の核移行制御に関与し、神経細胞の分化に重要な役割を果たすことが知られている。また、KPNA4 (Mouse Importin α4)やその近縁のKPNA3(Mouse Importin α3)はNF-κBファミリー転写因子であるp65 (RelA)を核輸送することが知られており、炎症の制御や免疫関連病態での役割について以前より注目されていた。主要な転写因子の核輸送には複数の核輸送経路が関与しており、個別のImportin αサブタイプの生理的機能についての情報は未だ限られている。

近年の研究において、ヒトの統合失調症有病者においてKPNA1遺伝子におけるde novo変異が見つかった他、Kpna1 KOマウスの不安様行動を評価した研究ではKOにおいて不安様行動が減少するということが報告されている。また、統合失調症有病者の死後脳を用いた研究でKPNA4 (Human Importinα3)やNF-κB下流遺伝子の発現量低下などが見られ、加えてKPNA4の発現量を減少させる特定のSNP(一塩基多型)が有病者に多く見られることがわかり、脳内でのKPNA4発現量の減少によるp65核輸送量の減少がNF-κB経路の活性低下を介し統合失調症の病態に関与している可能性が示唆された。しかしながら、このような報告によりImportin αファミリー遺伝子のサブタイプ毎のヒト病態への関与が注目されているにもかかわらず、発現量変化が異常な行動や心理状態を引き起こすメカニズムは未だ明らかにされていない。さらに、ヒトの精神疾患発症には遺伝因子の他にストレスなどの環境因子も関与することが知られており、有病者を対象とした調査ではこれら因子により発症に至る過程について検証することは不可能である。

そこで、生体内におけるImportin αファミリーの減少が行動や脳機能にどの様な影響を及ぼすのかを検証するため、特定のImportin αサブタイプを欠損させたマウスラインを対象に行動指標を評価できる行動試験バッテリーを実施した。

Kpna1を欠損させたマウスについては不安様行動の減少と聴覚性驚愕反応の増強が以前に報告されており、バッテリーにより幅広い行動指標を測定することにより詳細に行動特性を探索した。また、他の遺伝マウスモデルにおいて環境ストレス因子付加により行動異常が増悪し、より幅広い行動指標において異常が見られることが知られている。統合失調症に関与する環境因子の1つである思春期の社会的ストレスはマウスにおいても一定の期間孤立飼育することによりモデル可能で、ここでは遺伝因子としてKpna1を欠損しているマウスに孤立飼育ストレスを付加し、ヒトの病態モデルとして適した状態のマウスに行動試験バッテリーを実施した。行動試験バッテリーから、孤立飼育ストレス単体の影響としてOFTにおける不安様行動の増大(中央滞在の減少)が引き起こされることが分かった。逆に、Kpna1欠失単体の影響として、EPMにおける不安様行動の減少(オープンアーム探索の増加)、新奇物体認識試験における短期認識記憶の障害が見られた。さらに、Kpna1欠損と社会的孤立ストレス双方が悪化させる行動指標として、抑制性回避試験における嫌悪記憶、プレパルスインヒビションテストにおける感覚運動ゲーティング、強制水泳試験における無動の各指標が挙げられた。最後に、孤立飼育Kpna1 KOマウスにおける遺伝×環境交互作用は、抑制性回避試験における嫌悪記憶と強制水泳試験における無動において見られ、これらの実験におけるWT-KO間の有意な差は、社会的孤立ストレスを与えた場合にのみ生じた。

Kpna4 欠損マウスラインについては行動異常などの報告が今までなされていないため、社会的ストレスなどの環境因子を付加せずに行動試験を実施した。行動試験バッテリーの結果、Kpna4 欠損マウスにおいて、不安様行動の増強、嫌悪学習の障害、社会性低下、プレパルス抑制 (PPI)の減少など、ヒトの統合失調症と同様の行動異常が見られることがわかった。さらに、Kpna4 KOマウスに見られる統合失調症様の行動異常を引き起こす分子メカニズムを明らかにするため、行動試験バッテリー実施後のマウス脳組織より高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて部位別に統合失調症と関連の深いドーパミン、セロトニンなどのモノアミン神経伝達物質とその代謝物10種を定量した。また、Kpna4 の欠損が細胞レベルの炎症制御に関わるメカニズムを検証するためCRISPR-Cas9法を用いてKpna4欠損Neuro2A細胞ラインを作成し、炎症性サイトカインの発現量をqPCRによって測定した。

本研究により、精神疾患との関連が示唆されている遺伝子であるKpna1、Kpna4 それぞれを欠損したマウスがヒトの精神疾患様行動異常を示すことが明らかとなった。これらのマウスの行動異常をヒト疾患モデルとしてその背景にある分子動態についてさらに解明することで未だ明らかになっていないImportin αファミリーの行動制御のメカニズムや精神疾患の発症過程についての知見につながる可能性がある。